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音楽レヴュー 2

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#UKラップ

人々の不安や哀しみに寄り添うLoyle Carner『Hugo』の誠実な言葉

 UKラップ・シーンにおいて、ロイル・カーナーというラッパーは独特な立ち位置を保ってきたと言える。サウス・ロンドンのランベスで生まれたカーナーは、グライムやUSヒップホップの影響下にありながら、それらの音楽とは毛色が異なるサウンドを作品では鳴らしているからだ。他のUKラッパーがアフロスウィングやUKドリルを定石とするなか、ジャズ、ゴスペル、ソウル、ファンクといった要素が濃い方向性を突きつめ、孤高的

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Fredo『Money Can’t Buy Happiness』



 ウエスト・ロンドン出身のラッパー、フレドが2019年にリリースしたデビュー・スタジオ・アルバム『Third Avenue』は、自らのハードな人生を反映させた力作だった。UKドリルグループ1011への言及など、ローカルネタを随所で散りばめつつ、イギリス以外の国々に住む者たちも共鳴できる情感を描いている。こうするしか生きる術がなかった者の叫びとも言える言葉の数々は、全英アルバム・チャート5位とい

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Trillary Banks「The Dark Horse」



 トリラリー・バンクスはイギリスのレスターで生まれ育ったラッパー。2007年から音楽活動を始め、ゆっくりと着実に地位を築いてきた。
 活動当初はレディー・スケングと名乗っていたが、しばらくするとピンキー・ゴー・ゲッタ名義で秀逸なフリースタイルを残すようになった。その後トリラリー・バンクスに改名し、現在に至る。

 彼女は3つの名義を使い、これまで多くの作品を作りあげてきた。なかでも、トリラリー

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NSG『Roots』



 ここ数年、イギリスのオンラインラジオやボッドキャストを聴いていて、何度NSGの名を耳にしたことか。
 NSGは、ロンドンのハックニーで結成された6人組。“ Options”のMVが3000万回以上再生されるなど、いま大注目の集団である。

 そんな彼らのデビューミックステープが『Roots』だ。“Options”や“Trust Issues”といったヒット・ソングも含む全18曲入りの本作は、

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