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「藤井風の曲、歌うのむずっっ!」から紐解く、彼の異次元ボーカルスキル


こんにちは、考える犬です。


ここ最近、立て続けに藤井風さんの記事を書きました。


…で、今日もまた彼の記事になります。

だってしょうがないじゃない!語りたいことがどんどん出てくるんだもの。全てはそう、彼のアーティストとしての魅力が突出しているため。なんという罪な男…!

花も恋する


さて、そんなわけで藤井風。
今日は彼の「ボーカル」の話です。


というのも、先日何の気無しに「満ちてゆく」の音取りをしていると…


いやむっっっっず……!

何これ?こんなの歌える人いるの…?

(※ちなみに筆者はアカペラが趣味で、好きな曲は誰に頼まれるでもなく音取りをするという厄介な音楽オタクです。)


藤井風といえば「ボーカルもえぐい」というのは誰もが認めるところだが、サウンドや世界観と比べると、分析される機会はそれほど多くない。というわけで、


「彼のボーカルはなぜ凄いのか?」


今日はその辺を語ります。
それでは参りましょう!


1.近年の邦楽ボーカルについて


さて、藤井風のボーカルを分析する前に、近年の邦楽ボーカルについておさらいしましょう。


音楽にはいつの時代にもトレンドがあり、それはボーカルも同様。個人的には近年のトレンドとして、以下の傾向がある気がしてます。

①とにかく高音域(特に男ボーカル)
②とにかく上下するメロディ
③曲自体のスピードも早い
④転調にリズムチェンジ等、展開も大忙し
⑤結果として、歌うのが激ムズ

これは推測ですが、こうしたトレンドが生まれた大きな理由の一つとして、カラオケの存在がある。カラオケは1970年代からじわじわ普及し、2024年現在、今や押しも押されぬ大衆娯楽としての地位を確立している。


今の若者、すなわち10~20代が生まれたのが1990~2000年代。つまり彼らは生まれた瞬間からカラオケが普及しまくっている世代だ。

平成以降はカラオケネイティブ


だからたまにおじさんが「最近の若者は皆歌が上手いなぁ」というけど、それは当然で、なぜなら彼らは「歌う」という行為の場数と、ハードルの低さが、そもそも違うのである。


親に連れられてカラオケ。
放課後なんとなくカラオケ。
飲み会の二次会にカラオケ。


どこでも歌う可能性がある。まさに全国民ボーカリスト。やつらはそういう世代である。

そんな彼らは、音楽を聴く時も「自分がカラオケで歌うとしたら」という視点を持つ。たとえそれが無意識であっても。


そんな中で、「高音域の曲」や「音程が複雑な曲」への需要が高まったのではないかと推測する。「より難しい曲を歌うことで、歌が上手いと認められたい」という心理は、ごく自然なことだ。さらに、

「広い音を出せる=歌が上手い」
「複雑な曲を歌いこなせる=歌が上手い」

という物差しは、非常に明瞭でわかりやすい。
音楽に詳しくない者でも納得できる。


そういった需要を鋭敏に察知し、ヒットソングを連発してきた次世代ミュージシャンがYOASOBIであり、Adoであり、Mrs. GREEN APPLEであり、髭男である。彼らが売れた理由はもちろんそれだけでは無いけれど、そういった背景は多少なりとも影響するのではないか。

友達とのカラオケを思い出してみてほしい。あなたの周りに上記のアーティストの曲を完璧に歌いこなせる人はいますか??いたらそいつはとんでもねぇ才能の持ち主なので、今のうちにサインをもらっておきましょう。


2.藤井風のボーカルの秘密

で、藤井風である。
前置きが長くなりました。


彼の曲を、さきほどのトレンドと照らし合わせてみる。

①とにかく高音域(特に男ボーカル)
②とにかく上下するメロディ
③曲自体のスピードも早い
④転調にリズムチェンジ等、展開も大忙し
⑤結果として、歌うのが激ムズ

すると、微妙に合致しないことに気づく。


彼自身は落ち着いたバリトンボイスだし、音程が激しすぎるというわけでもない。楽曲のテンポも、ゆったりとしたグルーヴを持つものが多い。転調は結構あるが、上記の条件からは微妙にズレている。


なのに、歌うのは激ムズである。
一体なぜか??


それは彼の楽曲に、我々の引き出しにはない「歌うま要素」が込められているからである。

その代表ともいえるのが、「フェイク」「スケール」だ。


「フェイク」とは、予め決められていない、即興的なフレージングで歌唱すること。We Are the World の終盤でレイ・チャールズをはじめとするレジェンドたちが歌いまくるシーンを覚えていますか??あれです。

(6:27~)


そして「スケール」とは音階、すなわち「ドレミファソラシド」のこと。ただし藤井風の場合はポップスで多用されるメジャースケールの他にも、ありとあらゆるスケールを内包しているのが特徴。


スケールは音楽でいう言語なので、これが変わると曲の持つ色、雰囲気が大きく変わる。これは一例だが、たとえば一般のポップスと藤井風は、これくらいスケールが異なる。

ふつう→「ドレミファソラシド」
藤井風→「ドレレ♯ミファファ♯ソララ♯シド」


それを我々一般人が聴くと「なんかオシャレだな」という感想になります。

…で、ここに改めて藤井風の歌唱の秘密を言語化すると、


藤井風は、曲の大枠のメロディはメジャースケールで構築しつつも、いざそれを歌唱すると、フェイクなどの端々に彼の持つ「オシャレスケール感」が漏れ出すという特徴があるのだ。


これが、彼の持つ「味」であり、「色気」の秘密である。


3.実際の楽曲で見てみる


…といっても分かりづらいですね。
では「満ちてゆく」の中で見てみましょうか。

(1:58~)

注目したいのは間奏、1:58からの「満ちてゆくー…」のフレーズ。伸ばした音程がものすごい上下しているのが分かりますか?「言われてみれば、彼の曲はこんなフレーズ多いな」と思う方もいるのでは。

上記は比較的わかりやすい部分だが、藤井風はほとんど全てのフレーズの末尾に、こういったごく短い音程の上下を入れ込んでいる


これがフェイク。そして、このフェイクが上下することにより通過する音の並びが、スケールです。


つまり、我々の多くが歌うま要素として「広い音域」と「音程の正確さ」を物差しとしている一方、藤井風の関心は別のところにあって、


すなわち彼は、
「どの音に着地しようかな」
「あそこにいっても面白いし、あそこにいっても素敵だな」

という遊び心に満ちた観点で、音楽的追求をしていたのである。

…やばい。なんというか、深みが違う。

「毎回の演奏で即興性を発揮し、そのとき最も素敵なものを目指す」


これは古くはジャズに始まる文化であり、こと歌唱に関してはR&Bのアーティストが得意とする領域である。

(参考:Boyz II Menのアニキ)

もちろん、彼もミュージシャン。広い音域とか音程の正確さにもアンテナを張っていないわけが無い。無いけれど、

「広い音域より、魅力的に響く音域」
「正しい音程より、エモく鳴るフレージング」


といったものに、より関心を払っている気がしてならない。…なんかもう、「歌の上手さ」とかを超越した話になってきたな。


では、彼がこういったスケール感覚をどこで身につけたかというと、これは間違いなくピアノの演奏である。

(こうはならんやろ…)

こちらのShake It Offのジャズアレンジとかいう変態カバーにも見られるように、彼のピアノからは多種多様なスケールを感じられ、演奏曲により無限にその色を変える。まるでカメレオンのように。

おそらくデビュー前、あらゆる世界の良曲をカバーし、YouTubeにアップしまくるという武者修行のようなことをしていた時代に、彼は世界中のスケールを、そして超一流ボーカリストたちの歌い回しを肌で学び、スポンジみたいに吸収していったのだろう。

そうした良曲の数々が彼の中でカクテルのごとく混ざり合い、なんとも魅力的な現在の歌唱スタイルを形成するに至った。


…というわけで、我々も彼のように歌えるようになりたいなら「まずピアノを学び、ありとあらゆるジャンルを網羅して、スケール感を身につけていくのが良いよ!!」という話になる。


…どうですか。この絶望感よ。


そんなこんなで、彼はスペシャルな存在なのです。

飄々としてやることエグい。

4.似た系統のボーカリスト


…というわけで、ここまで見てきたように、彼は稀有なボーカリストだ。
それは間違いない。


ただ実は「似たポイントに関心を持っているな」というボーカリストは、日本にも少なからず存在する。最後はそんなアーティストを紹介して締めようと思う。ではご覧ください。

1.さかいゆう

出ました。
オーガスタの鬼才、さかいゆうである。

彼のバックグラウンドはR&Bとゴスペル。
そしてピアニストである。藤井風と共通点は多い。

宇多田ヒカルの「Autmatic」カバーなんて、頼まれてもやりたくない超難題だが、そこは流石のさかいゆう。完璧だ。というかビートなしのピアノ一本でこんなことになるの…? 完全に音楽の遊び方を知り尽くした人のプレーである。


オリジナルもどの楽曲もハズレがない、極上のシンガーであり、プレイヤーである。ぜひ聞いてみてほしい。


2.伊藤大輔(鱧人)

続いて、伊藤大輔さん。

どメジャーで活動する方ではないので、ご存知ない方も多いかもしれないが…彼は、僕が思う「日本で最も歌の上手いシンガー」の一人である。


上記の動画を見てほしい。導入はなんと、ボーカル、ベース、ボイスパーカッションのみ。…え、ベースとリズムだけ???激渋である。途中からジャズピアニストの永井ジョージ氏がボイパ→ピアノへと移行し、代わって伊藤さんがパーカスを引き継ぐ。


…いや、なんそれ。
わけのわからんことをするな。
これが神々の遊びか…


余談だが、当動画にてパーカスとジャズピアノをこなす超絶プレーヤー、永田ジョージ氏にXをフォローされたことが、僕がここ最近で一番テンションが上がった出来事である。…脱線失礼。

ところで伊藤大輔さん、鱧人なる4人のアカペラグループとしても活動していて、こちらも超絶良い。

論より証拠。動画を見てもらうのが一番手っ取り早い。

もはやシンガーとしての技量がブーストしている4名が集まった、まさに神々のアカペラグループである。活動は不定期だが、興味のある方はぜひ。


…ということで個人の好みで2名取り上げてみたが、その他にも久保田利伸さん、三浦大知さん、清水翔太さんなど、やはりR&Bに造詣が深いミュージシャンにこの傾向は強いように思う。

機会があれば、ぜひこの視点でボーカルを聞いてみても面白いかも。


5.総括


…ということで、「藤井風のボーカル」について語ってきました。

おつかれしたー


要約すると、「良質なインプットと音を楽しみまくるスタンスにより、彼の魅力的なスタイルは生まれた」なんて話でしたが、いかがだったでしょうか。

僕は改めて「歌の楽しみ方は自由で無限大だなぁ」なんて思いました。


だから、たまにはカラオケで「見よう見まねで藤井風ばりにフェイクをしまくる」なんて遊びをしても良いのではないでしょうか?アーティスト気分で楽しいよ。


…ただこれ一つ難点が、採点がマジで厳しい結果になって切ない。あと、友人に「なんだこいつ…?」って目で見られるリスクもあるn…ごめん、やらない方が良いかもしれない。

音楽は自由。
でも歌唱力の追求は自己責任で。


カラオケはみんなで楽しく歌いましょう。

以上、考える犬でした。


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