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彼女の指先

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いつかのあの日、私の隣にいてくれた彼女たちのお話
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彼女の指先

中学校の頃、手が大きくて、指がすらっと長い友人がいた。 すごく綺麗な手をしているのに、いつも深爪で、 それがなんとなく可愛らしく見えた。 深爪をするのは、彼女がピアノをやっていたからなのだけれど。 中学校の合唱コンクールでピアノを弾く彼女は、私にとって自慢だった。 彼女は音大に進んで、色んなコンクールで賞を取ったらしい。 演奏家としての道を進んでいくのだろうと思っていたのだけれど、 現実は難しかったらしく、ピアノ講師として音楽関係の会社に就職した。 中学生の頃の彼女は、私

The memories in my hands

I have experienced sexual harassment before. My drunk boss licked my hand. I decided to forget the bad memories. A few years later, my girlfriend kissed my hands. Her kiss was so tender and warm that it brought tears to my eyes. Only then

愛について

一瞬だけ、ちょっと嫌な気分になった。 偶然、前の職場の人と久しぶりに会って、本当に些細なことなのだけれど、その人がほんのちょっと気遣いに欠ける行動を取った。 「あぁ、この人って、やっぱりこういう人だったよな…」と、サッと一瞬で体温が下がるような、心に冷たい風が吹きこんだ。 でも、それに気づいたのは、きっと、今の私の近しい関係の彼女や彼らが、そういう些細な気遣いをごく当たり前にしてくれているからなのだ。 彼らは何事もなかったかのように、とてもナチュラルに私の心を温めてくれる

運命のひと

たぶん、最悪の結果ってやつになるんだろう。 彼女は、夜行バスに乗って遠くの県に引っ越して行く。 私は、退職。 どうしてこうなったのか、正直、よく分からない。 ただ、倉庫の段ボールの間に隠れて泣いていた彼女を見て、私はもうこんな職場にいたくないって思ったのは覚えてる。 きっと、働いていればどこにでもあることなのだろう。 人間関係のあれこれや、理不尽な要求や、残業の多さ…等々。 そんなよくあることなのにも関わらず、私たちは耐えられなかった。 たったの半年。 私は、夜行バス

さよなら、私。

彼女と私は、職場の同僚。 でも、ふたりが顔を合わせることは、ない。 彼女が休みの日は、私が出勤。 私が休みの日は、彼女が出勤だからだ。 社外の人は、私たちが違う人間だということに驚くだろう。 だって偶然にも、私たちは同じ名字。 それに、出勤日が重なることはないから、同じデスクで、同じパソコンを使っている。 昨日は彼女がメールして、今日は私が同じ人に返信しても絶対に気づかれない。 それに、彼女と私の声は似ている。だから電話も気づかれない。 ふたりでひとり。 私たちは、仕

彼女の帽子

ネイチャーガイドの仕事をしていた時、同僚のひとりに都会からやってきた女の子がいた。 学生時代から病気に向き合ってきた彼女は、周りのほんのちょっとしたことにも気づく。それが同僚への優しい気遣いとなり、私はずいぶん救われた。 「こんな大自然の中で働けるって、きっと幸せなことですよね。」 一緒に働いた2年間、彼女はいつも言っていた。   一方で、大自然の綺麗な空気の中で働いていても、職場の人間関係の 息苦しさや、真っ直ぐな人ほど納得できないことは多々あって、 彼女も相当悩んだ

あなたは、天使かよ!

社会人になって間もない頃、外国の女の人に助けられたことがある。 仕事で毎日死にそうになりながら、電車通勤をしていた。 その日も終電間際。人が少ない電車内。 私は、疲れでウトウトしながら座席に座っていた。 斜め向かいには、色鮮やかな露出度高めの服を着た外国の女の人。 ふと、何かがぶつかる音がして後方の車両を見てみると、 酔っ払いが、空き缶を所構わず投げつけていた。 投げつけた缶を拾って、また何か言いながら投げつける。 それを繰り返しながら、私が乗っている車両に近づいて来た。

雪の変顔

ここに来て1年と9ヶ月。 縁もゆかりもない所へ来たせいなのか、私の性格からなのか、 自然が綺麗すぎるせいなのか、良くも悪くも、ずっと孤独だった気がする。 でも私には、すごく寂しい時に思い出せる顔がある。 それは、色白で小っちゃくて、ちょっと犬っぽい、彼女の顔。 以前に、ネイチャーガイドの仕事をしていた時、 私より7歳も年下で、元気で、可愛らしい同僚がいた。 「実家で、白い日本犬のミックスを飼っているんです!」と嬉しそうに 写真を見せてくれたことがあって、彼女と似ていたから

気持ちが追いつく瞬間

大切な人の変化に対して、応援をしたい。 けれども気持ちが追いつかないことってある。 下手したら、家族よりも一緒にいた職場の同僚。 彼女といれば、仕事の愚痴だってお笑いになっちゃう。 そんな彼女は、妊娠が分かって退職することになった。 私たちは非正規ってやつだったから、産休はない。 もう一緒に働くことって、きっとない。 同僚を超えて、もう親友くらいに思える彼女だから、 心から応援したいに決まってる。当たり前じゃないか。 それなのに、彼女が「来月、退職することにしたの」と

私の女神

彼女との出会いは、数年前。 私は外仕事から帰ったばかりで、泥だらけだった。 着替えようと更衣室に行こうとしたら、 上司から「早くお茶入れて!」と、強く言葉を投げられた。 応接コーナーを見てみると、この辺にはいないようなスラッとした 色白の女性が上司と話をしている。 私は急いで手を洗って、給湯室に駆け込む。 緑茶を淹れようとしたらお茶っ葉が切れてる…。 (もう、こういう時に限って!) 仕方がないのでティーパックの紅茶にした。 とにかく時間がない! お湯に色がついた時点で

報われなかった日々があるから。

「ここに来て、一つでいいから、  自分の純度100%の作品を作ってみたかったんですよね…。」 物静かで、あまりプライベートなことは知らない社内の人。 彼も私と同じく、今年度いっぱいで退職するらしい。 でもわざわざ、こんな田舎に来るくらいだから、 ここで働く何かしらの理由はあると思っていた。 彼の仕事は事務職で、自分の作品を作る環境にはない。 ゴミ捨てや外庭の清掃、設備管理など、事務職といえども、 便利屋さんみたいに何でも自分でやらなくちゃいけない職場だ。 超田舎だから

人間万事塞翁が馬

死んだ祖父は若い頃、結核を患ったらしい。 手術の痕が残っていて、 「これのせいで徴兵検査に落とされたんだよ。」 なんて、お酒を飲みながら笑って言ってた。 祖父の家族は、ある時期にバタバタと亡くなっている。 祖父のお姉さんは結核で亡くなり、流行の早い頃で隔離されてしまったせいか、お墓は家からとても遠い山奥にある。その後に祖父のお母さん、弟2人に妹も亡くなった。 祖父は父と妹の3人家族になった。 徴兵検査に落とされた祖父は、「隠れて暮らしてたよ。」と言っていた。戦時中、いい歳