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#連続小説【アオハル】〜第七章・地獄のバンク 5〜

俺は芝生に寝転がりながら西村さんにストレッチをしてもらっていた。

「鬼木。お前水分摂ってないだろ。水分不足だと足がつり易くなるって前にも言ったと思うけどな。」

「すんません。自分では摂ってたつもりだったんですが...」

「普段から意識して水は飲まないとだめなんだよ。最低でも2ℓは飲んでないとな。」

「そんなにですか!?下痢になるんじゃないですか?」

「そうだな...俺は常に水っぽいクソしてるけど慣れた!」

(おいおい...ここでも慣れろ的なアレか!?)

「慣れっすか...今日からやってみます...」

バンクを見ると竹之内さん健太、義和だけが今だに走り続けているようだった。川野と石谷は数週前にリタイアし、ダウン走行をしてるようだった。

「健太と義和。アイツら凄いな!初心者なのによ!」

嬉々とした表情で西村さんは俺に言った。あの二人と俺は学校は違うが同郷の出身であった。西村さんは素直な人だ。悪意のカケラもない純粋な賛辞の言葉である。そんな言葉が俺の心になぜかグサリと刺さった気がした。

「そうっすね...はは...」

(俺も足がつってなかったら...イケてた...)

そんな情けない負け惜しみのような感覚を抱き2人の姿を目で追った。実際2人は凄かった。周回を初日から完走していたからだ。周回数90。俺との差は圧倒的だった。

時間は12時を過ぎていた。俺たちは室内に戻ると昼食をとり、休憩をする事になった。

「鬼木。つった部分にコレ当てとけ。午後練には少しくらいマシになってるはずだから。」

「あざっす!」

竹之内さんが手渡してくれたのは氷嚢であった。最新のスポーツ科学では応急処置を施してまで練習するのは間違っている。そう言われてしまうだろうが、20年前にはまだまだ根性論が残っていた。精神面の向上が声高らかに謳われた時代だった。

「集合!!」

休憩を終えた俺達は重田先生の前に集められた。午後の練習メニューでも発表されるのだろう。

「午後は班に分かれての練習とする。西村、健太、義和のA班。竹之内、川野、石谷、鬼木のB班。美空は俺が付く。大まかな練習としては、バンク、ウェイト、ローラーだ。細かい所はそれぞれで決めてくれ。時間は1時間交代だ。もうそろそろプロ選手が来る予定だから、邪魔にならないように。それと時間を無駄にしないように。いいか!」

『はい!!!!!!!!』

A班はバンク、B班はウェイト、美空さんはローラーとなった。俺は本格的なウェイトトレーニングは経験した事がなかったので内心ウキウキしていた。

「自転車は足..特に太腿が注目されるが、それ以外の上半身が実は結構重要なんだよ。車に例えると分かりやすいな。足はエンジン。上半身はフレームだ。エンジンが良くてもフレームが悪ければ最大パフォーマンスが発揮できないだろ?」

俺は目から鱗の感覚になった。本当にその通りだと思ったからだ。俺達はひと通りやり方を教えてもらい、ウェイトトレーニングを開始したのだった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。 無理のない範囲で応援をしてもらえたら嬉しいです。 これからもチャレンジしていきますので宜しくお願い致します。