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インディーズ時代から好きだったバンドがメジャーになってしまった感覚【台湾③-九份-】

猫村の猫たちに別れを告げて、私は再び電車に乗った。次の目的地である九份へは、瑞芳まで電車で向かいバスに乗り換え10分くらいで到着するようである。今朝のうちにホテルで調べておいたので、乗り換えも問題なくできるであろうと思っていたが、そもそも瑞芳駅に着くと九份行きのバス停に多くの観光客が並んでいたため、迷うことなく私もその群へと加わることができた。時間にも余裕もあるし、特に急ぐ旅でもないので九份のメインエリアの数駅手前のバス停で降車し、歩いて山道を登ることにした。天気も良く、景色を楽しみながら山道を登っていると、ほどなくして九份のメインストリートとでも言えばよいのだろうか、観光客向けの商店が立ち並ぶエリアの入口へと到着した。細く狭い道には日本人観光客と中国本土からの観光客であろうか、多くのアジア系の観光客で溢れかえっていた。周囲から聞こえてくる片言の日本語での呼び込みの声と観光客の発する日本語の濁流をかき分けながら、入り組んだ坂道を登ってゆく。とりあえず九份のランドマークとされている、あのモデルとなった茶屋までは行こうと人混みに若干の疲れを感じながらも足を進めた。

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ここには数年前に一度来たことがあった。その時に感じた興奮はなく、観光客で溢れるこの光景にどこか冷めてしまっている自分に気が付く。時間が経てばその土地の雰囲気、空気、街並みだってそりゃ変わっていくでしょう。観光地はより観光地らしく、我々の求める姿にフォーマット化されてゆく。そして何よりも、私自身もあの頃とは変わって来たのだと思う。旅に対して求めるものが、気づかないところで変わっていた。あの頃はきっと旅をすることが目的であり、旅の中で何を得て、何を思うかということに関しては頭の片隅にもなかったのではないだろうか。私だけしか見つけられない、この旅の素晴らしさ、ほかの人には見えないけれど目を凝らすとほんのり光っているその土地の魅力のようなものを探し求めたいのかもしれない。メインストリートから一本外れた道に、ひっそりと植わっている花にとてつもなく惹かれるのである。観光客に見られることはないけれど懸命に花を咲かせる姿に果てしなく萌えるのである。

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人混みを避けるように道を選びながら歩いていると、民宿に併設された食堂があった。店の外から奥を覗くと眺めの良さそうなテラス席が見えた。店前で佇んでいるそんな私に、店主である小さなおばあちゃんが笑顔で話し掛けてくれた。きれいな日本語で「何か飲んでいきますか」。そう言われたらちょっと休ませていただきましょうか、のども乾いてきたし。私以外の誰もいないこの特等席で飲んだビールの味はきっと忘れない。私が旅に求めていた物に気が付いた瞬間でもあった。

④へ続く、次は台北市内の夜市を巡ります。

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