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インターましロードを作るたび第4章~マルチリンガルな旅


旅の行程 3日目

1 はじめに

『インターましロード』、第4章へようこそ。引き続き、Interrailで行ったヨーロッパ1人旅の様子について書いていく。


今回は旅の3日目、ミュンヘンからチューリッヒに行って、ストラスブールまでの旅の記録だ。そしてこの日は、旅とは違う挑戦もいくつかしたので、そのことについても書いておきたい。


ミュンヘン駅

2 ミュンヘン→チューリッヒ


2023年6月27日。朝6時にホテルを出た。なぜこんなに早くホテルを出たかと言うと、今日は10時半にチューリッヒで友人と待ち合わせをしているからだ。この日は、その日中にフランスのストラスブールに着くことが最終目的なので、こんなに早く起きる必要はないが、タフな真しろは、この日、大きなミッションを設定していたのだ。


タクシーに乗って駅へ行って、なんとかチューリッヒ行きの電車に乗った。早朝の電車ということもあり、客はほとんど乗っていなかった。


電車はゆっくりと発車した。ところがこの電車の問題点として、インターネットが使えないことと、車掌の声が非常に小さくて、どこを走っているか聞き取れないことだ。幸いにも、今回降りるチューリッヒ中央駅は終点なので、1日目の二の舞は回避できそうだ。


乗っているお客さんのほとんどはドイツ語話者で、あちこちからドイツ語が聞こえてくる。しかし、これから向かうチューリッヒは、マルチリンガルな国としても有名なスイスの都市だ。きっとさまざまな言語を聞くことになるだろう。


ときどき長い時間停車しながらではあったが、電車は確実にチューリッヒに近づいていく。そして、予定到着時刻から15分ほど遅れて(まだまだ許容範囲)、チューリッヒ中央駅に到着した。


チューリッヒ駅トラム

ドイツでもそうだったが、チューリッヒ中央駅のホームや駅構内には、日本の点字ブロックに相当するラインのような物が敷かれていて、その上を歩くのが1番歩きやすかった。


待ち合わせている友人から、国際列車は地上に止まると聞いていたのだが、今回は地下に止まったらしく、地上に上がるには少し距離があった。


3 チューリッヒでの日々


そしてここで、本日の大きなミッションを遂行することになった。今回チューリッヒで待ち合わせている友人は、チューリッヒの大学に留学中の高校時代からの学友だ。真しろは高校時代、視覚特別支援学校に通っており、その友人もほぼ全盲だ。要するに海外で、外国人の全盲2人が落ち合うことはできるのかという問題が発生しているのだ。東京の大ターミナルで、2人の全盲が待ち合わせるのだって至難の業なのに、海外、ましてや英語圏ではない国で、それは成功するのだろうか。


友人に到着した旨を連絡し、待ち合わせ場所であるトラムの乗り場に向かうことにした。友人に指示されたとおり、通行人の方に声をかけて、行きたいトラムのホームに連れていってもらった。ところが、その通行人の方がちょっと勘違いをしてしまって、ただトラムの側で待ち合わせをしたかったのに、トラムに乗る所まで案内してくれた。誤解を解いて、トラムに乗る前に全盲の友人を探す。するとなんとか見つかった。ミッション成功! チューリッヒの人は本当に親切だった。


友人おすすめのチョコレート専門店でチョコレートを購入したあと、友人の住んでいる学生寮へお邪魔することになった。そのとき感じたのは、自分の修行場と彼の修行場はいろいろと違いがあることだった。彼の修行場の場合、寮からキャンパスに行くにはトラムに乗る必要があり、近くにあるスーパーはとても小さくて店員さんも少ないから1人での買い物が難しいらしい。もちろんキャンパスの中にスーパーはないし、そもそもキャンパスという概念ではなく、学部ごとの建物があちらこちらに散らばっているようなのだ。真しろの修行場は、キャンパスにほぼ全ての物が揃っているし、スーパーはとても大きい。そして寮から大学へは徒歩で行くことができる。真しろのほうが恵まれていると言えよう。


寮に荷物を置かせてもらったあと、今度は彼おすすめのイタリアンへ行ってパスタを食べた。お店のオーナーと思わしき人はとても気さくで友人とも顔なじみのようだった。オーナーさんは英語が話せるようなのだが、他の店員さんは英語が話せない。だが、個人的にはこの店員さんのほうに興味を引かれた。なぜならこの店員さん、メインで話しているのはドイツ語なのだが、ときどきイタリア語やフランス語のフレーズが会話に出てくるのだ。お店がイタリアンであること、ドイツ語圏の地域とはいえ、フランス語の話者のお客さんがいることなど、いろいろ理由はあるのだろう。パスタを運んできてくれた時も、会計をする時も、さまざまな言語が混ざっていて面白かった。いっぽう、我々の持っているアイテムは英語のみなので、とりあえず相手がどの言語を使っているか識別できても、英語で応戦するしかない。分ってもらうまでなんとか英語でコミュニケーションを続けた。友人によれば、チューリッヒではこれがノーマルらしい。英語圏でのんびり英語しか使わずに暮らしている真しろとは大違いの修行環境だ。だが、2人が一致した見解として、英語を聞くと安心する感覚だ。そんな状態で母語である日本語を聞いたらどうなるのだろう。ご飯だけでなく、言語の修行にもなった時間だった。


次の電車まであと3時間ほどあったので、再び寮にお邪魔してゆっくりすることに。全盲2人で観光するわけにもいかず、今回は、共通の友人が作ったというお手製の野球ゲームで遊ぶことにした。スイスまで行って野球ゲーム? と思われるかもしれないが、交流を深めるにはうってつけだ。


初めてやるゲームだったが、そんなに複雑なゲームではなかったし、変化球を打つのに少し苦労するぐらいだった。試しに1試合やってみることに。難しいゲームではないと書いたが、相手の友人は元々野球部のエース。おそらく勝つことはできないだろう。そう思ってプレーしているとだんだん楽しくなってきた。というのも、少しずつボールが当たるようになってきたのだ。


試合序盤で先制したのは真しろ。だが、中盤に追いつかれてしまう。時間があったので勝負が付くまでプレーすることに。機械の気まぐれもあってなかなか勝負が決まらないと思われた4回裏、後攻めの真しろが塁にランナーをためる。そしてついに、走者一掃のタイムリースリーベース。ゲームではあったが、元野球部エースに5対2で勝利した。久しぶりに熱くなれた瞬間だった、わざわざスイスで(笑)。


16時に駅で友人と別れ、チューリッヒでの少し奇妙な時間は終わった。


4 チューリヒ→バーゼル→ストラスブール


16時半。短いチューリッヒでの滞在を終え、今日の最終目的地のストラスブールに向かった。今回は、途中のバーゼルという町で乗り換えることになっている。


電車でたまたま乗り合わせたアメリカ人に話しかけられ、いろいろと話が盛り上がった。あまり乗り合わせたお客さんとたくさん話す機会がなかったので、少し嬉しい瞬間だった。そのお客さんもバーゼルへ行くらしいので、乗り換えも手伝ってもらえることになった。そしてついでに、バーゼルがどういう町なのかや、車窓についてもいろいろ聞いてみることにした。


バーゼルの町は、境界線好きの真しろとしては非常に面白いと感じる町で、フランスともドイツとも国境を接しているスイスの町だ。バスで簡単に国境を越えられるし、駅の中にも国境がある。ちなみに町には空港もあり、大学もある。ヨーロッパにはこのような町はよくあるのかもしれないが、こんなにもいくつかの国の国境が身近にあることが面白かった。


バーゼルSBB駅

そんな話を聴いているうちにバーゼル駅に到着。ストラスブール行きの電車を探す。すると、さっきのお客さんの言うとおり、ストラスブール行きの電車は、駅のフランス側にあるらしい。フランス側と言っても、駅の中にある国境線なので、正式な国境ではないらしい。


バーゼル駅にて

そして、駅の放送もドイツ語とフランス語が平等に扱われ、しっかりと流れていた。この地域は、どちらの言語も公用語なのだ。


バーゼルからストラスブールまでは約1時間。車内は朝とは違って、ドイツ語話者だけでなく、フランス語話者の方も増え始めた。国が変わっている証拠だろう。


5 アルザスの町


ストラスブール駅

19時過ぎ。ほぼ予定通りの時間にストラスブールに到着した。例によってホテルまでタクシーを使うことにした。前評判では、ストラスブールはドイツ語を話す人が多いということだったが、一応フランスの都市なので、かなりフランス語を話す人も多いように思われた。いや、この町の人は、きっとどらの言語も話せるのかもしれない。


タクシーを降りるとかなり外は賑わっていた。どうやらここが町の中心部らしい。ホテルの方に部屋まで案内してもらったついでに、夜ご飯のおすすめスポットを聞くと、少し歩いたところにアルザス地方の料理が食べられるピザ屋さんがあるらしい。またピザかとも思ったが、地域の料理が食べられると言われると弱い。そこへ行ってみることにした。


ストラスブールの属するアルザスロレーヌ地方は、幾度も続いた戦争によって、フランスの領土になったり、ドイツの領土になったり、その変更が繰り返されてきた歴史がある。つまりこの地域は、今はたしかにフランスに属しているが、フランスでもあり、ドイツでもある。いや、そのどちらでもないのだ。ホテルの人に、アルザス地方のことを聞いてみると、非常に印象的なことを言われた。「ここがフランスなのかドイツなのかは分らない。ここはアルザスだ」と。この地域は、どちらにも属していて、どちらとも違うアイデンティティーを持ち合わせていて、アルザスという特有の場所が形成されているのだ。まさに真しろが興味をそそられる現象だ。


夜ご飯を食べていたり、町を歩いていたりしても、聞こえてくる言語はドイツ語のようでもあり、フランス語のようでもある。ここにいる人たちは、どちらの言語も混交させながら使用し、アルザスの言語という特有の言語を作り出している。そしてそれは、アルザス文化を創り出している。このような現象はヨーロッパではよくあるらしい。


そんなことを考えながら、アルザスワインとピザを楽しんだ。ホテルの方のおっしゃるように、とてもおいしい料理だった。その日は、アルザスの町の文化混淆に舌鼓を打ちながら終了した。


アルザス地方のワイン

6 物語を運ぶ鉄の箱


この旅をしていて、真しろは気づいてしまった。自分がなぜ電車を好きなのか。自分がなぜ鉄道旅にこだわるのか。なぜなら、電車は他の乗り物以上に、物語を運ぶ力があるからだ。


電車は町と町をつなぐ。バスや舟、飛行機でもそうだが、いくつもの車両が連結されて、その車両ごとにさまざまな人が乗っている。英国からのこのこ1人でやってきた全盲の旅人がいれば、話に花を咲かせる学生の集団がいれば、初対面だけれど少し話が盛り上がった乗客たちがいれば、車窓なんてお構いなしにパソコンに向かう乗客もいれば、電車に乗るのに疲れて、言葉にならない声で泣く赤ん坊もいる。そしてそれらの物語は、言葉という小さな粒になって、電車の中に落ちて、電車はまるで風みたいにその言葉を運ぶ。言葉の粒を落とした物語の作り手たちが電車を降りて、また新しい風に乗って新しい言葉と物語がやってくる。


イタリアを過ぎてオーストリアに入れば、イタリア語の物語はドイツ語になる。チューリッヒからフランスへ向かう電車なら、ドイツ語の物語はフランス語になっていく。きっと東京から大阪へ爆速で走る新幹線もそうだ。その変化を、その物語を楽しむことが好きだから、真しろは、電車も言葉も好きなのだ。自分は物語の登場人物になることもあるけれど、どこかその小さな粒を見つめるのが好きなのだ。次の駅で始まる物語を、今も探しているのだ。だから旅に出ることを決意したのだ。


7 おわりに


マルチリンガルなスイスやストラスブールの町を堪能し、ちょっと野球ゲームで熱くなった3日目が終わった。明日はいよいよ旅の最終日。いっきにクライマックスへ向かっていく。


それでは今日はこの辺で。Have a nice day!

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