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【短編】死を宣告された人

「あなたは死にました。なので、生まれ変わってもらいます」

 耳元で優しくも冷たい声が響き渡る。ここはどこだろうか?夢の中か?そうなのか。だとしたら聞こえてくる声は何だ?私はゆっくりと体を起こす。すると目の前に真っ白な衣服を着た人物が立っていた。

「もう一度いいますね?貴女は死にました。だから生まれ変わります」

 最近流行っている異世界転生ものを見すぎたせいなのか?それとも寝ぼけて見ている夢なのか。それがわからない。

 目を見開いて周囲を見渡す。いつもの部屋、いつもの風景。でも目の前に不気味な人。
金縛りでもない。少しだけ汗をかいている。嫌な汗ではない。嫌な感覚でもない。

私はとっさに次の言葉を口にしていた。

「・・・異世界に飛ばされるのですか?」

 その言葉を聞いた白いドレスを着た女性は笑顔になった。

「それもいいのかもしれません。ですが貴女が行く先はこの世界です。変わりのないこの世界で旅をしてもらいます。ええ、それが」

「現実ですから」

その言葉を受けとって数分、静寂が訪れた。と思ったら次の瞬間にベッドが溶けるように無くなり、私の体は空中に浮いている。

「真っ暗・・・」

体は自由に宙を舞い、行ったことは無いけれど宇宙に行ったような感覚になる。まるで母親のお腹の中に居たかのような安心感と、全てを誰かに任せているような不思議な感覚。それがこの真っ暗な世界に灯っていた。何も明かりは見えないのに。

 私はどうやら「立たされた」らしい。自分の目の前に手をやっても全く見えないほどの暗闇。だけど感覚だけはしっかりしているらしくて、立たされたという重力を感じた。

「本当に暗闇」

ぽつりとつぶやくその言葉は響きもせずにかといって吸収されることもない。不思議な空間。見えるものは何もない。目を凝らせば暗闇に慣れるように人の目は出来ていると聞いたことがあるけれど、そんなこともなくて長い時間が経ってもずっと暗いまま。

「・・・」

 怖くはなかった。子供のころは意味もないのに暗闇を怖がることがある人もいたかもしれない、今も子供かもしれないが、私はそんな子供だった。決まって夜寝るときにいつも豆電球を灯しているのを親に何度も注意されたことを思いだす。

「いつからだろう、暗闇を恐怖ではなく、不便だと感じるようになったのは」

 そんなことを考えつつも暗闇の中で過ごすこと数時間。一向に何も見えないまま。

 静寂。しかしさみしくはない。どこか懐かしい気分と、どこか安心する暗さを持っている。

「真っ暗・・・というよりも真っ黒?」

それに気が付いた途端、さっきのはた迷惑な人が頭の中に声を響かせてきた。

「おめでとう。あんたはやっぱりやる奴だ。と思ったよ」

 突然のことで私は目を左右上下に振ったが、その先は何もない。ふと自分の頭の中に意識を置く。不思議なのだけれど、馬鹿にされるかもしれない。

「そこは完全に暗闇なのに、暗闇を求めて私は目を閉じたのだ」

 さっきと変わらない光景が目の前に広がる。というよりも薄い瞼が眼球の上を覆いかぶさり、当然のことながら目を閉じるわけなので何も見ることができない。

「それって、今の状況と何も変わらなくないか?」

そんな声がまた頭の中に響き渡る。確かに。と私はその声にうなずいてしまった。

「考えようと、そして何かを捕まえようと頭の中へアクセスするのに必要な暗闇が外側から提供されているのにも関わらず、目を閉じた。これってはたから見れば馬鹿じゃない?」

「そんなことはないよ」

私は暗闇の中で頭を上げると、声の主は微笑んだ声をしていた。

「だって人はそういうものだから。外からいくら与えられても結局最後は自分でその与えられたものをヒントに自分の中に作らないといけないでしょ?さあ、次はどうなるのかな?」

その言葉が終わると、私の体は飛ばされていった。

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