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【短編】宝石は美しい

私は街の角に宝石商があることを知っていた。

そこには沢山の宝石がキラキラと輝いている。それを外から眺めることは誰にでも出来るし、私にも出来る。

そう、貧乏な私でも。

私がその宝石商を眺めていると同じくらいの年の子が親につられて誕生日なのかな、宝石が付いたネックレスを買ってもらっていた。

「いいなぁ」と指をくわえて見ている。

私は明日をどうやって生きようかと考えていて、それだけで手一杯。本来なら宝石なんかあっても食べることが出来ないし、火も起こせない。

もちろん、売ることは出来るけど。

だったらそんなまどろっこしいことはしないで食料とか飲み物とか、宿泊する場所とかそういうのが欲しい。

別に宝石なんか欲しくないのに、私は街に出かけると決まってそのショーケースを眺めている。

「人って不思議だよね」

振り返ると同じ年くらいの女の子が立っていた。

「えっ?」

「だって身に着けても意味ないのに、欲しがるんでしょ?ああいうキラキラしたもの」

この子は私がずっとここに居ることを知っていたみたいだ。

「憧れちゃいけないの?」

私が反論するとその子はクスッと笑った。

「憧れねぇ・・・憧れっていうのはそんなショーケースに入った物なの?」

私は口を閉じた。

その子は地面から石を掴むと私に問いかける。

「ほら、この石でそのガラスを割れば憧れ手に入るよ?もちろん怒られたり、捕まったり、追いかけまわされたりするとは思うけど」

「そんなこと出来ないよ」

「・・・そうなの?あなたの憧れを手に入れる方法は今これくらいしかないけど」

私はその子に言った。

「誰かに迷惑を掛けちゃいけないんだよ。宝石だって誰かがああやって綺麗に細工をしてそれでキラキラってしてるからその人たちに悪いよ」

その子はニヤニヤしていた。

「じゃあ、そのキラキラってのは人が作った物だね」

「君は人が作った物に憧れているんだ。人工物じゃん」

その子は石を地面に置いた。

「そうかもしれないけど、ああいう宝石を身に着けて町を歩いてみたい。パーティにも行きたい。かっこいい彼氏とデートもしてみたい」

私はムキになって反論していた。

その子はため息をついた。

「ふぅ・・・そうなのね、そういう願望があなたに有るのは羨ましい限り。憧れる存在を追いかけているうちが幸せかもしれない」

その子はそういうとその場を後にした。

私は宝石を眺めていたがしばらくしてその店を後にした。

宝石は美しい、美しいことは知っている。憧れることも知っている。知っているが届かない。届かないから願う。願っても届かない。だから指を咥えて見ているしかない。

指を咥えることに飽きたらそこから出ていって外で働く。働くと辛くなる。辛いから目標が欲しくなる。目標は何だ?

宝石を身に着けて町を歩くこと、親しい人と遊ぶこと。

そういう事がしたい。でも叶わない。今の状況では絶対叶わない。

宝石を買える人は限られている。

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