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サンタさんが寄り道する inコンビニ

「いらっしゃいませえ」
 クリスマスイブに働く、俺。夜空からはお祝いの雪。面白いよなあ、人生って。だって、どっかのカップルはラブホテルで交わるわけだし、どっかの子供はプレゼントを楽しみにして眠るわけだろう。じゃあ、俺の人生は? 
 何もねえよ、本当に。
「すみません」
 今入ってきたその客は、なぜかサンタの格好をしていた。
「あ、はい」
 しかも顔を見れば、白髪がはみ出ていて、綿飴みたいな髭を蓄えたおじいさんだ。本格的ではあるが、こんな夜中に一人で何をやっているんだ。恥ずかしくないのか? いや、もしかしたら長年の孤独のせいで、感覚が麻痺しているのかもしれない。かわいそうに。
「肉まんください」
 あ、サンタも肉まん食うのか。まあ、この人はコスプレだからな。何を食ってもいいのか。
「かしこまりました」
 俺はトングを使って肉まんを取り出し、薄っぺらい三角形の紙に肉まんを包んでセロテープで蓋をする。
「百六十円ですね」
「じゃあ、ペイペイで」
 え、サンタってペイペイで支払うのか。まあ、この人はコスプレだからな。何で払ってもいいのか。
「あ、はい。どうぞ」
 サンタさんはスマホを取り出して、支払った。俺たち以外誰もいないコンビニで、「ペイペイ」と響く。
「ありがとうございました」
 サンタが出て行き、暇になった俺は外を眺めていた。すると五分もしないうちに「リンリン!」とドテカイ鈴の音が鳴った。除夜の鐘くらいの大きさがないと、こんな爆音では聞こえないはずだ。
 慌てて出てみると、サンタはソリに乗って、トナカイに鞭を打って「行け! 子供たちに幸を与えるのじゃ!」と行って、夜空の中へ消えた。
 嘘だろう。あいつ、本物じゃん。
 それから店へ戻ろうとしたとき、何かが落ちていることに気がついた。拾い上げてみる。
「ニンテンドーDS」
 いや、古!

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