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『4年前の輝き』


 かつての俺は、普通という栄光を掴むべく大学に入り、安定という幸福を手に入れるために新卒で就職した。

 しかしこの世は、誰もが普通と安定を獲得できるわけではない。

 かつての俺は、真面目で何の個性もない男だった。つまらない、平凡な、だけど普通と安定を欲しがった男。

 だからこそ、俺は道を踏み外すべきではなかった。とはいえ、たとえば俺は最中くらい脆いやつだから、崖から落ちてあっという間に粉と化した。

 かつての俺はそれなりに希望を持っていた。みんなと同じように生きることで、それこそ普通の人間でありたいと思ったし、安定することで家族ができたりして、なんてよくわからない妄想もした。恋もしない男が何を言っているんだと今なら思うが。

 しかし4年前の俺は、周りと比べても遜色ないくらいの輝きがあったはずだ。多くはないが友人もいて、正社員として仕事もしている。みんなと同じ。一緒のラインに立って生きている。

 それが4年後、どうなったか。俺は社会が求める輝きを失った者になった。笑えるくらい滑稽で、しかし自分のことが好きな人間になってしまった。誰かが悪いわけではない。俺自身が一番悪い。そんなことくらいわかっている。それでも突き進んでいる。普通も安定もない世界を、突き進んでいる。

 良く言えば唯一無二。悪く言えば厨二病。

 このズレが個性と呼べるなら、それが良い。もはや軌道修正できるほどの元気はない。ハイキングをしたってすぐにへたばるくらい老いてしまった俺が目指す先は、おそらく俺にしか生めない作品を生むこと。

 4年前の俺は、残念ながら早々に潰えてしまった。忍耐力もなければコミニュケーション能力も低く、そもそも働くことに馴染めなかった。上手くやるってことができなかった。それを弱いと表現するか、運が悪いと表現するか、なんでもいいが、あの頃の俺はどうしようもないほど地底に行ってしまった。そこから這い上がろうとしたら、適応障害になったりして、さらに落ちて行った。俺の人生、それの繰り返し。今はなんとか軌道に乗せて生きているが、いつ落ちるかわからない。そんな恐怖を抱えながらも、突き進まなければならない。

 まあ、どうせ死ぬしね。人間って生き物も。

 GWが終わると、退職代行サービスが忙しくなるらしい。俺みたいな奴らが社会に馴染めず、もしくは相当苦しくて辞めたいと思った。単に合わない人もいるだろうし、いじめに遭っていた人もいるかもしれない。トゲのある言葉で精神を刺された人もいると思う。そんな人間たちも、突き進むのだろう。何処へ行くのか、そんなことはわからない。ただ願うのは、決して不幸を選ばないこと。自死はね、なんとも虚しいから。あとはなんだっていい。普通や安定が欲しいなら狙えばいい。夢を追いたいなら追えばいい。唯一無二になりたいなら、なればいい。

 どうせ死ぬんだから、人間なんて。

 たとえ人生に輝きがなかろうと、なんとか生きていけるんだから、人間ってのは。

 


 って4年前の自分に言ったら、絶望するでしょうね(笑)。それでは、また。

 

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