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「知性の使い方」を考え直す時期に来ています

仮にここに、AさんとBさんがいたとします。

Aさんは腕っ節が強いですが、あまり頭が回る方ではありません。別段悪い人ではありませんが、目の前の誘惑にすぐに負けるタイプです。一方Bさんはとっても頭がいいですが、運動能力は極めて低く、喧嘩になるとすぐに負けてしまいます。しかし意思は固く、努力を惜しまないタイプです。

まだAさんとBさんが高校生だったある日のこと、遊ぶ金に困ったAさんはBさんを殴りつけ、財布を巻き上げました。Aさんは札付きの不良でしたから、Bさんはなす術がありません。Aさんは巻き上げたお金をすぐに使ってしまい、カツアゲをしたことさえすぐにさっぱり忘れてしまいました。Aさんは高校卒業と同時に地元の小さな工場に就職すると、勤務先で知り合った純朴な女性と早々と結婚して子供を2人設け、呑気に楽しく暮らしていました。

一方Bさんは猛勉強をして東大に進学。その後アメリカでMBAを取得しました。超一流企業に数年間勤めたのちに起業。彼の会社はあっという間に上場を果たしました。Bさんの会社は日本各地に配送センターを設け、何万人もの従業員を雇いました。Bさんは日本経済の救世主ともてはやされました。Bさんは事業を拡張し続け、今ではテレコムからEコマースまで、腹広く手がけています。

ちょうどその頃、Aさんが勤めていた小さな会社が長い不況によって倒産してしまいました。そこでAさんはBさんの会社へと再就職しました。Aさんの仕事は日がな一日配送トラックに荷物を積むことです。仕事は過酷で、休む間もなく来る日も来る日も働き続けました。しかし、怠けるわけにはいきません。いたるところにカメラが設置されており、AIによって監視されています。ちょっとでも休むとピーピーとブザーがなって警告されます。トイレに行く暇さえないほどの忙しさでした。

一方Bさんはその財力に物を言わせて政治家に働きかけ、最低賃金が上がらないようにしました。そんなこととは知らないAさんは、何年もあくせくと最低賃金をほんのかすかに上回る程度の賃金で働き続けました。一方Bさんはひたすら財を増やして日本屈指の資産家となりました。有名な女優と結婚し、球団を買収し、肩で風を切って歩きました。

やがてAさんは徐々に体にガタがき始めたしたが、転職をしようにも町にはBさんの会社以外にこれといった勤め先がありません。やがて50歳を迎えたある日、生産性の低さを理由に解雇されてしまいました。子供が一番お金がかかる時期だというのに、いったいどうすればいいのでしょうか? もちろん貯蓄などありません。絶望したAさんは、俺が死ねば保険金で子供が学校にいけるだろうと自殺してしまいました。

共通の知人からAさんの訃報を聞いたBさんは、「そうか...。俺のことヒドい奴だと思うかもしれないけど、でも、従業員はみんなが同じ条件で働いてるんだ。Aが俺の同級生だったからといって、一人だけ優遇したらフェアじゃないよね?」と嘯きました。もちろんBさんは抜かりなく手回しており、解雇された元同級生が自殺した話がマスコミを賑わせることはありませんでした。

Aさんの奥さんはしばらく泣き暮れていしたが、早々泣いてばかりもいれません。明日からの生活が待っているからです。幸いBさんが勤めていた会社の事務員として雇ってくれたので、その後10年以上、Bさんの会社であくせくと働き続けました。夫をボロ雑巾のように使い捨てた会社で働きたくなどありませんでしたが、この町には、もうここ以外にはこれといった就職先がないのです。せめて子供の教育が終わるまではと、奥さんは必死になって働き続けました。幸いBさんが時折援助をしてくれたので、奥さんは無事に子供たちの教育を終えることができました。「Bさんには本当にお世話になった。Bさんほどいい人はいない」が、晩年の奥さんの口癖でした。

現代は「知力>暴力」です

さて、以上は僕の創作ですが、これこそが現代社会です。暴力を用いて人から金品を奪うとすぐさま罰せられますが、知恵を使って人を痛めつけて搾取する限りにおいては、罰せられることはないのです。もしもこの二人が戦国時代にでも生まれていたら、Aさんは戦国武将にでもなり、Bさんの方は殴られて金品を取られても「弱い方が悪い」と言われておしまいだったでしょう。美しい女性と結婚したのはAさんの方だったでしょうし、Bさんの方に至っては結婚できなかったかも知れません。

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