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小枝と雛鳥 其の一

六月末日のことである。
朝、畑の世話をしていた夫が、茶の間に戻ってきた。
「黒くて、ちっこい鳥が、木に留まったままで動かない」
という。
玄関脇の南天木を見る。地面から、おおよそ60センチぐらいの処。
細い幹と小枝との間に、挟まるような格好で小鳥がいた。
体長は7、8センチ程。
羽の色は、消炭(けしずみ)にが斑に入っている感じ。
頭から首周り、それから、ぷっくりしたお腹の辺りは、ぽしゃぽしゃした綿毛のような羽毛に覆われている。
薄紅色をした平べったい嘴は、その頭の大きさに比べると、不自然なくらいに大きい。雛鳥と思われる。
閉じられた瞼が一瞬開いて、くりっと、こちらを見た。
これまた、頭の半分はありそうな、大きな瞳。
真っ黒で、まん丸で、じつに可愛い。
けれども、その見た目から判断すると、野鳥として独り立ちするには、やや幼い印象。人間の私が、これほど近づいても、羽ばたくどころか、一歩たりとも逃げる様子がない。と、いうか、逃げられないのだ。
目を見開いて、じっと、こちらを見つめている。
が、羽毛は小刻みに震えている。明らかに怯えているのが解かる。
「巣から落ちたかな」
私は、そっと南天木から離れた。

湘南の西の端(はずれ)は、まさに梅雨の只中。
小雨が降ったり止んだりの空を見上げて、逸れ雛鳥の身を案じる。
夕刻からは、大雨の予報。


つづく

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