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一番太いサラミ

スーパーやコンビニ、酒屋でおつまみとして売っているサラミ。
小指サイズの細いものからフランクフルトサイズのものまでいろいろな大きさのサラミが売られていますが、その中でも一際大きいタイプのサラミを食べたことがある方はいますでしょうか。

大学生の頃、友達が夜中にあるサッカー中継をみんなで集まってみたいと提案があったのでお酒やおつまみを持ち寄ってだらだらテレビを見るという会が催されたことがありました。
3〜4人ぐらいでコンビニに行って安い酎ハイやおつまみを選びます。
その時目についたのがとっても太いサラミでした。
直径2cmぐらいはあったのではないでしょうか。

見たことはあるけど食べたことはない。
絶対美味しい、そして夢がある。
この機会にぜひ食べておきたい。
私ともうひとりの友達がそのコンビニに売っていたいちばん太いサラミを手に取ってカゴに入れました。

中継が始まってみんなお酒を開け出してすぐ、私は早速サラミを取り出しました。
四角いビニールに真空パックされているので、それを端からはがすとあのでっかいサラミを直接手に持つことができました。

おお、これがあのでっかいサラミか!
今まで気になってたけど家族にやめなさいと言われるようなことをやるためにこの4年間はある!!
その1つを今日叶えることができたぞ!!!

早速ひとくちかぶりつきました。
お、思ったより硬い。
でもこの塩気と肉感がいいんだよな。
その味がダイナミックに感じられてたまらんな!
でもなんか硬いんだよな……。
大きいから硬いのかな……。

ちょっと違和感はありましたが美味しく食べ終えました。
お酒もちょうどよく進んでいいおつまみになりました。
サッカーの中継も前半戦終わりに差し掛かったぐらいでした。

そのままお酒をちびちび飲みながら対戦カードも思い出せないサッカーの試合を見ていました。
サッカーの漫画を読むのは好きでしたがサッカーの試合を見るのには興味がなくて、ただ友達と集まってだらだら酒盛りをするのが楽しかったあの頃、とても懐かしい。

試合の後半が始まった頃に私と一緒にサラミを買った友達が「そろそろ私も食べてみようかな」とサラミを取り出しました。
四角いフィルムを剥がしてサラミを手に取る友達。
一口かじって首を傾げる友達。
かじった断面の端っこに何やら透明な膜があるのを見つけた友達。
それをさらに剥がして残りを食べ出す友達。

一方、あの違和感の正体を知った私。
違和感の正体を知ったけどその正体を胃の中に全部入れてしまった私。
もう全てが取り返しのつかない状態になっていることを悟った私。
そっと「それ、剥がすの…?」と尋ねてみる私。
「うん、だって食べれないじゃん」と言われた私。
後戻りができない私。
「それ、食べちゃった……」とつぶやく私。

にわかにざわつき出す室内。
爆笑する言い出しっぺの友達。
驚きながらもサラミのビニールを剥がす友達。
もう笑い話にするしかない私。

サッカーの中継を見るために集まった部屋は一気にカオス状態に陥りました。
いろんな「無毒だけど食べ物ではないし食べてはいけないもの」を食べたことがある私ですが、さすがにこんなにたくさんのビニールを無自覚に食べたことはなかったのでなかなかにショックでした。
なによりこれを剥がせるんだということに気がつけなかったこと、剥がしておけばもっと美味しく食べることができたのだろうかということを思うと大変に複雑な気持ちでした。

やるせない。
情けない。
やっちまった。

ネガティブと分類するほどではない後ろ向きな言葉と後悔。
胃の中に収まった大きなサラミだったものとそれを包み込んでいたビニールのことを思うとそんな気持ちに取り囲まれてしまいます。
あれから大きなサラミは食べていません。
おそらく消化されないまま私の体から出ていったあのビニールのことを思い出してしまうからです。

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