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『THE FIRST SLAM DUNK』ネタバレなし長文感想

これほど1つのテーマにこだわりぬいた映画は、はじめて見た気がします。
テーマについて、わかったつもりになるんです。でも、その向こう側を見せつけられて、まだ全然わかってなかったことに気づかされるんです。今度こそわかったと思ったら、さらに、その向こう側…。
観客も一緒に、壁をどんどん突き破っていく感覚になって、すさまじい快感がありました。繰り返し見たくなる映画です。
私も猛烈に感動し、涙を流し、誰かと語りたくなって、この感想文を書いています。

井上雄彦先生が考え抜いた末、結局、原点に帰ったのだと思います。
テーマは、
「あきらめたらそこで試合終了」
でした。
『SLAM DUNK』を読んだことのない人ですら知っている名台詞なので、ネタバレではないですよね?

このテーマを描くには、必然的に宮城リョータが主人公となります。一番、背が低いからです。高身長が強烈に有利なバスケットボールにおいて、一番のあきらめる理由だからです。

これはさすがにあきらめちゃうよ…という場面に、どれだけ説得力を持たせられるかが鍵です。観客が、さすがにこれは試合終了…と思ってしまうからこそ、そこであきらめないことの凄まじさが際立つからです。ここに説得力を持たせるための、3DCGベース採用だったと想像します。そして、大成功だと感じました。

戦闘力53万の敵を前にした絶望感や、超大型巨人に襲われる絶望感を表現するのは、従来のマンガや手描きアニメの得意分野です。でも、せいぜい30㎝程度の身長差が生む絶望感をリアルに描くって、3DCGじゃないと厳しいのです。今回の『SLAM DUNK』を見て気づかされました。ちょっとしたプレイのすべてに、地味かつ確実に身長差があることの苦しさが、3DCGベースのおかげで、強烈に伝わってきました。縮尺が常に正確な3DCGベースだからこそ、宮城リョータの背の低さを、観客はずっと地味に認識させられ続けるのです。

3DCGベースであることの、もう1つの効果として、疲労をリアルに感じられるというものもありました。バスケットボールはコートに10人しかプレーヤーがいないので、すべてのキャラクターにきちんと緻密にモーションを設定することが可能です。層の薄い湘北メンバーが、とにかく動き回り続けている様子が画面にずっと見えていて、そりゃ疲れるよなと猛烈に感じるのです。普通ならあきらめてしまう運動量なのです。

なんというか、「物理で殴る」という言葉が浮かぶ映画です。絶望や奮起を、「言葉」「イメージ」で表現するのは当然です。でも、それに加えて「物理」的に絶望や奮起を表現しようと徹底的にこだわることで、確実に新しい表現が生まれているのです。

PVを見ると、試合シーンのゲーム画面っぽさが気になる人も多いと思います。私も最初は違和感がありました。でも、このテイストだからこそ強烈に伝わってくる「物理」の情報量が、今回の『SLAM DUNK』には猛烈に重要なのだなと、どんどん引き込まれながら気づかされました。

「あきらめたらそこで試合終了」って、実は常に正しいわけではありません。

先日、超高性能AI ChatGPTと漫才を試みたときに気づかされました。

【木公ナビー】
諦めたら、そこで試合終了だよ?
【ChatGPT】
「諦めたら、そこで試合終了」というフレーズは、決して正しいものではありません。「諦めたら、そこで試合終了」と言うと、諦めることが悪いという意味になりますが、実際には、諦めることはそう悪いことではありません。諦めることは、挫折や困難を乗り越えるための戦略の一つです。また、諦めることは、目標を達成するための手段でもあります。諦めることは、試合を終了することではありません。どうぞ、ご理解ください。

ChatGPTの主張は、合理的だと思います。でも、それでもなお、あきらめるわけにはいかない瞬間がある。
そんな不合理な、でも、だからこそ強烈に感動してしまう「あきらめたらそこで試合終了」の物語でした。

映画館の客席が、インターハイの観客席になってしまったかのような感覚は、映画館ならではだと思いました。客席みんなが呼吸を忘れてボールの行方を見守る瞬間が、確実にあります。映画館での鑑賞をオススメします。

あと、私と同じくうろ覚えくらいの状態で見に行くのがベストだと思います。もちろん当時は夢中で楽しんでいたけど、昔の話だしなぁ…くらいの方が、むしろ楽しめます。変に復習しない方が良いと思いました。友達が夢中になっているのを横で眺めていたレベルの「元不良でロン毛だったキャラがいる」くらいの予備知識があれば、十分楽しめると思います。

スタッフロールの最後に
原作・脚本・監督 井上雄彦
と表示されるのを見て、とにかくとんでもない人だなと思いました。
一方で、私が語ったように、今回の表現手法は、『SLAM DUNK』だからハマったものであって、例えばサッカーだと、フィールド広すぎ人数多すぎ問題とか出てくると思います。今のところ『SLAM DUNK』限定で世界最高の映画監督であることは証明したかと。ほかの映画がどうかは分かりませんが、たぶん『リアル』の映画監督としても世界最高な気がするので、期待したいところです。

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