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小枝と雛鳥 其の五

正午を過ぎ、昼食と休憩のため、夫が二階から降りてくる。
庭で煙草を一服した後、

「あいつ、まだいるね。丸くなってる」
と、端的に雛鳥の様子を私に伝える。

親鳥が一度、餌を与えに来たこと。『AI Chat』の提案に従い、自然保護センターに連絡し、今後の指示を仰いだ旨を夫に伝えると、
「すげぇな、AI」
親鳥が来たことよりも、センターの対応よりも、AIの機能に感嘆する。
「…死なねぇかな。あいつ」
彼なりに気遣っているのだろうが、やや言葉の配慮に乏しい。

簡単に昼食を済ませ、パソコンに向かう。
窓越しに臨む箱根山の碧い影も、今日は、厚い雲の几帳に隔てられている。
いつまた雨が落ちてきても、おかしくはない。

雛鳥は、相変わらず同じところで、じっとしている。
南天木の傍へ寄って私が覗き見ても、あまり怯える様子は無くなった。
慣れたのか。
それとも、怯えるほどの気力も無くなっているのか…
その後。
親鳥らしき姿を見かけたのは、二回。
一回は、コーヒーを淹れに茶の間に戻ったとき。南天木の小枝に掴まって、羽搏いていた。
二回目は、郵便物の確認のため庭に出たとき。東側隣家の屋根から、こちらを窺っていた。

夕刻が迫る。辺りは、暗さを増していく。
稲妻。雷鳴。
とうとう、雨が降り出した。

パソコンの電源を切り、雛の様子を見に行こうと、立ち上がったところで電話が鳴った。外構工事の見積もりを依頼している業者からだった。
応対しているうち、息子が帰宅した。ああ。もう、こんな時間か。
明日も早い。すぐさま夕食の支度に取り掛からねば。

つづく


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