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仮面の力(2) はじめに

はじめに


私は仮面が恐い。
 むかし家に、レプリカの能面の、女面と般若を飾ってある部屋があった。祖母が町内会の旅行か何かで買ったか、もらったかしたものである。私はどうしても気味が悪くて、昼もその部屋に入ることが嫌だった。面が、肉体を持って動きだしそうだったからだ。般若よりも、女面の方がリアルで怖かった。『肉面』という恐い話を聞いたせいだったかもしれない。

   昔、無類の面好きの殿様がいた。殿様は美しい面を欲しがり、町で見
  かけた美しい女の顔の生皮を剥いで、それを面に貼った。不思議なこと
  に面は本物の顔のように柔らかく、腐らなかった。しかし不幸なことに
  顔の皮を剥がされた女は川に落ちて死に、その死体は拾われずにそのま
  ま流された。
   それから毎夜、殿様の屋敷に女の幽霊が出るようになった。幽霊には
  顔の皮がなかった。祟りだという家来の止めるのもきかず、殿様は肉面
  をつけた。すると肉面は顔にぴたりと張り付いて、いくら取ろうとして
  も取れなくなってしまった。そしてとうとう殿様は死んでしまう。

今思い出しても恐ろしい。当時は絶対一人でトイレに行けない程だった。
 もう一つ。近所の神社には、通常の顔に装着する面の三倍か四倍はありそうな大きな般若の面が二つ飾ってあった。悪いことをすると、あの般若が夜に捕まえに来ると教えられ、前を通る時は、必死に私は悪い子じゃないと面に向かって言い訳したことも覚えている。
 大学に入って、授業で、中性のマスクを被り演技をすることがあった。そのマスクは、能面をヒントに作られていて、人間の感情そのものを表現しやすく、また人間ではないもっと大きな自然の生命のパワーも表現できるニュートラルな表情を持つ仮面だった。この時も、私はその仮面を被りたいとは思えなかった。つけたら、仮面に支配されてしまうという恐怖すら感じていたと思う。
 どうしてこんなに仮面を恐ろしいと思ってしまうのか。仮面の顔に人格と何か得体の知れない大きな力を想像してしまうからかもしれない。仮面を被った時の自分の変化が恐ろしいと思ってしまうからかもしれない。
 なぜ、私は仮面が恐ろしいと思えるのだろう。仮面とは何なのだろう。
 仮面を調べることで、恐怖の理由を知りたいとおもう。

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