見出し画像

何と呼んだらいいのでしょう?

あなた、君、お前、あんた、おたく、貴殿、てめえ、そちら、汝、、、

ちょっと考えるだけでも、二人称単数の人称代名詞(こういうと英語の授業みたいですね)はたくさんあります。
目の前の人に呼び掛けるとき、何と呼ぶことが多いでしょうか。
これだけたくさん呼び方があるのに、わたしは名前で呼ぶことが多いように思います。「〇〇ちゃん」とか「△△さん」とか。
もしくは役職や役割とかでしょうか。「部長」とか「先生」とか「お母さん」とか。

あまり日常会話で「あなた」とか「君」とか言わない気がします。英語で'You'が入るべきところに、日本語の場合はその人の名前が入ることが多いです。そもそも主語を言わない、明示されていないことが多いです。
英語は文法上、基本的に文章に主語が必要ですから、Youが落ちることはありません。
フランス語やスペイン語は動詞の変化で主語がわかるので、「あなた」といわなくても「あなた」が主語であることが明らかです。
日本語と似ているのは、(わたしのかじったことのある言語でいえば)タイ語です。タイ語も主語によって動詞の変化しない言語で、「あなた」や「わたし」にあたる言葉がたくさんあります。また、「〇〇さん」とか、名前が二人称になることも多いようです。

ちなみに、話すときに「あなた」とか「わたし」とかを明確にする言語(英語、フランス語、スペイン語)としない言語(日本語、タイ語)で、ものの考え方とか見方、受け取り方も変わるのだろうな、と思います。わたしは英語を話すときの方が、自分と相手の境界をはっきりと意識しているように思います(わたしはバイリンガルではないのでたいそうなことは言えませんが)。日本語で日本人とハイ・コンテクストな文脈で会話しているのと、英語で異文化交流をしているのとの違いなのかもしれませんが。
でも、同じ人でも使う言語によって性格まで変わるという研究もあるくらいで、言葉というのは思考に大きな影響を与えるのでしょう。

話を人の呼び方に戻します。
わたしは普段、「あなた」とか「君」とか、二人称単数の人称代名詞をあまり使いません。そもそも、(書き言葉は別として)日本語の会話であまり日常的に使わないように思います。知人で「あなた」とか「君」という言葉を多く使う人は、帰国子女か海外生活が長い人が多いです。
以前、外で兄に話しかけるときに「あなた」と呼んだら(家ではそんな風に呼びません。ちょっとよそ行きぶっていたのです。)、それを聞いていた小学校低学年の子に「あの人と付き合っているの?」といわれました。小学生にとって「あなた」という言葉は身近ではない、特別な意味を含んで使われる言葉だったということなのでしょう。
また、先日Twitterで議論をしている時、相手の人のことを「あなたは、~」と言及したら、「あなた様は~」と明らかに慇懃無礼に返されました。わたしの返信の内容もさることながら、「あなた」という言葉自体に気持ちを逆なでされていたように見えました。相手の人には、私こそが慇懃無礼に見えたのでしょう。

「あなた」という言葉は、普段使いするには少し格式ばった言葉に感じますし、相手との距離を感じます。
「君」は何となく目上の人が目下の人に使うことばのようですし、
「お前」や「あんた」は完全に軽んじているように思います。
「おたく」という呼び方は少々特殊ですし、
「貴殿」なんて言うのはほぼ書き言葉でしか見ません。

名前を知らない人や名前がうろ覚えな場合どう呼びかけていいか迷うことがあります。
「(客引きの使う)社長!」とか「(店員さんの使う)お姉さん」とか、役割(といえるのかわかりませんが)で呼ぶのはとても便利ですが、汎用性が高すぎて逆に失礼になることがありそうです。
考えるほど、丁度いい二人称の人称代名詞というのはなかなか見当たりません。

わたしたちは目の前の人を、何と呼んだらいいのでしょう?



サポートでいただいたお金は、わたしがちょっと元気になるために使われます。