裁量労働制を日本で定着させるには何が必要か?

今、裁量労働制が話題になっている。

僕はアップルでずっとこの裁量労働制で働いてきたので、ちょっとこの制度について思うことをいくつか書いてみたい。

「裁量労働制」ってなに?
裁量労働制というのは具体的にどういうことかというと、実際の労働時間が1日4時間だろうが16時間だろうが、あらかじめ取り決めた時間だけ働いたものとみなす、一種の「みなし労働時間制度」だ。まあ、固定年俸制と考えてもいい。

欧米諸国では広く普及している制度で、時間で成果を測るのにあまり適していない専門職などは、大抵この形で賃金が支払われている。デザイナーとかエンジニアとかをイメージするとわかりやすいかもしれない。新米のエンジニアが100時間費やして書いたコードでも、ベテランがやれば10時間でより優れたものができてしまうことは少なくない。それなら時間に対しではなく、成果に対して賃金を払ったほうが理に叶っているというわけだ。

なお、管理職や経営陣もこの裁量労働制の枠に入る。優れた管理者は部署のアウトプットを2倍、3倍に押し上げる。こうした成果も時間単位では測りにくいからだ。

また場所を選ばずに働ける職種もこの枠に入れられることが多い。昨今では出勤せずに家で仕事するエンジニアやライターなども多い。会議に遮られず、自宅の方が仕事が捗るというのがその理由だ。こうした働き方はもうかなり前から一般化しており、多くの職種において「労働時間を記録する」という行為そのものがすでになくなってしまっている。

一方、工場労働者や販売員や清掃係とかは今でも時給制のままだ。なぜなら成果を時間で計る方が理に叶っているからだ。

裁量労働制は労働時間を伸ばしてしまうか?
裁量労働制はしかし、諸刃の剣となりうる。確かに家から仕事ができたり、出勤時間がテキトーだったりするのは非常にありがたいし、その恩恵もたっぷり受けてきた。仕事が少ない時などは3時に会社を帰ってしまったこともしばしばあった。その一方で、果てしなくエンドレスに働いたことも何度もある。例えばiPod Miniの開発に従事した時なんて、本当に終わりなく働き、しかもそれが半年以上続いた。MacBook Air の時なども「起きてる時間ほとんど全部」というくらい働いた記憶がある。人は働きすぎると感覚が麻痺して、さらにひどい仕事中毒のような状態に陥りやすい。なので、そもそもすでに仕事中毒気味な人にはかなり危険な制度だと思う。

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なお、家から働けると言うのも実はかなり微妙で、これもまたエンドレスになりやすいのだ。職場なら「そろそろ帰らなくっちゃ」となるが、そもそも家なのでどこにも帰らずに済んでしまう。また「家で怠けていると思われたくない」といった心理も働く。

そして、もっともタチが悪いのが、誰も労働時間をチェックしていないことだ。それは本人も含めてである。時間をチェックしたところで、給料が上がるわけでも下がるわけでもない。だからこそ逆に、責任感の強い者ほどオーバーワークしやすい。

歯止めをかけるのは「法律」と「転職の自由度」
じゃあ、このエンドレスな労働時間に何が歯止めをかけているかと言うと、アメリカの場合には二つの要素がある。
まず一つ目は訴訟の多さだ。どんな仕事でも入社した時に Job Description(職務記述書)というものが明示される。これは職務内容やその責任範囲を明記した書類だ。もしも職務記述書に書いてないことを従業員にやらせて訴えられれば会社側がほぼ確実に負ける。また、職務記述書で定義された仕事の内容が、実は裁量労働に適した専門職でないと判断されれば負ける。会社側が残業代を払うのを免れるために、本来なら時給制であるべきポジションを裁量労働としてしまうことは実際によくあることなのだ。

二つ目の歯止めは、転職の自由度の高さだろう。こうした専門職の人間を不当に働かせていると、優秀な者から速攻で辞めていく。だからそれ相応の給与を出すなり、休みを与えざるを得ないのだ。

日本でこの制度は定着するか?
日本でこの裁量労働制が定着するかというと、現状では僕はかなり懐疑的だ。まず、日本は雇用流動性がまだまだ低い。社員の離職なんてあまり心配せずに、いくらでも働かせられる環境がある。

また、職務記述書も一般的ではないし、訴訟はさらに少ない。また仮に企業が訴えられて裁判に負けたとしても、罰金は不当なまでに少ない。最近で一番話題になったのは電通の過労死裁判だろうが、人の命が失われても罰金がたった50万円なのだ。これでは法律などないがしろにして労働者を不当に働かせては罰金を払ったほうが、ずっと安上がりではないか。

もしも本気で裁量性労働を定着させたいなら
僕は26歳くらいからずっと裁量労働制で働いているので、この制度はうまく運用できれば、労働者の生活や質に大きく貢献すると思う。フレキシブルな勤務場所や労働時間、何時間働いたかではなく、どんな貢献ができたかで評価される、などなどだ。でも、今のまま日本でインプリしたら、まず間違いなく今よりも労働環境が悪化するだろう。

もしも日本政府が本気でこの裁量性労働制を定着させたいなら、まず過労死の罰金を50万円からせめて5000万円くらいに引き上げた方がいい。また、職務記述書の策定も義務付けた方がよい。これで初めて、裁量性労働制を一般化する下地が整う。また、転職の自由度を上げる必要がある。例えば「35歳未満の男性のみ」なんていう人材募集は年齢差別であり、性差別なのだ。こういうものも厳しい罰則を課して、転職しやすい環境を作る必要がある。

安倍政府も労働時間ちょろまかしてないで、もう少しちゃんと労働環境の整備に向き合った方がいい。本当に国を豊かにし、少子化を食い止め、みんなが生き生きと生きられる社会を作りたいなら、こういう細かいことを蔑ろにしてはいけないのだ。

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松井博

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