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アコとエコと、ちょっぴりオトナ


「しょっぱいのだもん!」

「あまいのだもん!」

「ぜったいにしょっぱいのー!」

「ぜったいにぜったいにあまいのー!」

どうやら森一番のおてんば双子は
今日も何かをケンカしています。

「ふたりとも、仲良くどっちかにしなさい
 たまごまる王子もつきみぐ姫も
 たっくさんの料理の中から一番を決めるの
 だから1つだけを持っていかないと、
 お二人ともすぐにお腹いっぱいに
 なってしまうでしょ」

双子のお母さんは今日も優しく話します。

「一番はしょっぱいのだもん!」

「違うもん!一番はあまいのだもん!」



少し前、森にたったひとつだけの掲示板に
こんなチラシが突然貼ってありました。

これを見て、
アコやエコはもちろん、
リスたちも、キツネの親子も、
森中のみんなみんなが楽しみになりました。


「たまご料理だって!
 私たちはどんぐりと卵の炒め物はどう?」

「えーそれは定番すぎない?」

リスたちも集まってわいわい相談しています。


「父さん、父さん、
 ぼくたちはオムライスにしようよぉ」

「え、父さん、
 あれは作るのが苦手だからなぁ…」

キツネの親子もひそひそ相談しています。


「ねぇ、エコ、何がいいかな?」

「そんなの決まってるよ、アコ!」

「え?なになに?」

「お母さんの"たまごやき"がいっちばん!」

アコとエコはその味を思い出し、
にっこりと見つめ合います。



「しょっぱいのを持っていくもん!」

「あまいのを持っていくんだもん!」

双子のケンカはまだまだ続いているようです。


その時です。


「あまいのだもーーーーーん!!!」

突然エコは甘い方の卵焼きを持って、
お家を飛び出してしまいました。

「あ!エコ!ずるいっ!
 しょっぱいのだもーーーんっ!!」

それを見たアコはしょっぱい方の卵焼きを持ち
エコを追いかけて
勢いよくお家を飛び出しました。



双子の行き先はもちろんここ。

たまごまる王子とつきみぐ姫の住む、
たまごの上に小さな王冠の乗る大きなお城。


「はあ…はあ…
 エコは…ずるいから…しょっぱいのだよ…」

「はあ…はあ…
 アコは…エコより着くのがおそかったから…
 あまいのだよ…」

双子は息を切らしながら
お城の門の前でもケンカをしています。


「やあ!いらっしゃい!
 君たちも何か持ってきてくれたのかい?」

双子がケンカをしているとは知らず、
たまごまる王子は笑顔で双子を迎え入れ、
さっそく食卓に案内しました。


そこにはつきみぐ姫も待っていました。

「さぁ、ふたりともここに掛けて
 僕らに美味しい卵料理を教えてよ」

「なんて可愛いふたりなの
 きっとかわいい卵料理なのね」

たまごまる王子もつきみぐ姫も
ワクワクした目で双子を見つめます。


「しょっぱいたまごやきですっ!」
「あまいたまごやきですっ!」

双子は大きな声で同時に
それぞれが持ってきた一番の卵焼きを出しました。


たまごまる王子もつきみぐ姫も
少し驚いているようです。

それもそのはず。

双子は勢いよく走ってお城まで来たので、
お母さんが作ってくれた卵焼きは
しょっぱい方も、甘い方も、
すっかり形が崩れてしまっていたのです。


「どうしよう…
 せっかくのしょっぱいの…」

「せっかくのあまいたまごやき…」

「「えーーーーん!!!!!」」

双子の泣き声がお城中に響きます。

「エコが急に走るからだよ!」

「アコが追いかけてくるからだよ!」

「エコのせいーっ!」

「アコのせいーっ!」

双子のケンカは泣き声と共に大きくなるばかり。


「これは…困ったねぇ」

たまごまる王子とつきみぐ姫は
双子のお母さんのように困ってしまいました。

するとつきみぐ姫は席を立ち、
どこかへスタスタと行ってしまいました。


「おひめさま、おこっちゃったー!」

「おこっちゃったー!」

「「えーーーーーーーーん!!!!!」」

双子のどんどん大きくなる泣き声に
たまごまる王子もてんてこまいです。



「3人とも、お待たせ!」

そこにつきみぐ姫が笑顔で戻ってきました。
ほかほかで、綺麗な形の卵焼きを持って。


「2人とも泣かないで
 ちょっとこれを食べてみて」

「…これはしょっぱいの?」

「…これはあまいの?」

つきみぐ姫は何も言わず、
ニコニコしています。


「「「いただきます」」」

たまごまる王子と双子は、
つきみぐ姫の作った綺麗な卵焼きをパクリ。

「わあ!おいしーい!カレーだ!」

「おいしーい!カレー味だー!」

「なるほどねぇ、さすが僕のお姫さまだ」


つきみぐ姫は
双子がしょっぱい卵焼きと甘い卵焼きで
ケンカをしているのに気付き、
全く違う味の卵焼きを作っていたのです。

「どう?
 これはしょっぱくもなくて、あまくもない
 "ちょっぴりオトナ"の卵焼きよ」


双子はすっかり泣き止み、ケンカも忘れ、
初めて食べるちょっぴりオトナの
カレー味の卵焼きを
パクリパクリといくつも食べました。


「おいしいねー、エコ」

「おいしいねー、アコ
 …アコ、エコも今度は
 しょっぱいのも食べてみるね」

「アコもあまいの食べてみるね
 エコ、ごめんね」

「ううん、エコもごめんね」

アコもエコも
そしてたまごまる王子もつきみぐ姫も
お腹いっぱい食べました。


「ここにレシピを書いたから、
 2人で仲良く作ってね」

つきみぐ姫は双子に
レシピの書いた1枚の紙を渡しました。

「「うんっ!!」」

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双子は今日も
ちょっぴりオトナの階段を
ちょっとずつちょっとずつ登るのでした。


〜おしまい〜


久しぶりに「アコとエコ」を書きました。
また少しずつでも書けたらなと思います。
良かったら、久しぶりに前作2つもどうぞ☺︎


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