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パリスの審判:5.三美神の誕生とその関係

パリスの審判の一方の主役である三美神の誕生の物語について紹介してきました。今回は、その三美神の関係について整理し、神々の王ゼウスが自ら美の審判をすることをなぜ拒否したのかについて考察します。

誕生エピソードの復習

まずアフロディーテは、ウラノスの息子であるクロノスが、父の男根を鎌で切り取り、海に投げ込んだ結果、海から誕生しました。それも成人として。

いわゆるヴィーナス誕生ですね。

ゼウスの最後の妻となるヘラは、生まれるとすぐに他の姉弟と同様に父クロノスの腹の中に呑み込まれていました。クロノスの妻と両親の計らいによってクロノスに呑み込まれることなく無事に成長した末弟ゼウスの詭計によって、ヘラは、他の姉弟と一緒に腹から吐き出され、ようやくのことでこの世で生きていくことができるようになったのです。

アテナもまた何とも奇妙な生まれ方をしています。
アテナは、ゼウスの最初の妻であるメティスの間の娘です。しかし、なんとゼウスも父クロノスがやったように、というか、それよりもひどいことをしています。最初の妻メティスが臨月の時、つまり、アテナが生まれようとする時に、母子ともども呑みこんでしまったのです。

ゼウスがヘラと結婚した時に、アテナは、ゼウスの頭から生まれたのです。

三美神の系図

クロノスは、ウラノスの末子として生まれました。アフロディーテは、クロノスがウラノスの男根を海に投げ入れられたことで生まれました。ということで、因果関係から言えば、アフロディーテは、ウラノスの末娘ということになります。

クロノスとアフロディーテは、異母兄弟ですね。

クロノスの息子がゼウス、娘がヘラです。ヘラは、最初の誕生で言えば、ゼウスの姉ですが、クロノスの腹の中にいたので、ゼウスの20歳ぐらい下の妹のような感じになります。

オリンポス山の神々の王の地位は次のようになります。

ウラノス→クロノス(末子)→ゼウス(末子)

アテナは、神々の王の三代目のゼウスの長女です。

ゼウスを軸にした三美神の関係

書いているうちに頭がくらくらしてきて分からなくなります。ゼウスを基準にして、アフロディーテ・ヘラ・アテナの三美神の関係を整理してみたいと思います。

アフロディーテは、ゼウスにとって祖父であるウラノスの娘ですから、父クロノスの妹ということになります。よって、ゼウスにとってアフロディーテは、叔母さんですね。

ヘラは、ゼウスの最後のです。出産の順番で言えば、ゼウスの姉です。しかし、父クロノスの腹の中に長いこといて、成人したゼウスによって救い出されて体外に出たのです。ということで、ゼウスよりもずっと年下になりました。少なくとも15歳以上はゼウスよりも年下ではないかと思います。

最後にアテナです。
ゼウスの最初の妻メティスの娘です。つまり、ゼウスにとっては、です。しかし、生まれる直前に母親のメティスとともにゼウスに呑み込まれたのです。
ゼウスが最後の妻ヘラと結婚した後で、ゼウスの頭から生まれています。ということは、ヘラよりもずっと若いと思います。

もう一度、ゼウスを基準に整理します。
アフロディーテは、ゼウスにとって叔母
ヘラは、ゼウスにとって姉ですが、出生の事情もあって年下の
アテナは、ゼウスにとって最初の妻の娘、しかし、長いことゼウスの体内に呑み込まれていたので、ゼウスが高齢になってからの

なぜ神々の王ゼウスは美の審判を拒絶したのか

パリスの審判は、プティア国の王ペレウスと海の女神テティスの結婚の宴に招待されなかった不和と争いの女神エリスが、「最も美しい方へ」と書かれた黄金の林檎りんごを投げ込んだことから起きました。

我こそは、一番美しいと女神同士が争ったことで、結婚式は台無しになりました。最後まで美貌を競って残ったのが、アフロディーテ、ヘラ、アテナという訳です。
この三美神は、その最終裁定(審判)を、神々の王であるゼウスに求めたのです。神々の王であれば、その役割は、ある意味当然ですよね。

ところが、ゼウスは、その役割を拒絶します。三美神の中から一番美しい女神を選ぶという役割を、イダ山の山中で羊飼いをしていたパリスに押し付けたのです。
それで、木の根っこに座り休憩していたパリスの前に、ヘルメスに先導された三美神が突如現れ、審判を要求したという訳です。

ここまで長い時間をかけて、三美神の誕生と関係について考察してきたのは、なぜゼウスが審判を拒絶したのかの、ゼウスにとっての拒絶の「合理的な」理由を明らかにしたかったからです。

なぜゼウスは、審判を拒否したのか。それは、三美神ともゼウスにとってはとてもちかしい関係だったからだと思います。そうであれば、り合っている三美神のうちの誰を選んでも遺恨いこんが残りますよね。怨みを買います。そんな貧乏くじ誰も引きたくないですよね。

だからこそゼウスは、それ(審判)を自分でするのは拒否し、何の関係もないパリスに押し付けたのではないか、これが私の独断と偏見による解釈です。

パリスこそいい迷惑ですよね。
それ(パリスの審判)が、やがて人間界にわざわい(トロイア戦争)をもたらすことは、ゼウスは当然のことながら知っていたはずです。それなのに、パリスに押し付けたのです。

パリスの審判の時の三美神の推定年齢

年齢を推定するというのは、時間軸にゆがみがある神話の世界のことに対してあまり意味のある行為だとは思いませんし、正直、無粋ぶすいだと思います。
そのことは重々承知しているのですが、敢えて推測させてください。
遊びだと思ってつきあってください。

成人したゼウスは、ヘラたち姉や兄を父クロノスの体内から救出します。この時点で末弟のゼウスは、一番年長になり、姉のヘラは、年齢的には妹になります。そのゼウスの最後の妻がヘラです。
ここから大胆な推測をすると、ゼウスとヘラの年齢差は15歳以上あるように思います。

ゼウスとヘラが結婚した後で、ゼウスの最初の妻の子アテナが、ゼウスの頭から誕生しています。
そのアテナが、ペレウスと女神テティスの婚姻の場に出席し、美貌をアフロディーテやヘラと競うには、20歳前後にはなっていたと思います。

アテナが20歳前後だと仮定すると、当然、ゼウスの最後の妻ヘラは、多分、40歳近くにはなっていると思います。ゼウスは、ヘラよりも15歳以上年長だと思われるので、50歳から60歳です。

ゼウスが50代か60代だとすると、ゼウスの叔母さんにあたるアフロディーテは、当然それよりも少なくとも10歳か20歳は上ですから、おまけに成人で生まれているので、少なくとも70歳以上のような気がします。

ルーベンス『パリスの審判』(1639年)プラド美術館所蔵

画面の左端に牧羊犬を伴い木の根っ子に腰掛けているのが羊飼いのパリスです。その後につばの広い帽子(ハット)をかぶり黄金の林檎りんごを手に持っているのがヘルメスです。三柱の女神を、羊飼いパリスのもとに案内してきたのです。

女神たちですが、画面中央の女神の足元に兜と楯が描かれているので、アテナです。多分、20代です。
その右の女神の脚につかまっているのは、恋の矢を放つキューピッドです。よって、美と愛の女神アフロディーテです。若い!若すぎる。しかし、実年齢は、すでに考察したように、70は越えているはずです。
もちろん、これは、アフロディーテのせいではなくて、描いたルーベンスが責めを負うべきことですよね。

ヘラは、年相応に描かれているように思います。推定年齢40歳です。

終わりに

なぜパリスの審判?という謎を解明するために、延々と三美神の誕生秘話から読み解いてきました。

要するに、神々の王ゼウスが三美神の審判を拒否し、大変な役割を羊飼いのパリスに押し付けたから生じた「事件」が、パリスの審判だったという訳です。

なぜゼウスは、審判を拒否したのか。
遺恨いこんを残さないためです。すでに見てきたよう、ゼウスにとって公平かつ客観的になれようもない三美神との関係なのです。ちかしすぎる関係なのです。

ゼウスがなぜ審判を拒否したのかの「合理的な」理由を求めて、三美神の誕生秘話から辿たどってきました。

本日も最後までつきあっていただき、本当にありがとうございます!


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