「やさぐれ魔法の王女様」 6、分かれ道


 カレンが魔法を受け取る日まであと2週間。カレンが魔法の秘密を探ることを諦めると自分が王女だという事を思い出した。それまであまり手を付けていなかった国務に取り掛かるが全く筆が進まない。

カレン
「・・・新しい市長の就任祝い。なんて書けばいいのよ、知らないわよ、こんなやつ」

 書類をデスクに叩きつけると灰皿を引き寄せて煙草に火をつけた。ぼーっと文章を考えるふりをして考えないというサボリをしていると、クロムがユイを連れて部屋に入ってきた。その手にはバケツとスコップが握られている。

カレン
「どうしたの?そんなもの持ってきて。これから潮干狩りでも行くつもり?」

クロム
「この国に海なんてないでしょうに・・・違うよ。今日実はユイの実家から花の種がいっぱい送られてきたんだ。なんかユイがこのまま故郷を忘れないようにってね」

カレン
「・・・それだとなんか私がまるでユイを誘拐してきたみたいじゃない。わかったわ。その責任は私にもあるってことで手伝えっていうんでしょ?」

 ユイは「そんなことありません」と言葉では否定していたが嬉しそうな顔をしていた。カレンは送られてきた段ボールを覗き込むと花の種が大量に入っていた。

クロム
「これ・・・花壇に入るかな?」

カレン
「入らないわね、入らないなら作ればいいのよ」

 外に出て花壇を作るのに適当な場所がないか探し始めた。カレンたちは屋敷から少し離れた場所。雑草が生えていて全く手入れをしていない場所を見つけた。

そこは不思議な空間でそこだけ木が生えていなかった。

カレン
「ここならどう?花屋さん。日の光も当たるし、風通しも良さそうだし。・・・でも植えるには少し地面が固いわね」

 持ってきた小さいスコップを突き刺すも全く歯が立たない。

ユイ
「そうですね、多分ここなら大丈夫かと。土が固いみたいなので私、大きいクワを持ってきますね」

そういうとクロムとユイは屋敷の倉庫に向っていった。

 カレンはそれでも何とかならないかと柔らかい部分を探すためにスコップを突き刺しまくる。すると一部分だけスコップが「スルっ」と土の中に入る部分を発見した。比較的柔らかい土をどかしながら20センチほど掘り進むとスコップが「カキン」と音を出して何かに当たった。

カレン
「・・・明らかに金属音がしたわね。水道管か排水管に当たったかしら」

 周囲を見渡してもメーターボックスやそれらしい蛇口が見つからなかった。そのまま少しずつ掘りながら土どかしていくとそれが管ではなく何やら四角い金属箱のようなものが現れた。

カレン
「もしかしてタイムカプセルとか?ロマンチックなことをするじゃない」

 埋まっていたのは有名なブランド店のお菓子の金属箱。若干塗装が剥げていて錆もくっついているが穴は空いていない様子。カレンは箱を掘り出して土を軽く払った。

カレン
「クロムとユイが見たらなんていうかしらねこれ」

そう言いながら缶をひっくり返して裏側を見るとカレンの表情が固まった。

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7,558字
「龍を倒す」こと。剣や魔法でドラゴン退治はファンタジーの王道ですが、そんな王道から少し外れた先の未来。握らなければいけないのは剣や魔法の杖ではなく、自分の種になるかもしれない。

完結済みのオリジナルの小説です。全21話。文字数は大体18万字あります。少々長いですが良ければどうぞ。

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