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自分の身体の一部であるものは。

肩から提げている、カバンが軽い。

今日は忙しいからとか、これから荷物が増えるからとか、そんな理由でキミを置いてきてしまったんだった。

こんな日にかぎって、いつもの道でいろんな発見をする。
いつの間にか、紫陽花が咲いている。
いつの間にか、大きなクモの巣がなくなっている。
いつの間にか、河原の土手の雑草がきれいに刈られている。

いつの間にか、ぼくは景色を取りこぼしている。


*


ぼくはいつも、荷物が多いと言われる。
カラカラに乾いた冬の日でも、折りたたみ傘を忘れない。
スマホもWi-Fiも充電器も、ペンも手帳も財布も。
読みたい本も、読んでいる途中の本も。
いつ必要になるかと心配だから、全部持っている。

今日も、荷物が多いと言っているわりには、全部持っている。
キミ以外、全部。



何が大切で、何が無くても困らないものなのか、判断を間違えてしまうことがある。
手放しちゃいけないもの、そうでもないもの。
ぼくはきっと、たくさんのものを持っているのだろう。
きっと、恵まれているのだろう。

ほんとうに必要なものは何か、いつも忘れてはいけない。
持っていれば助かるけれど、それはほんとうに必要なものなのだろうかと。
ほんとうに必要なものが、埋もれてしまってはいないだろうかと。
いつも、考えていなければいけない。

雨に濡れたっていい。
ネットにうまく繋がらなくてもいい。
でも、今日しか出逢えない景色を切りとることができないなんて、そんなことはあってはならないんだった。



部屋に戻ると、ベッドの上にポツンとひとり、キミは目隠しをされたまま、寂しく佇んでいた。

ごめんね。

ぼくはそう言いながらキミを手にとり、目隠しを外してスイッチを入れた。
ブゥン、とちいさな機械音が鳴った。
キミがすこし、怒っているように聞こえた。

自分の身体の一部であるものは、やっぱりいつも一緒でなければダメなんだ。
明日からはまたキミとともに。
ご機嫌をなおして、ぼくのためにすてきな景色を切りとってください。






どんなに忙しくても、どんなに荷物が多くても。
カメラはぼくの、身体の一部です。






いただいたサポートは、ほかの方へのサポートやここで表現できることのためにつかわせていただきます。感謝と敬意の善き循環が、ぼくの目標です。