見出し画像

メタバース(MetaMe)上のギャラリーで、美術作品鑑賞ワークショップを。そこから見えたこと。

メタバースで、対話型鑑賞をやってみました!今後、メタバースでの作品鑑賞ワークショップに取り組む方の参考になるように、あれこれ書いておきます。

書き手:2018年から対話型鑑賞(ACOP)を学び、ZoomやClubhouseなど、様々な場で鑑賞ワークショップを実施している。昔、オンラインRPGを開発していて、ユーザビリティテストの経験もあり。
読み手(の想定):メタバースに興味のあるワークショップデザイナーおよび対話型鑑賞ファシリテーター

イベント紹介ページはこちらから

MetaMeはこちらから


きっかけ

1月末に瀬戸コレ(瀬戸内アートコレクティブ)の片倉さんから、「メタバース上での対話型鑑賞を検討しており、相談させていただきたい」と連絡いただく。(瀬戸コレさんとは、以前Zoomを使ったオンライン対話型鑑賞をご一緒させていただいていた。)

2月下旬にベータリリース予定のメタバースアプリ上で、3月に対話型鑑賞を実現させたい。実際にメタバースアプリを触ってみないと、実現可否は判断できないけれど、なんとか実現に持っていきましょう。ということで、メタバースで対話型鑑賞を実施することが決まる。

相談いただいた週に、いただいた情報から想像を膨らませて書いたイベント紹介文はこんな感じ。
「メタバースのHAKOBUNEビルで、瀬戸内作家の現代アート作品を、みんなでおしゃべり鑑賞でたのしみ、そしてつながる」
”つくる”を伝え届ける文化拠点「HAKOBUNEビル」で、地域と瀬戸内作家の現代アートを”つなぐ”「瀬戸内アートコレクティブ」参加作家による作品展示。この場に集ったみんなで、様々な作品との出会いを味わい、ひとつの作品をおしゃべりを通して鑑賞して、場や作品そしてみんなと”つながる”。当日はゲストで、HAKOBUNEビルや瀬戸内アートコレクティブの人に加えて、瀬戸内作家が参加するかも。おしゃべり鑑賞のファシリテーターは、メタバースが身近で、対話型鑑賞を京都芸術大学の講座で学んでいます。美術作品の知識や鑑賞経験はなくても大丈夫です。お気軽にご参加ください。

メタバースとはなにか?

メタバースを扱うにあたって、MetaMeがメタバースなのか?を考えていました。
メタバース進化論のメタバースの7つ要件で、MetaMeを評価すると以下のようになります。

〇空間性:三次元空間は表現されている
〇自己同一性:人型という制約はあるが、着せ替えなどでアバターを通して自己表現ができる。
?大規模同時接続性:ここは大規模同時接続をしないと評価できない。現時点だと、大規模同時接続により通信負荷より前に、画面描画が限界を迎えそうです。
✕創造性:現時点だと、ユーザーが世界に創作物を持ち込むことはできない。ここはこれからに期待。作家さんが自由に作品展示できるようになると、色んなことが起こりそう。
✕経済性:ここも現時点だと、仮想通貨やNFTのやりとりはできない。
△アクセス性:スマホとPCには対応しているけど、ARやVRへの対応はこれからかな。
✕没入性:ARやVRには対応していない。

メタバースでワークショップが実現できるのか?

2/21にMetaMeのβ版がリリースされて、動作確認していた時に以下のような懸念点が出てきていました。

  • 移動とカメラの操作の難しさ。3Dゲームに触れている人には馴染みやすいUIですが、不慣れな人には特にカメラ操作に慣れが求められます。

  • 作品鑑賞ができるか?視点モードが2つあり、一人称視点に切り替えると作品が大きく画面に映せます。ただ作品とカメラの間に、他のユーザーが映り込むと鑑賞が困難になります。カメラのズーム機能に加えて、遮蔽物を見えなくする配慮が必要になるでしょうか。スマートフォンの画面の大きさにも影響を受けます。

  • BGMの音量が大きく、対話の邪魔となってしまう。

このままだとワークショップ実現が困難である可能性が感じられたので、急遽ワークショップ実現のための流れテストを実施することにしました。ワークショップの流れを辿りながら、ユーザビリティの懸念点を洗い出して、ワークショップ実現可否を判断するために。

ワークショップ実現のための流れテストで、用意していたテストシナリオと検証ポイントと想定トラブルはこのようなもの。

  1. WS開始前に全体でチャットで声がけ

    1. 想定トラブル:HAKOBUNEビルの場所がわかりません

  2. 受付:フレンド登録&グループ追加&グループ通話テスト

    1. 検証ポイント

      1. 問題なくみんなHAKOBUNEビルにたどり着けること

      2. 問題なくフレンド登録&グループ追加&グループ通話テストが進められること

      3. ここにどれくらい時間を要するか?10分で足りるか?

    2. 想定トラブル

      1. 参加者のマイクとスピーカーが動作しない →チャットでユーザーサポートにヘルプ

      2. 参加者がHAKOBUNEビルに入れない →チャットで入り方を案内

      3. 参加者のマイクから雑音が入る →ミュートの使い方を案内する

  3. 以降、ワーク内容に沿って検証ポイントと想定トラブルを用意してました

ワークショップ実現のための流れテストを実施してみると、ワークショップに入る前の段階で、グループへのユーザー追加やグループ通話に多くの問題が出ていました。見えてきたのは以下のようなもの。

  • BGM音量の調整ができない → BGM音量が大きく対話の邪魔になってしまう。イヤホンを使ってないと、ユーザーのマイクからBGMが聞こえてくる。

  • グループ機能に課題が多い:グループ参加者の一覧が見れない、作成済みグループにユーザー追加ができない、フレンド登録しないとグループにユーザー追加ができない、グループ通話が機能しないことがある

この問題に対処するため、本番ではBGMをOFFにする機能と、HAKOBUNEビルに入ると自動でグループ通話が始まる機能が実装されました。そしてまだまだユーザビリティに懸念があり、様々なアプリトラブルが懸念されたので、ユーザーサポートができる方にも参加いただくことにしました。
加えて、作品画像の別タブ表示がスマホ対応していないため、本番はPCでの実施となりました。

ちょっとした教訓ですが、リリースされたばかりのアプリでワークショップをする際は、まずワークショップが実現できるか?の検証として、ユーザビリティテストをしましょう。ひさしぶりのユーザビリティテストでした。(UXデザインやQAテストなどの経験のない方は、経験のある人を頼りましょう)

どんなワークショップをやったのか?

ワークショップのプログラムは以下のような内容でした。

  1. イントロ 10分

    1. 今日の流れ&ファシリ紹介&WSの注意事項

      1. BGMをOFFにする方法を案内

      2. 音声参加 or チャット参加を確認(ここは最終回のみ)

    2. HAKOBUNEビル紹介 → HAKOBUNE岸本さんがいらっしゃる時はHAKOBUNEの紹介をしていただく

    3. 瀬戸内アートコレクティブ紹介 → 片倉さんから瀬戸コレの紹介をしていただく

  2. チェックイン 10分

    1. チャットチェックイン → チャットに今の気持ちを書き込んでもらう → チャットを読み上げる

    2. 気になる作品を選ぶ → HAKOBUNE内に展示されている10名の作家の作品を見て回ってもらい、気になる作品の前で立ち止まってもらう。一人ひとりに作品を選んだ理由を聞く。

      1. チャットウィンドウを閉じないと移動しづらいので、そこを案内

  3. 対話型鑑賞 20分

    1. 作品鑑賞方法のレクチャー:作品画像の静止画を別タブで開く方法を伝える、カメラを一人称視点に切り替える方法を伝える(これはキムさんの鑑賞タイミングから追加)

  4. 作家さんサプライズ登場 5分

    1. 近くで対話型鑑賞を聞いておいていただき、対話内容に触れてもらいつつ、作品紹介をしていただく(Zoomでやっていたオンライン対話型鑑賞と同じ組み立て)

  5. チェックアウト 10分

    1. 一人ひとりに感想を聞いていく

計3日間、各1時間、計6回実施していました。
扱った鑑賞作品は2作品で、作品の作家さんに参加いただいてました。
1日目:午前 高松さん、午後 高松さん
2日目:午前 高松さん、午後 キムさん
3日目:午前 キムさん、午後 キムさん

イントロを進めているところ
気になる作品を選んでもらって、選んだ理由を聞いているところ

ワークショップを進める中で起きたトラブル

  • インターネット回線の速度が低速な場合に、MetaMeとの接続が切れやすく、画面が初期位置に戻されてしまう(片倉さんと作家さんで発生)

  • MetaMeに入ったばかりで、移動に時間がかかる(ここは各回でモニターの方が2名ずつ参加していたので、MetaMe初利用の方で発生)

  • Hakobuneビルの場所がわかりづらい→ここは片倉さんに基本誘導いただき、モニターの方はサポート担当の方にケアをお願いしていた

  • BGM音量が気になっている人が出る → BGMの消し方を毎回案内するように

HAKOBUNEビル前に集合しているところ

メタバースの中での鑑賞体験
『光と息 Light and Breath』 高松明日香

鑑賞作品『光と息 Light and Breath』 高松明日香
第一印象をチャットで聞いているところ
対話型鑑賞をしているところ

『光と息 Light and  Breath』は、複数作品で構成された作品で、一つ一つの作品のディスクリプションを丁寧に拾うことを心がけていた。「水を飲んだ一瞬で想起される記憶を表現しているのではないか」「空白は思い出せない記憶」「スマホのカメラロールのよう」といった発言が出ていた。各回で鑑賞者が少なかったため、鑑賞終盤で前回前々回で出ていた鑑賞者の発言を紹介するようにしていた。

鑑賞者の声

参加者Aさん:実際に絵を拝見することができて、ひとりでじっくり鑑賞ができてたのしかった。
参加者Bさん:絵をみる機会が少ない、不思議な気持ちたのしかった。
参加者Cさん:絵を見ながら作家さんと話せる嬉しい。いい経験をしたな。すごい発想。自分にないもの。うれしい。

作家・高松明日香さんの声
素晴らしい経験をさせていただきました!この体験はほかの何にも当てはまりません、ぜひすべての参加作家のみなさまの作品で対話鑑賞会を、と感じました。ありがとうございました。(ワークショップ後にいただいた声)

ファシリテーター・ちょうなんの声
高松さんの作品が鑑賞を促してくれているように感じることが多々ありました。おっしゃっていた「メタバースで作品鑑賞する中で、何が起きているのか?」は、鑑賞を通して味わっていきたい問いです。ありがとうございました!(ワークショップ後に高松さんに伝えたもの)

メタバースの中での鑑賞体験
『対岸の影シリーズ作品』 金孝妍(キムヒョヨン)

鑑賞作品『対岸の影シリーズ作品』 金孝妍(キムヒョヨン)
キムさん作品の第一印象をチャットで聞いているところ
対話型鑑賞後の作家さん登場シーン

抽象度が高く、言葉にするのが難しい作品。作家さんから「製作過程に焦点を当ててもらうといいのでは」と、ヒントをいただき、製作過程の手がかりとなるものを中心に、鑑賞を進めていく。4つの作品の共通点や相違点、ガラス面に気づいてもらうところが、鑑賞を深めるポイントか。
「PNG画像だと、写真のように見える。MetaMeだと、紙や生地の質感が見えなくなり、前面の模様や色がしっかり感じられる。」「左右両端は発散、真中2つは収束を表現しているんじゃないか。」「ぐちゃぐちゃに折られた生地を押し付けているところから、力強さを感じる。」といった声が出ていた。

鑑賞者の声
参加者Aさん:絵画だけでは味わえない質感。写真では出てこない色。絵画と現実の世界の融合。作家の話を聴くことで興味がひかれる。
参加者Bさん:制作過程を聴くと、上から押さえつけている様子が見える。
参加者Cさん:ゲームと比べて体験の違いがあって驚いた。チャットではなく音声を使うところとか。ゲームと比べてチャットが特に使いづらい。
参加者Dさん:メタバースでこういった体験ができて新鮮でした。
参加者Eさん:VRChatで鑑賞体験をしたことはあるが、現代アートや作家さんとコミュニケーションがとれる機会は珍しい。

作家・金孝妍(キムヒョヨン)さんの声
とても楽しかったです。やはり対話型鑑賞会は好きですね。参加者も初めての方々らしく新鮮に感じられたようで嬉しいですね。よく観察されて貴重な御感想を頂けました。良い雰囲気で!ありがとうございました!!(ワークショップ後にいただいた声)

ファシリテーター・ちょうなんの声
午前午後と、鑑賞者が自ら作品のおもしろいところを見出していく様子が伺えてたのしかったです!「MetaMe内での作品鑑賞」と「PNG画像での作品鑑賞」の違い。今日は鑑賞方法を工夫してたのしむ方もいらっしゃって、視点も意見も様々でしたね。ありがとうございました!(ワークショップ後にキムさんに伝えたもの)

Zoomとメタバースの鑑賞体験の違い

高松さん作品の鑑賞会3回では、MetaMeから別タブで作品画像を開いた状態で作品鑑賞を進めていましたが、メタバースならではの鑑賞体験にはなっていないように感じていて、Zoomとあまり変わらない体験に少しもやもやしていました。
そんな時に高松さんが、「メタバースで作品鑑賞する中で、何が起きているのか?物理的な作品はこの場にないのに、作品の鑑賞が実際にこの場で起きている。喜びも感じているけど、同時に困惑もしている。」といったことをおっしゃっていて、あらためてメタバースならではの鑑賞体験にもっと踏み込まねばと思ったのでした。

そしてキムさんの鑑賞会からは、別タブで作品画像を開く方法に加えて、MetaMe内で一人称視点に切り替えて作品鑑賞する方法に触れるようにしました。特にキムさん作品は、作品に近づくと素材の質感が感じられて、作品から離れると色や形の印象が感じやすい特徴があったので、近づく/離れるという見方の違いにも触れるようにしました。

別タブで作品画像を使った鑑賞では、MetaMe上でユーザーの動きがなくなるため、音声のみが鑑賞者の状態を把握する方法になります。対してMetaMe内で、移動しながら作品鑑賞を進めていただく方法は、移動している様子を通じて動きながら鑑賞していることを知ることができる。カメラの動きも水平回転に関しては、ユーザーが回転している様子から、カメラの動きを捉えることができます。これらの情報を通じて、鑑賞者に関与する機会にもなります。

別タブの作品画像と、MetaMe上の作品の見え方の違いに注目してくれた鑑賞者もいらっしゃいました。作品画像だと、細部まで作品が見えるため、描かれているものの質感(素材の質感など)が感じられる。MetaMe上だと、作品の解像度は落ちるが、色や形が強調して感じられる。

MetaMe上でのユーザー移動とカメラによる視点変更を使って、作品を様々な位置から視点の角度を変えて見ている鑑賞者もいらっしゃいました。
Zoomと比べると、メタバース(MetaMe)鑑賞体験の違いのポイントは、現実のように移動することや視点角度を変えることで、見方の工夫ができるところでしょうか。

見えてきた作品鑑賞xメタバースの可能性

取り組み始めた頃に可能性を感じていたところですと、地域による機会格差鑑賞に可能性を感じていました。美術館が提供するスクールプログラム(出張授業など)は、美術館に近い地域に限定されていることが多く、美術館から離れた地域の学校にはスクールプログラムが届けづらい問題があります。美術館の教育普及担当が、オンライン対話型鑑賞に慣れることにより、オンラインでスクールプログラムを提供するケースも見かけますが、まだまだ事例は少なく対応できる教育普及担当も限られる。
メタバースという誰でもアクセスできる空間に、ギャラリーや作品展示がされていることで、誰でも美術作品に触れることができる。そしてその場に鑑賞ファシリテーターがいれば、多くの人に作品鑑賞体験を提供することができるのでは。そんなことを考えていました。

メタバースのような3D空間に作品を配置して、現実のように移動や視点変更を可能にすることでも、鑑賞体験に幅が出ることが体感できました。移動や視点変更のしやすさは、身障者にも鑑賞に自由度を提供できる可能性があります。またメタバースというシステムでつくられた空間では、可視光線だけでなく不可視光線を見るなど、視覚自体の拡張体験を表現するようなことも考えられます。鑑賞体験をどう拡張していくか。

メタバースということで、作品自体に手を加えることもできると思います。太陽の塔を再現する、彫刻作品を拡大して巨大にしたら、どんな鑑賞体験になるのか。

様々な鑑賞教育関係者がメタバースに取り組むことで、あらたな鑑賞体験が生まれてくるかもしれない。

合わせて読みたい


この記事が参加している募集

イベントレポ

メタバースやってます

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?