「やさぐれ魔法の王女様」 0、魔法の国家 レトリック


 ここは「魔法の国家 レトリック王国」

 大陸の内陸に位置するこの国は、絶対的な王政と魔法によって治められている。

 太古の昔この土地は未開の地だった。そこには「魔物」と呼ばれる生き物が今よりも多く生息しており、人々は日々魔物の脅威に恐れながら暮らしていた。

 そんなある時、魔物に対抗できる魔法を使える人物がこの土地に降り立つ。その人物は魔法を使い魔物を追い払い、やがてこの国を作っていく。

 その人物の末裔こそが現在の国王。16代目「ガルド・レトリック」であり、魔物を追い払った魔法が現代まで継承されている。

 魔法は王家に生まれた王族のみに引き継ぐことが出来る秘中の秘術。表には全く情報が出ていない。その力を使って国王は世襲的に自分の子供に魔法を受け継がせ、国の大臣として任命していく。政治体制は独裁的であるが経済力やテクノロジーは国際社会から見ても高水準であり、れっきとした先進国である。

 この土地に住んでいたかつての魔物は今も現存しているが、魔法の力によって住む場所を限定されている。しかしその限定された領域は未開の山岳地帯や森林であり、そこには魔物の「頂点」と呼ばれる「龍」が存在し、自らの縄張りを守って暮らしている。

そんな未開の地のある場所でけたたましい音を立ててバイクが走っていた。

 バイクにはサイドカーが取り付けられており、そこには黒いドレス調の服を来た女性が座っていた。座っていたというよりも眠っている様子だった。バイクが段差を越えるたびにその体は揺れ動いている。その女性は気が付いたのかゆっくりと目を開けた。

「どう?目覚めは」

白いドレス調の服で風を切り、金髪縦ロールをなびかせながらバイクを運転している人物は「カレン・カトレア元王女」正真正銘ガルド国王の娘。元第2王女である。

 彼女はこの辺境の地「アレスト」と呼ばれている土地を治める領主的立場にある。本来ならこんな土地を治めるなんてことはしない筈の地位であるが、彼女は数年前にとんでもない事件を起こした。本来なら打ち首になってもおかしくはなかったのかもしれないが、国王はカレンを罰として勘当しこの土地に捨てた。

・・・まあ確かにこんな辺境の地なんてほぼ島流しに近いものではあるが、国王の目論見は外れたのかカレンは水を得た魚のようにたくましく生きている。

カレン
「クロムも少しは景色を楽しんだら?ほら、これあげるから」

 そういうとカレンは胸元から煙草とライターを取り出すと、サイドカーに向って投げつけた。クロムは「あぶなっ」と受け取ると煙草を取り出して咥えると火をつけた。銘柄は「シルバー」カレンのお気に入りである。

 サイドカーに乗って煙草を吸い始めた人物は「クロム・カトレア元王女」正真正銘ガルド国王の娘。第12王女である。彼女がここに居る理由も同じくカレンの事件に深く関与したために同罪と見なされ同じようにこの土地に捨てられた。

 クロムはカレンのサボリに付き合わされていた。天気が良くて風があまり強くない。それでいて緑の香りがしてきた時。つまりカレンが仕事をさぼる最高の条件が揃ったとき、決まってカレンはバイクにまたがるとどこかに消えてしまう。

 少し小高い丘に付くとカレンはバイクを止めて降りた。「うーん」と背伸びをしながら腰に手を当てて景色を眺めた。その様子をサイドカーの中からクロムが見ているとカレンが呼びつける。

カレン
「そんなところに居ちゃいい景色が見えないでしょ?こっちに来なさいよ。最高にいい朝じゃない」

 クロムは煙草を咥えたまま首を横に振るとカレンが近寄ってきて咥えている煙草を奪って吸い始め、強引にクロムをサイドカーの中から引っ張り出す。

クロム
「・・・いつもと変わらない景色だけど?」

 目の前に広がるのは国の端っこ。隣の国との境界領域。うっそうと茂った森や高い山が見て取れる。まさに秘境といってもいいだろうという土地。クロムは内ポケットに入っていたスマホを取りだしたがそこは見事に圏外。衛星電話でも無ければ繋がらない。仕方なくクロムはその風景を眺めているとカレンが突然何かを思い出した。

カレン
「・・・そういえばあいつの様子を見に行く日が近かったわよね?」

 クロムは下げていたカバンに詰めてある手帳を開くと予定を確認していた。

クロム
「・・・ああ、彼ですか。そうですね確かに」

カレン
「ここまで来たんだからついでよ。大丈夫。いざという時の為の武器は積んであるわ」

 そういうとカレンはバイクの脇を指さした。指の先には魔物用の銃とマチェット。救難信号弾が入った銃が刺さっていた。レンたちが今から会いに行くのはこの山のもう少し奥。太古の森、神域と言われている場所に居る人物。

それが「毒龍 ジニー」である。

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「龍を倒す」こと。剣や魔法でドラゴン退治はファンタジーの王道ですが、そんな王道から少し外れた先の未来。握らなければいけないのは剣や魔法の杖ではなく、自分の種になるかもしれない。

完結済みのオリジナルの小説です。全21話。文字数は大体18万字あります。少々長いですが良ければどうぞ。

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