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奥能登国際芸術祭に隠れているタコと海藻

スズって石川県民にとって「珠州」という漢字と地理のイメージが浮かんでくる。聞いたことがない人は「鈴」と勘違いしてしまう。正直言うと、石川県に住まなかったら「珠州」は絶対読めなくて、地名なのか苗字なのかすら想像できないだろう。

金沢から車で2時間かけて、石川県能登半島の端っこまでたどり着くと、そこにある景色は説明できないほど美しい。あの松尾芭蕉ですら表現がうまくできないだろう。この景色に、石川県から約12,000km離れているイタリア出身の僕は自然を感じて、奥能登国際芸術祭を体験する隙間で、世界中に知ってもらいたいある発見をしたのだ。今からこのストーリーを語ろうと思う

奥能登国際芸術祭2023 全作品 MAP

意外に面積が広い奥能登は、全部回ろうとすると長旅のようだ。今日は1日をかけて珠洲で国際芸術を感じながら、海の国境で気持ち的には海の生き物に変わったような感じだった。緑と青しかないはずなのにカラフルな作品があったり、建物が生まれ変わったりしているのを見て、知っていたはずの人生が新発見できた。

海沿いの田んぼに小さくて可愛い公園があった。この公園の入り口に足が止まった理由は信じがたいけど、そこにいたのはキリン親子。しかも、カラフルな花もついていて、キリン親子と海という組み合わせは素敵だなと思いながら、ここは能登半島だということを思い出すと言葉を失う。キリンと会話している僕は母親と話しているような気分になった。こんな小さな公園でこのような体験ができるなんて、きっと最初で最後だろう。

キリン親子に挨拶して少し離れたら、また田んぼの中にポッツンと目立たない建物があった。近づくと旧上戸駅の建物だった。寝ているような静かさ。電車が来るまで休憩しているのだろうと思いながら、駅の上にその駅の骨組みのようなものが浮かんでいた。「寝ている」ではなく、「お疲れ様」のような印象だと言えるだろうか。こんな状態でも、迎えに来てくれたような雰囲気は自分の中に残っている。

自然の大切さを改めて感じていた。一回アートと自然のセッティングに入るとたまらなくて離れられない。そんな神秘さを感じていると、なぜだかお腹が空いてきて、その近くにある「レストラン浜中」で食事することに。珠州でユニークなアートを味わえるだけではなく、なんと奥能登国際芸術祭の期間中に「スズ定食」も実施しているそうだ。石川県の美味しいものがある中で、期間限定のより素晴らしい定食を食べられるって、マッシはきっと色と海の神様に呼ばれたのではないだろうか。

このスズ定食の素晴らしい部分は、珠州の海藻とタコを使用した定食だということ。さっき、キリン親子と会話した公園の前にある海で取れたものが、日本人のアレンジで説明できないほど素晴らしい定食になる。これが現実なのか、夢なのか、未だに疑問が残っている。バランスも見た目も味も愛情たっぷり!

また海を覗きながら、魚の感覚を体験できることを知らなかった僕は、本物の海と、糸でできた海に挟まれた。糸から作られた海の中を早く回ると、一歩ごとに気持ちが変わって、珠州と一つになった。そして、天井を見ると鏡に映っていた僕は、魚に変身していた。

魚になったり人間に戻ったりしていたらお腹が鳴ってきたから、近くにある「あわあわもちもち」の古民家でスズ定食。たこ、エビ、牡蠣などの立派な炒め料理。里帰りのようで最高の味だった。

窓の前の道を渡ればすぐ海がある。ここ珠洲では、海との繋がりはどこに行っても友人のようだ。

食べ終わって、古民家と海の間にある狭い道は猫のようにささっと歩いて、静かに違うアートへ。しかも、レストランから数分の場所にあった。木材で作られた倉庫のような、年を取っている建物だった。その中に入ると、まるで海の中に生きている自分と出会える。心臓の音まで、綺麗に聞こえる。海に近いせいか優しい波の音も。木のような、海藻のような、はっきりしてない存在が、確かにある。これを回ることによって、キラキラと足跡が変わる。時間が経つことをはっきりと感じる。

今までは海中心だった場所は、ほんの少し離れたところに「珠州 飯田駅」の「小さい忘れもの美術館」があった。無意識に着いてしまった。影の中にある駅は内装はそのまま、時間と戦った跡が残っている。この中で生きていたものが真っ黄色になっている。影の暗さに負けないようなSOSが伝わる。

改札口を超えて車両に向かうと、傘数本が立っている。気をつけながら、階段を登ると立っている傘がたくさん。

停車している車両の扉が入っていた。外はまだ明るいはずなのに、小さな電球の光がそのドアから外に逃げていた、不思議な空間。ドキドキしながら、傘に当たらないように、そのドアに近づいて中を見たら、体が止まった。

車両の中、壁一面が黒板になっていた。よく見たら文字やイラストがたくさん書かれていた。自分の思い出を自由に車両の中に書けるというのは、その思い出は海のところに運ばれるだろうか。みんなの思い出を読み出したら、エネルギーを使いすぎてまた食事することに。

今回は和食ではなく、なんとイタリアンレストラン。洋食のお店で「スズ定食」を食べられるという驚きが大きかった。タコと海藻をイタリア料理風味にして食べられる場所は「イタリアン・カフェ こだま」だ。ムール貝と海藻、タコのカルパッチョ、ガーリックトースト、のと115しいたけのスープ、プチデザートという食べ応えがある食事。イタリア料理と珠洲の食材を一つの料理にしてイタリア人として、喜びが溢れる。

今日は朝から不思議な世界に行って、魚になったりキリンと会ったりして自然と海の仲間になって美味しい料理を食べた1日だった。行って感じたのは、海への旅を分けて少しずつ味わえば、新しい自分が生まれる。

奥能登国際芸術祭2023
会期|2023年9月23日-11月12日(木曜定休)
鑑賞時間|9時30分から17時まで
会場|珠洲市全域247.20㎢

今日は奥能登国際芸術祭を体験した上でこの記事を書かせていただいて、感謝してもしきれない。アートと自然は、国籍にかかわらず誰でも最高に楽しめるから、期間中にぜひキリン親子に会いに行ってくださいね。

スズ定食は9か所で食べられるから、この記事で紹介した以外の食事も楽しんでね。

ではでは、海でもまたお会いしましょう。

Massi

みなさんからいただいたサポートを、次の出版に向けてより役に立つエッセイを書くために活かしたいと思います。読んでいただくだけで大きな力になるので、いつも感謝しています。