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「行動変容テック」とはなにか

新しいキーワード「行動変容テック」

「行動変容テック」とは、2023年6月に開催されたClimate Tech Dayの大トリとなる東京大学の江守正多さんと馬田隆明さんの総括セッションで爆誕した言葉だ。

Climate Tech、つまり、気候変動課題を解決するためのテクノロジーとしては、新しいエネルギー・製鉄・建築・農業・食糧生産などのハードな研究開発、いわゆるディープテックに注目が集まる。一方で、素晴らしい製品・製法が発明できたとしても、社会の多くの人々や企業がそうした新しい選択に(ごく短期間のうちに)シフトしていく、ライフスタイルの変容がなければ、カーボンニュートラルは実現できない。もっと多くの頭脳や関心、投資を、「行動変容」の側面に充てていこう。そんなことを、自分の登壇した「市場・経済」のセッションでは提起させてもらい、聴いていた江守さんがそれを拾って冒頭の言葉に繋がったのだと思う。

「行動変容大事だぜ!」と提案したからには自分にも責任がある。行動変容テックとはなにか、どのような発展の可能性、インパクトの可能性があるのかを考えていく。

2023年6月25日に行われたClimate Tech Day、またやりたい。

前提として、なぜ、どのくらいの行動変容が必要なの?

ジョン・ドーアが旗振り役となって進めているSpeed & Scaleというプロジェクトから、気候変動を緩和するために、どの産業でどのくらいの変化が必要なのかを示す数値目標(OKR)が公表されている。

その目標通りに受け取ると、2040年代(あと17年くらいだ)の僕らの生活はこんな感じになる。

  • 交通:僕らが日々乗ったり、物流で使われている車両の95%は電気自動車だ(現在:7.3%)

  • 電力:世界中の電力の90%はゼロエミッション電源から供給される(現在:38%)

  • 食事:牛肉と乳製品を食べられるのは今の半分だ。代わりに僕らは植物ベースの新しいタンパク源を食べている。

  • 食品廃棄:2020年代の僕らは食品の33%を日常的に廃棄しながら暮らしていたが、これを10%以下にしている。

  • etc…

今から10年〜20年くらいで、(このブログを読んでいるような)サステナビリティ意識の比較的高い人だけじゃなく、世界全体でこうしたライフスタイルに切り替わっている必要がある。これは歴史的に見てもかなり短い期間の、かなり急速な変化と言えるはずだ。「20年前と今で食生活は大きく変わっているか?自動車に乗らなくなったか?」と親世代に尋ねてみるといいかもしれない。

もちろん、こうした行動変容は個人だけじゃなく、企業にも必要だ。物流含めて車両をすべてEVに変えたり、製品の製造方式を低炭素のものに切り替えたりと、バリューチェーンを抜本的に作り変えるというかなり大変なシフトに取り組んでもらわなきゃいけない。

「行動変容テック」の定義 ver.0.1

行動変容テック(Behavior Change Technology):

行動変容テックとは、特定のライフスタイルや行動習慣の変化を促進するためのデジタル技術またはその応用のことを指す。具体的には、ソフトウェア(例:モバイルアプリ、ウェブサイト)、ハードウェア(例:ウェアラブルデバイス)、データサイエンスなどのテクノロジーやユーザーインターフェイスを用いて、各サービス提供企業や社会の価値観として定義・共有される「望ましい行動」への移行を促す。

この技術の応用は、法学、デザイン、行動経済学、心理学、ナッジ理論、ゲーミフィケーション、インセンティブ設計、道徳、倫理、ソーシャルマーケティングなど、多様な学問領域にまたがる横断的な視点から進行する。これにより、行動変容テックは個々人や社会全体の健康や福祉、持続可能性などを向上させる可能性を持つ一方、倫理的な課題や社会的な受け入れ可能性も考慮しなければならない重要なフィールドであると言える。

ChatGPTに問答に付き合ってもらいつつ、行動変容テックの初期的な定義を試みた。より細かい特徴としては下記のようなものが考えられる。

望ましい行動の例としては、ガソリン車から自転車への通勤への切り替え、電力の再生可能エネルギーへの切り替え、事業からの温室効果ガス排出量の削減などがある。これらの行動の変化は、具体的な行動変化が対象者に現れたかによって評価される。個々人の行動変容には偶然性の要素も大きく、正確な効果は計りにくいが、一定規模の人々(例:あるサービスのユーザー群、ある高速道路の利用者)の行動変容度合いについては統計的手法で有意差を確認することが可能である。

行動変容テックの設計者は、個人や集団の行動を変容させる行為が倫理的な議論を伴うことを常に認識しておくべきである。ナッジ理論などの研究を参照しつつ、行動変容の目的、方法、強制力、選択肢の提示等を含めた倫理的なガイドラインを定めることが望ましい。さらに、行動変容テックのアプローチは、各国や地域の文化、権利獲得の歴史、政府の大小等の要素により変わる可能性があることを理解し、それに対応する柔軟性を持つべきである。

行動変容テックの活用事例

このコンセプトが(部分的にでも)使われているんじゃないか、というサービス事例を自分の独断で紹介する。

住友生命「Vitality」

Vitalityは、「運動や健康診断などの取組みをポイント化し評価する」という仕組みを通じてリスクそのものを減らす健康プログラムです。従来の生命保険に、Vitality健康プログラムをプラスした保険、それが“住友生命「Vitality」”。「リスクに備え、リスクを減らす」新しい発想の保険です。

Pawprint

「Pawprint」は、従業員が職場や家庭、そしてそれ以外の場所でも、迅速かつ簡単に気候変動対策に取り組めるようにした一連のツールです。

みんチャレ - 三日坊主防止アプリ

https://minchalle.com

「みんチャレ」は新しい習慣を身につけたい人が5人でチームを組み、チャットで励まし合いながらチャレンジする、三日坊主防止アプリです。

プライステックって行動変容テックだよな

ハルモニアがテーマとしているプライステックも、広い意味では行動変容テックのひとつだなと気が付いた。価格を変えることや、値引き施策、ポイントバック施策の設計などはすべて、買い手の行動変容を促している。

数字としての価格を最適化するだけでなく、コミュニケーションデザインや、ナッジとの組み合わせで、より効果的に、そして自発的な選択の結果としての行動変容を促せる可能性を感じた。

お誘い:行動変容テックの考察・実践を深めていきませんか

行動変容テック(あるいは行動変容そのもののメカニズム)の考察を深め、多くの産業・企業の変革に上手く使ってもらいたい。そしてライフスタイルの変化が十分なスピードとスケールで実現されるようにしたい。そのためには、このテーマに関心・意欲のある多様な専門性の人たちでの議論や実践を続けていくことが欠かせないと思う。自分と違った畑のみなさんとあーだこーだやりたい。

自分はあくまで行動変容のひとつの要素であるプライシングの専門家にすぎない。デザイナー、研究者、コンサルタント、投資家、事業に活かしたい企業、メディア、ルールメイキングに関わる政治家、省庁の方など。興味のある方はぜひSNS等で声をかけてほしい。

Twitter @dmattsun

より深く知りたい方へ:参考文献リスト

おまけ(自分がどんな話をしたのか)
Climate Tech Day当日の動画配信はまだないので、先日のYoutubeです。


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