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小枝と雛鳥 其の二

ひとまず、茶の間に戻る。
夫は、仕事のため、既に二階の自室に上がっていた。
この天候では、洗濯物の外干しは不可。台所の片づけを優先する。
幸い、南側の腰高窓から南天木がよく見える。
ところが、雛鳥の姿がない。私は、再び玄関へ向かった。
上がり框で一旦落ち着いてから、サンダルを履き、そっと扉を引き開ける。
先ほどと同じ場所、同じ姿勢で雛鳥は居た。

一息つき、茶の間に戻る。改めて腰高窓から雛を探す。
驚いたことに、この位置からだと雛鳥の姿は、ちょうど、小枝の先の葉陰に隠れて見えないのである。
よーく目を凝らせば、尾羽の端が、ちょこっと覗いているのが解かる。が、ほぼ小枝の一部にしか見えない。
偶然か。はたまた野生に備わる知恵なのか。
私は、思わず唸る。

その時。
雛鳥が縮こまっていた体を、すんっ、と伸ばし、天を仰いで、ぴいぴい啼きはじめた。
次の瞬間、
ぱさっ、と勢いのある羽音とともに、フェンスの上。
一羽の鳥が舞い降りたのだ。
雛鳥と同じく消炭色(けしずみいろ)の羽。体長は、20センチ程か。
頬のあたりに赤茶の斑。黒々とした嘴は、細く鋭く尖っている。
雛鳥の親だろうか。

フェンスから南天木まで、一メートルもない。
今一度羽搏いて、鳥は、南天の小枝に舞い降りると、
大きく開いた雛鳥の嘴に、自身の鋭い嘴を差し入れた。

つづく



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