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がんばって取った検定がいつのまにかサ終していた

大学3年の終わりにこころの病気が悪くなって実家に帰ることになった。
戻ってしばらくして、卒論にはまだ手をつける気力がなかったがなにか勉強はせねばと思い立ち検定試験に挑むことにした。

英検は語彙を覚える気力にならないからもうたくさんで、何か日本語のことをふわっと勉強できるやつがいいなと思った。
漢検だと語彙に寄りすぎている。
何か他にないだろうか。

そう思っていた折、我が家で撮っている新聞に通信教育大手会社と協力して時事ネタや慣用句についての知識を試すことができる検定試験を行うと言う広告が掲載されていた。

語彙読解力検定である。

古文から現代文に慣用句、熟語、最新ニュースの読解まで幅広く取扱いその知識を試すことができるとのこと。
なるほど。
語彙力だけを試されるのではなく、文章の読解や世界情勢やニュースの知識もなければ合格することができないようである。
ふーん、これいいじゃない。

思い立ってすぐに書店へ赴き、テキストを取り寄せて勉強を始めた。
準1級と1級の試験を受けるべくテキストを読み始めて、知らない言葉を中心にルーズリーフに書き留めてまとめていった。
テキストには時事問題を理解すべく普段から新聞を読むことだったり、古文を理解するためにまずは坂の上の雲からはじめよだったりとテキストの外の文献も深く読み込まねば合格は厳しいぞいみたいなことも書いてあったような気がする。

テキスト外の文献を読むところまでは手が回らなかったのだが語彙の勉強はだいぶがんばった。
ルーズリーフもだいぶ分厚くなってバインダーにギリギリ納まるぐらいのものだったから私にしてはかなり頑張ったほうだと思う。
試験直前で家族が会社から風邪をもらってきてそれを移されるという最悪なアクシデントもあったが当日はギリギリ体調を整えて試験に臨むことができた。

試験はかなり難しかったと記憶している。
テキストに書いてあった通り、古文や時事問題はテキストに書いてない範囲からの出題も多くてだいぶ解くのに苦労した。
当たり前だが語彙問題も見たことのないやつがたくさん載っていてなんだお前は初めて見る顔だなと自己紹介を繰り返しながら試験問題を解いていった。

結果は準1級のみ合格。
1級は歯が立たなくて残念ながら不合格だった。
それでもこれを就職面接の履歴書に書けば語彙力があって時事に詳しい人材であることをアピールできるんじゃないかとちょっと期待していた。

しかしこの検定には問題があった。
知名度が圧倒的に足りていなかったのである。
我が家で取っていた例の新聞はA県内ではおそらくあまり浸透度が高くなかった。
そしてその新聞の中に広告が載っていたとて、覚えている人などそうそういないのである。

履歴書に書いても「この試験はなんですか?」と聞かれて「A新聞とB社が共同でやってる検定で、時事問題やいろんな文章から語彙力と読解力を見る試験でして……」と返事をするのだが、いつも「はあ、さいですか」と言った感じでラリーが終了してしまい、面接官の関心ははちゃめちゃに薄かった。

それからなんやかんやちょっとしたパートに入ることができてその仕事を続けているうちにその試験のことを忘れて数年が経った。
再受験することすら頭から遠ざかっていた。

そういえばあの試験、どうしてるのかなと思い出したのは仕事に行けなくなって引きこもり生活になってからしばらく経った後である。
仕事を探してはめぼしい求人宛に履歴書を送り落ちる、という生活をしていたのだがその中で「そういえばあの検定取ってたよな、今どうなっているんだろう」と思い出したのだ。

検定の名前で検索をかける。
公式サイトにアクセス。
この検定は終了しました。
新たな形の試験を開催すべくなんたらかんたら。

あんなにがんばったのに。
もうない?

結構難しかったのにもうない?

夜なべしてテキストを写して語彙を増やしたあの日。
家族に風邪をうつされて具合が悪い中追い込みをしたあの日。

全部水の泡になってしまった。
悲しすぎる。

しかも今Wikipediaで調べたところによると語彙読解力検定はなんとたった2回の試験を行っただけで試験の開催を終えているらしい。
私はそのたった2回のうちの1回を受験して合格を1つもらったわけだ。

ある意味レアだけど履歴書に書いてももう誰もわかってくれないだろう。
がんばったことで得た知識は無くならないけど、それを裏付けてくれる検定がなくなってしまったのはめちゃくちゃつらい。
後ろ盾がないままに能力を証明するのはめちゃくちゃに難しいのだ。

あの頑張った日々は嘘ではないがあの試験を受けることはもうできない。
さようなら語彙読解力検定。
もうどこにもない語彙読解力検定。




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