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宇宙開発を宇宙一わかりやすく理解できる記事

こんにちは、イギリスで宇宙開発に従事しているこおるかもです。

最近は、宇宙開発に関するニュースがたくさん世間を賑わせていますね。
ざっと最近のトピックスをあげておきます。

  • アルテミス計画のSLSロケットが月周回軌道と地球帰還を達成

  • 世界中のロケット打ち上げが立て続けに失敗(詳しくはこちら

  • イーロン・マスク率いるスペースXによる民間宇宙旅行・インターネットサービス(スターリンク)などの急成長

  • JAXAによる宇宙飛行士選抜試験による2名の新宇宙飛行士の誕生

  • JAXAの新型基幹ロケットH3の打ち上げ失敗

しかしながら、日本の多くのみなさんは、宇宙開発の全体像をよく知らぬままに、「宇宙って夢があるよな~。でもやっぱり宇宙開発って難しいんだな~。なんかすごいな~」というテンションで眺めているのではないでしょうか?

そんなあなたへ、今日は宇宙開発の全体像を、宇宙一わかりやすく解説します。宇宙一かどうかは、みなさんの判断にお委ねしますので、コメント欄で感想を聞かせてください。

ではさっそくいってみましょう。


宇宙ビジネスをたった2つのセクションで理解する

なお、宇宙開発・宇宙産業・宇宙ビジネス、などなど、似たような用語があり、厳密にはそれぞれニュアンスが異なるのですが、ここでは簡便さを優先し、どれも同じような意味として使います。

さて、宇宙ビジネスを宇宙一わかりやすく定義するには、どうしたらよいでしょうか?

ぼくなりの言葉で説明すると、こういうことになります。

宇宙ビジネス=宇宙システムを利用した事業


当たり前ですね。でも重要な視点です。

ここで、宇宙システムとは、宇宙にあるなんらかの資産(人やモノ)のことです。つまり、人工衛星や宇宙ステーション、そこで活動する宇宙飛行士、更にここでは簡便のため、ロケットなどの輸送手段も含めることにしましょう。これらすべてが宇宙システムです。

つまり、宇宙ビジネスとは、その定義からして、宇宙システムを少なくともほんの一部でも利用したビジネスのことを指します。

そうすると、宇宙ビジネスとは、そうした宇宙システムを「作る側」と、「利用する側」に分けることができます。MECEですね。(モレなし、ダブりなし、の意味)

これを図にするとこうなります。

図にするまでもないですね笑。

今風に言えば、「モノづくり」と「コトづくり」と言い換えてもいいかもしれません。ともあれ、これが宇宙一わかりやすく宇宙ビジネスを理解する方法だと思います。

あとは、上記のそれぞれを少しずつフローダウンしていって、みなさんが本当に知りたい情報までたどり着ければ、宇宙開発の業界分析もいっちょあがり、というわけです。

では、もう少しだけ詳しくみてみましょう。

意外と知られていない宇宙ビジネスの核心

ここまで、宇宙産業を製造業サービス業に分けてみました。それぞれを詳しく見る前に、まずは、この両者を比較してみたいと思います。

実はここに、多くの方が誤解している(宇宙開発に従事している人さえ誤解している!)、宇宙ビジネスの核心があるのです。

こちらの図を御覧ください。

※世界全体の数字です

なんと、製造業が全体の約7%、サービス業が残りの93%を占めているのです!(ただしここでの製造業には、純粋な宇宙システム(人工衛星とロケット)のみを対象とし、関連する地上セグメントは省いています)

みなさん、これを見てどんな印象を持ちますか?

宇宙といえば、ロケットを打ち上げたり、世界一複雑なシステムと言われる巨大な宇宙機を開発するのが思い浮かぶと思うのですが、実はそれは宇宙ビジネスのたった7%の話なのです。

今や時代はサービス業の時代です。がんばって開発された宇宙システムを、いかにしてサービスへ、そして利益へつなげるか、という時代なのですね。

しかしなぜ、そんなに製造業は儲からないのか?と疑問に思う方も多いかと思います。例えば、日本のGDPに占める製造業の割合は20%、サービス業は32%と、両者は遜色ない数値となっています(参考)。

どうして宇宙ビジネスがそんなに特殊なのかというと、「宇宙システムはモノそれ自体では1円も価値を産まないから」です。例えば、人工衛星はそれが宇宙に飛んでいるだけでは、ただの宇宙ゴミでしかないでしょう。一方で、自動車やスマートフォンでは、モノそれ自体が人の手にわたり、そのハードウェアが生活の質を向上させてくれます。

しかし、宇宙システムの場合は、そこから新しい情報を得たり(例:地球を観測する)、電波で地上の遠く離れた端末同士をつなぐ(例:衛星インタネット)ことで初めて価値を生み出します。「人工衛星とは、突き詰めるとただのセンサーである」という格言を残した人もいます(ぼく)。

このことを、収益構造の観点からみてみると、どんなことが言えるでしょうか?

それは、「サービス業から得られた利益から、すべての宇宙システムの製造費用が賄われている」ということです。つまり、製造業はサービス業の完全なる下請け産業なのです。さらにいうと、サービス業で得られた利益の一部が衛星の製造業へ、その中でさらに余った利益がロケット産業へ流れている、という縦型の収益構造になっています。

こんな感じ

したがって、サービス業が衛星産業の何倍も利益を出してくれていないと、衛星産業がペイすることはありませんし、衛星産業がロケット産業の何倍も利益を出してくれないと、ロケット産業がペイすることはないのです。

つまり、一見華やかに見えるロケット産業が、実は宇宙産業の中で一番割を食う宇宙ビジネスなのです。

実際、スペースXの成功以後、雨後の筍のように出現した多くのロケットベンチャーの中には、すでに倒産寸前の企業もあります。また、そういった熾烈な競争が、ロケットの打ち上げが相次いで失敗している要因でもあります。(くわしくはこちらをお読みください)

そう考えると、元はロケット開発から始まったスペースXは、現在は自ら衛星を製造し(世界一の衛星製造ラインを持っている!)、さらにインターネットサービス(Starlink)や、宇宙旅行サービスを拡大させて完全な垂直統合を実現しており、イーロン・マスクの凄さが際立ちます。

ちなみに、ホリエモンロケットことインターステラテクノロジーも、それにならって同じ路線(ロケット・衛星・通信サービスの垂直統合)を進んでいます。このあたりはさすがです。

加えていうと、日本は昔から製造業には強く、ロケットだけでなく、人工衛星も製造メーカが乱立しており、いずれも性能は世界トップクラスなのですが、いかんせんサービス分野が伸び悩んでいるのが課題だよね、というのが、宇宙畑にいるとよく聞こえてくる話です。これであなたも宇宙ビジネスジャーナリストの仲間入りです。

さて、では最後に、各セクションの中身についても、代表的なものだけ取り上げて、全体像をまるっと把握してみましょう。

製造業

宇宙システムといえば、やはり人工衛星とロケットが代表的なものになります。ただし、ロケットは人工衛星を宇宙へ運ぶための輸送手段になりますので、イメージとしては華やかですが、実際にはかなり割を食っている、というのは前述の通りです。

具体例を示すと、ロケットは、人工衛星を所定の軌道に到達させるための道具なので、「輸送能力(より重いものをより遠くに飛ばせるか)」「輸送費(単位重さあたりの打ち上げ費用)」「信頼性(成功確率)」といった、極めてベーシックな指標だけで横並びに評価されてしまいます。

結果として、各ロケット会社は、市場原理によって厳しい価格競争に晒されています。もちろん、価格を重視するあまり「安かろう悪かろう」で一度でも打ち上げに失敗すれば、大きく事業が後退してしまうという、とてもハイリスクな事業です。

一方で人工衛星は、主に地球の高度400km(低軌道)~36,000km(静止軌道)と、軌道も様々で、主に地球を観測するための光学カメラやレーダーを搭載していたり、通信用の大型のアンテナを搭載しているなど、用途も技術も様々であり、各社が特徴を打ち出して差別化しているため、競争は多様です。

ひとつひとつについて詳しく解説したいところですが、本記事は宇宙一わかりやすくという制約がありまして、それは諦めることにします。しかしながら、ひと目でこれらを理解するには、そのサイズでジャンル分けするのが一番直感的です。なぜなら、サイズはコストとほぼ正比例するからです。

というわけで、それぞれのサイズと費用などを、超ざっくりまとめてみました。

ロケットの規模感
人工衛星の規模感

これで、みなさんが注目している企業の衛星やロケットが、どのくらいの事業規模のものなのか、ひと目で理解できると思います。もしもお金に余裕のある方は、小さい人工衛星でも買って打ち上げてみると良いのかと思います。(半分冗談ですが、実際にそんな軽いノリの人も世の中にはいます)

サービス業

宇宙システムを利用したサービス業として、みなさんにとって今一番ホットなのは、衛星インターネットサービスではないでしょうか?もしかしたらこの読者の中には、スペースXのスターリンクの受信機をサブスクで購入している方がいるかもしれません。(いたら感想を教えてください!)

しかし、宇宙システムを利用したサービス業は、実はものすごく前から始まっており、今も、今日も、みなさんがきっと利用しています。

その代表例は、天気予報GPSです。

ですがこれらは、主な顧客が政府系機関であることと、一般人にとっては無料で利用できることから、ビジネスとしてこれ以上スケールするものではありません。そのため、2000年代に成熟して以来、さほど変化はありません。

一方で、インターネットサービスを筆頭に、現在急成長のサービス業こそ、今の宇宙ビジネスを牽引する事業になります。

ただし、衛星インタネットサービスは、現在のところ地上のサービスよりも低価格になる見込みはなく、地上側で専用のアンテナを設置しない限り、通信容量も限られています。そのため、海上や山岳地帯など、地上局の電波が届かないところでの利用といったニッチな市場を足がかり市場にしているため、大きくスケールするのはまだ少し先のことです。

では、他にどんなサービス事業があるかというと、一番ホットなのは「地球観測事業」でしょう。

こちらの写真を見てみてください。

©Airbus

この画像、人工衛星で撮影されたものだって、信じられますか?ドローンで撮影されたものだと言われても信じてしまう人がほとんだと思います。もちろん、ホワイトハウスをドローンで勝手に空撮したら、きっととんでもない代償を支払うことになると思いますが、人工衛星で撮影する分には、自由です。その画像を売るのも自由、買うのも自由です。しかも、誰にもバレずに、です。

衛星画像の利用シーンは多岐にわたります。例えば、以下のようなものです。

  • アメリカのとうもろこしの発育状況をモニターして、世界の食料需給を予測する

  • アマゾンの森林の増減をモニターして違法伐採の取締りや地球環境の変動を予測する

  • 中国の夜間のトラック交通量をモニターして、”実際の”経済指標を予測する

  • 中東の石油備蓄設備をモニターして、石油価格の変動を予測する

  • ウクライナとロシアの戦車の数や移動量をモニターして、紛争地の戦況を分析する

いかがでしょうか?あえて地域や国の名前を躊躇なく書きましたが、そのおかげでことの重大さがリアルに伝わったと思います。いずれも、もし誰よりも早く、正確に情報を捉えることができたら、とんでもない規模の事業となることが、容易に想像できると思います。

ちなみに上記の中には、ぼくも実際に衛星画像を利用してアプリケーションを作ってみたことのある例もあります。衛星画像ビジネスの特徴は、宇宙開発に一切の知見がなくても、プログラミングさえできれば誰でも参入できるということです。現在、世界中のデータサイエンティストが競い合っています。腕自慢の方はぜひ参入してみてください。

というわけで、現在本格的に成長している宇宙ビジネスのサービス業としてインタネット衛星や地球環境事業を取り上げました。

もうひとつ、今後の大きな柱となるのが、宇宙旅行事業です。こちらについては、以前こちらの記事に宇宙一わかりやすく書いたので、ご参照ください。

ところで、「宇宙システムはモノそれ自体では価値を産まない」と先に述べましたが、宇宙旅行については例外です。この場合、乗り物としてのロケットや宇宙機が、人々に貴重な体験価値を生み出すことができます。そのため、付加価値をつけてどんどん高単価/高利益率のビジネスを狙うことが可能です。

現在、地球の成層圏であれば約2000万円で旅行できる状況まで来ています。しかしながら、実際に人が乗るロケットとなると、技術的な難易度が一気に上るという背景もあり、本格的にみなさんのもとに届くのは、あと数年はかかるという印象です。

というわけで、ざっと主な宇宙サービスを概観しました。

おわりに

これで今日お伝えしたかった内容は以上になります。

みなさん、宇宙一わかりやすかったですか?
ぜひ感想をコメント欄でお願い致します。

また、今後、上記で取り上げた内容をいろいろな角度から更に深掘りしていこうと思うのですが、下記のうちで、もしご希望があればそれもコメント欄でお知らせください。(アンケート機能とかあったらいいのに→noteさん)

話題候補:

  • スペースX、もといイーロン・マスクがどれだけすごいかっていう話

  • 地球観測ビジネスがどれだけ儲かりつつあるかっていう話

  • 人工衛星の設計開発って実際どんな感じなの?っていう話

  • (今回割愛してしまいましたが)月や火星の探査・開発に関する話

  • 日本の宇宙ベンチャーもっとがんばれよっていう話(めちゃくちゃがんばっていますが)

  • 宇宙ビジネス関連銘柄の株で儲けたいよ!っていう話

  • (リクエストされても書きませんが)JAXAもっとがんばれよっていう話

以上、最後までお読みいただき、ありがとうございました。


なお、今回この記事を書くにあたり、こちらの記事を参考にさせていただきました。宇宙業界ではおなじみの宙畑さんです。いつも大変お世話になっております。ただし、こちらの記事は惜しくも宇宙で2番目にわかりやすい記事となってしまいました。とはいえ、ぼくの記事を読んだ方であれば、絶対にためになると思いますので、ぜひご贔屓くださいませ。

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