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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:24

「街を騒がせる余所者もいなくなって、『千里眼』の愛弟子の仇討ちも無事に成功。めでたしめでたしだな」
「よくもまあそんな口が利けたものね。誰のおかげでそんな面倒な騒ぎになったと思ってるの?」
「怒るなよ、せっかくの美人が台無しだぜ」
「お世辞で誤魔化そうったって無駄よ。自分のしたことを思い返せば、どういう態度が適切かぐらいすぐに分かるでしょう?」
「だから怒るなって。むしろ俺は今回いいアシストをした

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Archemist in the City of Machina
Chapter-2
"Bullseye Ghost"

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:23

 話は、少し前に遡る。

 朱纏たちの銃撃戦の現場を立ち去った錬金術師は、すぐさま射魅を連れて自らのアジトに帰っていた。そして休む間もなく彼女の義手のメンテナンスを開始した。
「待たせたな。それじゃアンタの腕をいじらせてもらうぜ」
「それはいいけど、師匠の目はどうするんだよ。そっちの移植は間に合うのか?」
 ベッドに寝かされた射魅が、装置と『フラスコ』の接続をセッティングしている錬金術師に問いかけ

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:22

 その男は、空港で次の便を待っていた。
 手荷物はノートパソコンが1つだけ。この街に来た時は他にも大きな商売道具を持ち込んでいたのだが、色々あってそちらはもう台無しになった。新しい道具を早く調達しなくてはならないと思うと少し気が重かったが、それはそれで仕方がない。新しいゲームにはそれなりの下準備も必要なのだから。
 電光掲示板に表示されている便のリストを眺めて、サングラス越しに目を細める。今回のゲ

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:21

 果たして錬金術師はどこまで先を見通しているのだろう――双眼鏡を手にマキナの所在を探しながら、ふと射魅は考える。
 師匠の義手をこうして移植するまでは技師などという職種は縁がない存在だったが、きっと普通の技師はそんなことはしないだろうと早い段階で分かってはいた。この街に来てわけも分からず錬金術師に色々なところに連れ歩かれて、警察からマフィアまでとんでもなく幅広いコネがある様を見せつけられたのだから

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:20

 朱纏が突き止めたアジトは、港沿いのもう使われていない倉庫群の中にあった。倉庫より高いビルも周囲にはそれなりに並んでいるが、そこまで数が多くないことが幸いしてか見晴らしもいい。狙撃のポイントとしては良好な環境と言えた。
 だからこそこの場でどこから狙いをつけてくるかは、ある程度絞り込めてくる。それを決して見落としてはならない――双眼鏡を手にする射魅の表情は、これまでにないほど険しいものとなっていた

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:19

「くそっ!あの馬鹿、一体どこほっつき歩いてやがるんだ!」
 男は焦っていた。この街の勢力図を塗り替えるために共にやって来た舎弟の一人が、何の連絡もなしに突然に行方をくらませたことに対してだ。
 元々都合が悪くなったら自分の下を離れるような尻の軽い性格ではないし、決して自分を裏切って朱纏の側につくということはしないだろうという確信はある。そこまで賢いとも思ってはいないが、しかしだからこそ不安なのだ。

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:18

 狐が射魅のために用意したセーフハウスは郊外にあった。周りに他の住居もない、古びて誰も使わなくなったアパートの一室――そのベッドでやることもなく寝転がっていた射魅は、まだあまり自由に動かせない義手をぼんやりと眺めてため息をついた。
「……くそっ」
 この左腕をまともに扱えるようになるのを黙って待つわけにはいかないが、かといって血気に逸って返り討ちになるのも違う。認めたくはないが錬金術師の言葉は腹立

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:17

 その夜、『エマ』ではおよそ予想通りの展開が繰り広げられた。
「お、おぉっ!?」
 入口から乱暴に叩き出された男がみっともなく尻餅をつき、冷たく見下ろしてくる緋芽にそれでもなお食い下がるようにねちっこい視線を向ける。
「おいおい、今日はちょっと随分荒っぽすぎないか緋芽ちゃん……?」
「当然でしょ。率直に言って仕事の邪魔なのよ、アンタ」
 そう吐き捨てる緋芽の傍らには、気だるそうに背中を丸めつつもし

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:16

 先日のこと。急に自分を呼び出してきた荊良の誘いに錬金術師は嫌な予感しかなかった。
 というよりも、彼という存在自体に嫌な印象しかなかった。何を考えているのか予想がつかない不穏さを、そのまま人間の形に押し込めて具現化した人物――それが錬金術師の中での荊良に対する評価ではあって。いつも彼と相対する時は、よく分からない気持ち悪さを常に意識のどこかで感じてきた。
「……時間ぴったり。真面目だなァ錬金術師

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:15

 連日、客の入りが途絶えない『エマ』は今夜も忙しい。店自慢の看板娘たちが甘い香りを漂わせて男性客を見送り、また入れ違いにやって来た別の客を個室内へ迎え入れる。
 だが疲れがたまるのも当然のことではあって。休憩室で一息をついていた緋芽はぐったりと机に突っ伏したまま、大きくため息をついていた。
「は~~~~~~……」
「緋芽、最近大変そうだね色々と」
 仕事仲間が心配して、背後からペットボトルのミネラ

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:14

「随分キツいことを言ったみたいね、錬金術師」
 無数の配線に繋がれた椅子で、狐はクスクスと笑いながら後方の来訪者に語り掛ける。壁に寄りかかって腕を組んでいた錬金術師は、チッと舌打ちをしてぶっきらぼうに答えを返した。
「甘ったれたこと抜かしてるから、喝を入れてやっただけだ。まあ、俺が言うことでもねえんだろうがな」
「いいんじゃない?私も別に否定はしないわ」
 狐の耳ざとさにはもうとやかく突っ込む気に

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:13

「……さすがに悪手だぜ、直接ヤツを狙うのはまだ早過ぎる」
「いいんだよ。あわよくば死んでもらえるとありがたかったが、ここで始末出来なくても牽制にはなる」
「馬鹿言え。始末し損ねたんならなおのこと厄介この上ない」
「何でだ。朱纏にデカい面させないようにビビらせておけば、少しは大人しくなるだろ」
「あいつはそんなタマじゃないんだよ。むしろ躍起になっておたくらを探し回る。今回の一件はかえって自分の立場を

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錬金術師と千里眼(ブルズアイ)の亡霊:12

 一通りの話を終えた錬金術師が警察署を出ると、その玄関の柱にもたれかかっていたのは、機械仕掛けの左腕を抱え込んで所在なさげに俯くショートボブの女性。その視線がこちらを向いたことに気付くと、錬金術師はフードの奥で皮肉っぽく口元を歪めた。
「お出迎えとはありがたいね。別に何かしたわけじゃねえんだが」
「勘違いすんな。あのまま事務所にいたって居心地が悪いだけだから出て来ただけだ」
 柱から背中を離し、射

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