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リーダー/チーフを抜擢する苦悩

チームで仕事をしていると、多様な意見を取りまとめ、決定し、そしてその決定の遂行に責任を持つ人が必要になる。そのポジションは「リーダー」と呼ばれたり、「チーフ」と呼ばれたりする。

組織をマネジメントしている人が苦労することのひとつが、この「リーダ、チーフを抜擢する」ことではないかと思う。単純に、その組織の所属年数が長い人とか、業界歴の長い人を抜擢すればいいように思えるかもしれないが、自分的にはこれで上手くいかなかった例を身近にいくつも経験しているので、なおさら慎重になりがちなところがある。

ケース1:その組織のトップは古いタイプのマネジメント手法を取る人で「肩書が人を作る」とよく言っていた。つまりどんな人でも、知識や経験が多少不足していても、抜擢してしまえば、「その肩書にふさわしい人にならねば!」というプレッシャーにより成長にブーストがかかる、自然にその肩書にふさわしい器になる、みたいな考え方だった。たぶんそれも一理あって、その育成がうまくいくケースもあるんだろうとは思う。だけど私が実際見たケースでは、組織改編に伴って、新しいリーダーポジションに抜擢された人が、そのプレッシャーに押しつぶされて1年で退職してしまったというものだった。

ケース2:他者からの抜擢が上手くいかないからといって、自主的に手を挙げてもらえばいいかといえばそうでもない。自分で「やりたいです!」と言ったとしても、客観的に見て本人のスキルセットやマインドセットにその準備ができていない場合は止めなくてはいけない。リーダーは複数の意見を取りまとめて決定しなければいけないポジションなので、そのポジションになってはじめて見える景色がある。チームのメンバーとして参加していた時にいた「コンフォートゾーン」からは抜けなくてはいけない。この不安を引き受ける準備がないと、本人がやりたいといった気持ちを尊重したつもりが、実際にリーダに不向きだった場合に「やりたいといったのは自分だから」という責任感で「やっぱりできない、自分には向いていない」が言えなくなってしまい、最終的に人材がつぶれるということが起こる。

こういった「リーダー/チーフ抜擢」に伴う、いろいろなアンハッピーな事例を経験しているので、私はリーダー抜擢にかなりの慎重派になっている。でも逆にいろいろ経験しているからこそ、自分なりの条件も見えてきており、具体的には以下の6つの点がポイントなんじゃないかと思っている。

誤解しないでほしいのは、「リーダー/チーフはこういう人材」という型を決めたいわけではない。10人いれば10タイプのリーダーのあり方があると思う。いろいろなあり方があってもいいけど、この6つのポイントを抜擢の際の着眼点にしておけば、上記のようなアンハッピーなことが起こりにくいんじゃないかと考えている。

リーダー/チーフに抜擢できる人材のポイント

1)「NO」が言える
それは本当に必要ですか?何のためにやるんですか?を含めて、カウンターパートからの要望で、必要がないと思うことには「NO」が言えなくてはいけない。リーダーが「YES」しか言わないと、結局そのチームのメンバーになんでもかんでも降ってくるし、「このリーダーはちゃんと物を考えているのか…?」と思われてしまう。

2)360度で評価を稼ごうとしない
仕事なのでカウンターパートの評価というのは大事だが、たくさんのステークホルダーと仕事をしていればステークホルダー同士で価値観が違うとか、優先順位が違う、ということもある。その時に、本当に大切にしなくてはいけないものが何なのかを考えてどちらかを取らなければいけないこともある。(もちろん、説明はきちんとする。)360度方位でいい顔をしようとすると結局「この人は何の判断基準で物事を決めているんだ?」と信頼してもらえないということになるし、何よりリーダー自身が苦しくなってしまう。

3)自分軸がある
上記の1と2とほぼ同じなのだが、何かを決める、決めた決断を遂行する、それがうまくいかないときには速やかに間違いを認めてプランBを実行する、こういうことには「自分軸」が必要になる。他人軸で動いているとブレてブレて決断ができない。そしてその自分軸をチームメンバーに開示することも必要で、こういう理念、思想、価値観、優先順位なので、こういう決断なんだ、と決断までのプロセスが分かると、周囲も理解しやすい。

4)嫌われる勇気
決断には、トロッコ問題のように「どちらを選択してもクソ、まだマシなクソを選ぶ」(CV.リヴァイ兵長)ということだってある。みんなが納得する分かりやすい正解なんぞはなく、自分が選んだものをチームの納得解、最適解にするだけなのだが、自分が選択したものに不満を持つメンバーだって当然いる。努力したって分かってもらえないことだってある。それはしょうがない、と引き受ける勇気が必要。

5)そして愛
そしてリーダー、チーフは任されたプロジェクトに対して愛が必要。上に言われたからといって、興味がないプロジェクトを嫌々やっていたら、周囲に伝わるし、チームのモチベーションも下がっていく。どんなプロジェクトであっても、そこに「おもしろみ」や「自分がやる意味」を主体的に発見し、ジブンゴト化できる、こういう人は成長角度も常に高いし、困難に強い。そしてその姿勢で周囲を巻き込むこともできる。

6)切り替えスイッチを持っている
リーダー、チーフになってしまうと、ずーっと仕事のことを考えてしまいがちになる。そしてポジション的に、休みの日にもトラブル対応が起こってしまったりする。なので意図的に「ここからはオフ」と切り替える必要がある。これも切り替えの上手い人/苦手な人がおり、マンガでもアニメでもスポーツでも何でもいいけど没頭できる何かを持っている人(自分の休ませ方を知っている人)は強い。

と、6個書いたけど、メンタリティがほとんどで知識や経験にはあまり触れていない。チームのメンバーとして場数を踏めば、いつかみんなリーダーになれるかといえばそうでもないし、学生時代に何かのリーダーをやってきたような人はリーダーの練習ができているので、現場の経験は少ないけど、この6つの着眼点を指標にした場合に初期値が高かったりもする。

そして、最初にリーダーとして抜擢する際に本人の資質と同じく重要なのが「いいメンバー(フォロワー)」とチームにすることだと思う。特に同じ年代の中である1人が抜擢された際に、それを快く思わない人がチームにいると、その人が不必要にリーダーを試したり、貶めるような言動を取ることがある。新米リーダーの場合は、こういう「本来、不必要なエネルギー」を使わなくて済むように、デビュー戦で本来の力を尽くせるよう、いいメンバーと組ませてあげることが管理者としては大切なのかなと思っている。



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