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銭湯の未来を真剣に考えよう(統計でみる銭湯:元旦特番)

■ 公衆浴場の2030年問題?

東京区部(23区)における銭湯数は、2020年12月末時点の453軒から436軒となり17軒が閉業。減少率は3.8%であった。ただし廃業数は12月20日時点の数値を用いているため、今月末に閉業した銭湯を含めるとさらに多い可能性がある。この軒数は、東京都浴場組合が公表している長期時系列データのうち、銭湯軒数が最も多かった1968年(2,408軒)と比べて2割を切ってしまっている。(下図)

20211231_都内の銭湯数

出所:東京都浴場組合
※23区内の2021年の銭湯数は筆者推計

過去5年間の平均減少率(4.5%)で今後も銭湯が姿を消していく・かつ新規開業はないと仮定すると、23区内の銭湯数は2030年に300軒を割って289軒、40年に175軒、50年には116軒と、30年弱で3ケタを切るところまで見えてくる。

さらに2030年には1947~49年生まれの「団塊の世代」が80歳を超え、歩行の困難などで銭湯に通うことが難しくなっていくため、客離れが加速する恐れもある。

日本政策金融公庫が2019年に行ったアンケート調査によると、中小企業のうち後継者が決まっているのは8分の1(12.5%)にすぎず、逆に半分以上(52.6%)が廃業予定、すなわち自分の代で事業を畳むと回答した(※1)。特に銭湯(公衆浴場)の属する生活関連サービス業は6割以上が廃業予定で、銭湯業界でも後継問題が深刻化していることがうかがえる。

このような中、銭湯が今後10年程度のうちに相当程度減少してしまうのではないかという危機感は、多くの関係者が共有するところだろう。

■ インバウンドという「黒船」の喪失

それにつけても、インバウンド(訪日旅行者)が新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)で「蒸発」したことのダメージは銭湯業界にとっても大きかった。2020年4月以降の入国に厳しい制限が課された結果、同年のインバウンドによる旅行消費は前年から85%以上減少した(※2)。

日本におけるインバウンド旅行者が急増を見せたのは2015年以降で、前年には日本人の海外旅行者数を海外からの旅行者数が上回り、政府もビザの発給要件緩和や免税制度の改正で本格的にインバウンド誘致に乗り出した時期であった。銭湯にも、外国人の姿を多く認めるようになったのもおおむねこの5年程度の現象であったと推察する。

過去のこととはいえネガティブな記述になるので具体名は伏せるが、台東区上野エリアにある某銭湯は、少し前の口コミを見ているとお世辞にもフレンドリーな銭湯とは言えなかったことがうかがえる。しかし、2018年ごろに初めて訪問してみると、口コミから抱いていたイメージとは全く違って驚いたことを覚えている。

台東区は上野、浅草というインバウンドの人気観光スポットを抱え、この銭湯にも多くの外国人が訪れたに違いない。実際、同湯の浴室にも外国語で入浴方法を示すインストラクションが貼られていた。同湯における接客の改善の要因の少なくとも一つに、外国人客の急増があった可能性は高い。

裸で他人同士が風呂に入る銭湯という施設は、世界的に見ても独自性が高い。むろん海外にも公共の温浴施設はあるが、大半は水着を着用するか、タオル巻きっぱなしというところが多い。そうした中で、そもそも人前で裸になって風呂に入るという習慣になじみの薄い大勢の外国人の流入は、まさに「黒船」のような効果をもたらしたと言える。

すなわち自分たちのターゲット顧客やサービスの提供方法を改めて見つめなおし、より持続的なビジネスモデルへと転化させるドライバーとなるポテンシャルを秘めていたはずなのだ。が、COVID-19の影響でその外圧を期待するのは難しくなった。

大手OTA(オンライン旅行会社)によるグローバル規模の旅行者アンケートでは、COVID-19に伴う感染リスク抑制のニーズが上昇していることが示唆されている。なじみのない外国人の銭湯への警戒感も低くないと考えられるため、仮に渡航制限が緩和され、旅行者が海外から流入したとしても客足が伸びない恐れがある。そのため当面は国内客の取り込みを進化させていく必要があるが、国内市場の縮小は深刻だ。

■ 国内需要の先細りの中で残すべき「銭湯文化」って何?

2008年の調査では、自宅に風呂のある家庭の比率は95.5%(※3)に達しており、それから10年以上が経った現在でも浴室保有率はおそらく100%に近いと推測できる。また、スーパー銭湯やフィットネスジムのように、入浴することが可能な施設も増えている中で、家に風呂がないからというだけの理由で銭湯に来る利用者が大きく伸びるとは、どう考えても思えない。

そうすると銭湯には単なる「大きなお風呂」以上の、ないしは以外の存在意義が求められる中、その議論が煮詰まっていないように筆者には見受けられるのだ。

「公衆浴場は公衆衛生上必要な施設でございまして、入浴機会を提供するだけではなく、地域住民の健康づくりですとか交流の場となっておりまして、日本の伝統的な生活文化でもございます」

上は都で銭湯のあり方を検討する「東京都公衆浴場対策協議会」(2021年2月19日開催)における野間生活文化局長の発言を抜粋したものだ。

銭湯は守るべき日本の伝統文化である。
後世に残さなくてはならない。

しばしば聞かれる文言だ。筆者も、銭湯は極めてユニークな存在だと思うし、できれば無くなってほしくないと思う。しかし、なぜ、放っといても消えていく)銭湯を残さなければいけないのか。残すべき銭湯文化って実際のところなんなのか、という議論が詰められないまま、文化の存続というテーゼだけが独り歩きしているように筆者には思えてならない。

銭湯の価値はお風呂に入れることだろうか?
それなら家の風呂や、スーパー銭湯でもよいような気がする。

レトロ感ある建物であることが重要なのだろうか?最近は、古い建物を宿泊施設や交流施設に改修する取り組みが注目を集めているし、銭湯でも、台東区の「燕湯」や北区の「稲荷湯」という国の重要文化財に指定された建物がある。しかし、もし銭湯の価格に自由度があり、これらの銭湯は重文なので維持費のために上乗せで価格を高めに設定すると言われたとしたら、いくら出すだろうか。500円や1000円のプラスアルファを出したがる人は多くないのではないだろうか。

利用者がお金を払ってでも享受したい価値が何なのか、実は提供側でしっかり吟味されていないことも多い。

■ 機能と価値のフレームワークで、競合を明確化する

筆者は外資系のファームに勤める戦略系のコンサルタントである。多様な業界の新規事業開発や、官公庁の政策提言に関わってきた。ちなみに最近の専門はツーリズム(観光・旅行業界)である。コンサルタントとして新規の事業や政策を考えるときの雛型はいくつかあるが、ここでは、当該の商品やサービスの提供する価値を踏まえて、銭湯の価値を改めて考えたい。

商品やサービスの機能をもとに価値を導くフレームワークは、自社の強みを明確化できることに加え、競合も明らかになるというメリットがある。特に後者のメリットは重要で、これまで意識していなかった競合が浮き彫りになることがある。

別の業界の例だが、スマホの登場によってガムの消費量が少なくなったという話を聞いたことはないだろうか。

ライブドアニュース「ガムが売れない背景にスマホの普及?ネスレ日本の社長の考え」(2019年2月8日)

ちょっとしたスキマ時間を埋めるためのガムをかむという行為が、スマホ(を用いたソーシャルゲームなど)に取って代わられている可能性があるというものだ。スマホというデバイスの上っ面しか見ないならば、精々カメラやボイスレコーダー、ウォークマンなどスマホに備わっている機能に類似した製品だけが競合として出てこよう。スマホがもたらす、ちょっとした「暇つぶし」という価値が思い浮かばないと辿り着かない。

同様に、銭湯の価値をシンプルに類型化してみよう(下図)。

20211231_銭湯の価値と競合

価値の類型化にもいくつかのフレームがあるが、ここではわかりやすく機能的価値(実体的・物理的な「うれしさ」)と、情緒的価値(心理的に感じる「うれしさ」)に大別した。なお、あくまでジャストアイデアであり、必ずしもMECE(漏れなくダブリない)状態ではない点留意されたい。

銭湯の機能的価値は、要はお風呂に入ることで得られる衛生面・健康面での実用的な効用のことだ。体をきれいにする、免疫を上げるといったようなことが該当する。なお、入浴による作用(機能)については食品メーカー「赤穂化成」のプレスリリース(※4)を参考にした。

一方、情緒的価値はより心理的で、測定が難しい。大きなお風呂に入ることによる気分転換、リフレッシュが一義的に挙げられるが、近所の人たちと言葉を交わすということなども含まれよう。

さらに、それぞれの価値に対応する競合として考えられる商品・サービス・施設などを簡単に列挙してみた。家の風呂やスーパー銭湯のほかにも、フィットネスや居酒屋など、少し違った切り口のものも含まれていることに気付かれると思う。

■ 提供価値と客層で銭湯ビジネスを類型化する

さて、ここまで軽く銭湯の価値と競合に関する分析をしてみたので、さらに踏み込んで銭湯のビジネスモデルを簡単に類型化して検討してみよう。コンサルタントがよくやる、「マトリクス図」によるセグメント分けだ。

マトリクス図は、多くの場合タテ軸とヨコ軸の2軸でもって整理する。一つ目の軸(タテ軸)は、先ほど分析した提供価値だ。より基本的な、機能的価値にフォーカスしているのか、それに加えて情緒的価値も同時に提供しているのか、で二分した。

さて、今度はヨコ軸だが、この手のマトリクス分析では、二軸ができる限り独立していることが望ましい。例えば収容人数と立地を軸として選んでしまうと、立地が都心か郊外かによって収容人数が概ね規定されてしまうためあまり「筋が良くない」。

そこで、もう一つの軸には客層をチョイスした。たとえば週3回以上訪れるような常連客がメインなのか、一見客や、そこまで頻繁に訪れない新規客がメインなのかで分けてみた。ちなみにこの客層による分類は商圏の狭い・広いにも対応する可能性が高い。

以上2軸によるマトリクスに沿って、銭湯のビジネスモデルを4つに分けてみた(下図)

20211231_銭湯の類型化

以下、それぞれのセグメントをもとに、銭湯の将来像についても少し考察を加える。

■ 男子寮の風呂みたいになるシンプル銭湯

一つ目は、商圏が狭く機能的な価値にフォーカスしたタイプの銭湯だ(上図①)。イメージは大学や社員寮の風呂である。あるいは合宿に使う民宿の風呂。例を挙げるならば、港区の「ふれあいの湯」のようなシンプルなタイプの銭湯だろう。訴求する価値は、大勢が入れ、体を清潔にできること。そこに、広い湯船でリラックスできる付随的な価値がある程度だ。

↓「ふれあいの湯」の紹介記事

防衛大学校を描いた漫画作品「あおざくら~防衛大学校物語~」には、同校の1年坊主が数秒で体を洗って(先に上級生が入るので濁った)湯船に浸かるという描写が出てくるが、まさにそういうイメージである。さすがにそこまではいかないにしろ、とりあえず広い浴槽を用意して、家に風呂のない人や、肉体労働者などが主に使うことを想定する。

自宅に風呂がない利用者は消費力が概して低いと思われるため、利用者から料金を直接徴収するのではなく、公衆衛生と福祉という公的な使命を帯びているものとして、自治体や国の補助金収入によって賄う。災害などによる断水や停電に伴う風呂難民が利用するシーンも想定すると、自治体としてもこうした施設を残しておくインセンティブがあるためだ。

逆に半ば公営という性格上、設備や備品は極力シンプルなものにし、言い方は悪いが「安くて質はそこそこ」をめざす。

■ スキマ時間で使えるパウダールーム的銭湯

二つ目として、機能的価値を追求しつつ新規客も取り込めるタイプの銭湯のアイデアも考えられる(上図②)。アイデア、と言ったのは、このタイプの銭湯は今現在ないと考えられるからだ。どのようなタイプかというと、スキマ時間に身だしなみを整えたり、さっと入浴して清潔感を保つような目的で利用するタイプだ。

例えば平日の仕事終わりにデートがあるので、着替え・メイク直し・髭剃りなどをしたいというニーズに応える。スキンケア、ヘアケアアイテムなどを豊富に取り揃えるのがよいだろう。

ある程度高めの消費単価を見込めるビジネスパーソンをターゲットとするため、立地は都心部として、清潔感やオシャレ感にこだわった内外装を心がける。手軽に訪れたい新規客が多いため、シャンプーやリンス等の無料提供、タオルの貸し出しを行い、その分のコストは上記のケアアイテム系の販売によって賄う。

■ 地域の交流ハブ化はハードルが高い

①と同じく商圏を狭く見積もった銭湯でも、情緒的な価値を訴求するものが地域交流ハブとしての銭湯である(上図③)。赤の他人同士が文字通り裸の付き合いをする空間を活用する。広めの待合室や交流スペースを備え、地域のイベントなども積極的に行う。台東区の「日の出湯」で行われた、地域住民を集めての学びの機会「はだかの学校」など、各銭湯で特色あるイベントが既に行われている。

PRTimes「銭湯を、地域で一番気持ちのいい“たまり場”へ。銭湯の新しいカタチで地域を沸かす」、2017年3月20日

しかし、筆者はあまりこれ自体が現状大きく伸びる分野だとは思っていない。COVID-19による経済活動への影響は今後数年続くという見方が多い中、密にならないこと、ディスタンスを取ることが人との関わりにおける重要課題になってきた。銭湯でも「黙浴」が推奨されるようになって久しい。

さらに、利用者に高齢者が多い施設が多いと考えられる銭湯において、人が集まることを手放しで歓迎できるかといわれると、あまり自信をもって肯定できないのではないか。今後の収束見通しを踏まえつつ、徐々にこの手の取り組みが回復・本格化してくる程度だろう。

■ 地域住民とツーリストをつなぐ「町ごとお風呂」

最後に情緒的価値を新規客に提供するタイプが、図中④の「擬似スーパー銭湯」だ。豊富な湯種を備え、ものによっては温泉やサウナもある。台東区の「寿湯」「萩の湯」のようなタイプがこれに該当しよう。

競合としてはその名の通りスーパー銭湯だが、これとは少し異なる味付けが可能かもしれない。それが、節タイトルにもした「町ごとお風呂」である。

「分散型ホテル」というコンセプトをご存じだろうか。これまで宿泊施設にオールインで備わっていた、宿泊・飲食・入浴などの機能を、狭いコミュニティ内に分散させることで、半強制的に旅行者の動線を作り出し、地域への消費波及や住民との交流を促進しようとするものだ。

元々イタリアで生まれた「アルベルゴ・ディフーゾ」というコンセプトが日本にも導入され、大阪の商店街を舞台にした「SEKAI HOTEL」など、徐々に取り組み事例が見られるようになってきている。この分散型ホテルでは、地域の銭湯を入浴施設として活用する。

これによって、銭湯では新規客の取り込みと、地域と旅行者の交流を同時に実現できる可能性がある。具体的には、温泉が湧出している地域で公衆浴場と宿泊施設が連携して、積極的に送客しあうという形などが考えられるだろう。地域住民の利用が多い銭湯と、外部からの旅行者の利用が多い宿泊施設とでは、顧客層が相補的なためメリットも大きい。

■ 価格競争と顧客情報の可視化によって、今一度銭湯のあり方を考えよう

銭湯の上限価格は東京都では480円、神奈川県では490円などと設定されている(2021年12月時点)が、これは物価統制令に基づき各都道府県の知事が統制額として指定している。この価格は都道府県の組織する協議会や委員会による協議を経て決定される仕組みだ。

しかし、例えば温泉が出るリニューアル銭湯と、お湯が碌に出なくて愛想も悪い老朽化した銭湯が、同じ価格である必然性が果たしてあるのだろうか。どんなサービス内容でも価格が(事実上)同じになるというのは、いかにも不自然に映る。どれだけ設備やホスピタリティにお金をかけても、単価は変わらないというのは、事業者側にとっても追加投資のインセンティブを欠くと考えられる。

無論かかる価格統制には、公衆衛生に寄与する銭湯の公益的な性格が反映されているとはいえ、それ自体の需要はかなり小さいと推定されることは上述の通りだ。

行政や組合には、先のビジネスモデル分類のような類型化を銭湯に対して行い、それに沿った価格規制を敷くことを提案したい。たとえば類型の①(機能的価値にフォーカスし、常連客が多い銭湯)に該当する銭湯のみ物価統制の対象として価格上限を残す。それ以外に関しては価格設定に自由度を持たせることで、サービス水準を向上させるインセンティブを付与することが考えられないか。

当然、銭湯の類型化には、数値による厳密な測定と、そのモニタリングが必要となる。提供価値に関しては設備の保有・稼働状況、客層に関しては、「どのような人が」「週に何回」「何人くらい」来ているのかの情報が求められるだろう。

実のところ重要なのは類型化によるレッテル張り自体ではなく、設備や利用者のデータを可視化し、経営に活用できる形に整備することだ。巷でデジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が流行るようになって久しいが、活用可能な信頼性のあるデータを豊富に持つこと、これがDXの必須要件の一つなのだ。国・自治体や組合には、ぜひ価格規制の見直しに加え、経営データの取得に資する施策(POSレジやキャッシュレス決済の導入補助など)をお願いしたい。

■ 矛盾の中に、可能性を探ろう

正直なことを言う。極めて感情的な物言いだけど許してほしい。

私は疲れた。

銭湯に疲れた。

狭い浴槽をいつまでも独占する爺さんに、なぜか他人の洗面器を平気な顔で使う若者に、活舌が悪く愛想のない番頭に眉をひそめるのに疲れた。

一日のストレスを和らげ、明日への活力を得るための場所で、バカみたいなストレスを感じるようになったと気づいたときは、自分にひどく驚いた。

私は銭湯が好きなのだとずっと信じてきた。以前銭湯にハマるきっかけを記事にしたが、大げさとのひそみを恐れずに言うならば私は銭湯に命を救われたと思ってきたし、480円でいろいろな姿を見せる銭湯のポテンシャルは素晴らしいと愚直に感じてきた。

↓銭湯に住んでいた時の記事

しかし、果たしてそうなのだろうか。もし皆が心からそう感じているならば、銭湯はこれほど減少しないはずなのだ。

Facebookに、銭湯ファンの集まるグループがある。そこには、老朽化や高齢化で廃業する銭湯を惜しむ声も多い。銭湯文化を残したい、そう思っている利用客や、実際それに向けて活動している銭湯経営者も多い。

しかし、守るべき銭湯文化って、いったい何なのか。それがもし、「歴史ある建物で風呂に入れる」ならば、みんな土日に温泉旅館に行けばいいのかもしれない。

この記事では、銭湯の持つ価値に関する議論をベースに、これからの銭湯の在り方の輪郭をちょっとだけ素描した。個人的にも、一度銭湯から距離を取ることで、却って将来像について腰を据えた考察ができた気がする(距離を取ったという割には、やはりほぼ毎日銭湯に通う習慣は変わっていないのだが)。

銭湯は英語でパブリックバス(public bath)と書く。裸になって入浴という極めてプライベートな行為を公共空間でさらけ出し合う、巨大な本質的な矛盾を孕んだ存在である(近代以前と以降のプライベートの概念はガラッと変わっているけれど)。ただ、イノベーティブなサービスやビジネスは、しばしばそうした矛盾の中から生まれてきた。

コンサルタントとしての筆者の専門はツーリズム(観光や旅行業界)だ。ツーリズムだって、予測可能性と予測不可能性の両極のどこかに位置する矛盾ある営みである。旅に非日常的な出来事を求めながら、何が出てくるかわかるので安心するという理由でマクドナルドやスターバックスを探す。

もしかしたら銭湯にも、その本質的な矛盾ゆえに生まれる固有の価値があるのかもしれない。

と、信じたい気分だ。


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参照文献

※1
日本政策金融公庫総合研究所、「中小企業のうち後継者が決定している企業は12.5%、廃業を予定している企業は52.6%」、2020年1月28日

※2
観光庁「訪日外国人消費動向調査」

※3
総務省統計局「平成20年住宅・土地統計調査の解説」

※4
赤穂化成株式会社「最新医学が明かす!『入浴の7大健康効果』 一方で、冬の入浴3大健康リスクを引き起こす、“入浴” とは? 健康リスク対策には、入浴前後の水分&ミネラル補給を推奨」

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ここまでお読みくださりありがとうございました!今年もよろしくお願いいたします。


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