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くもり時々晴れ、

「くもり時々晴れの予報でしょう。」

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時々、分からなくなる。

何のために東京にいるのか。
何故、東京に居続けているのか。

この街に住み始めてから、2年と1ヶ月が経った。

(こんなにも長く居るとは、自分でも思いもしなかった。)

何かと地元には帰省しているつもりである。

2ヶ月に一度、いや3ヶ月に一度は帰省しているのではないだろうか。

東京駅へ向かう道中は少しだけドキドキする。

事前に購入していた乗車券と特急券が一つになっている、
券をPASMOと結び付けては、そのまま改札をくぐった。

目を閉じれば、そのうち睡魔に襲われやがて眠りにつく。
それがいつものパターンだった。

気付いた頃には、終点の新潟駅に到着する。

眠たい目を少し擦っては目を覚まし、駐車場へと足を急ぐ。

駅まで車で迎えにきてくれた母と合流し、
実家へと向かう。

地元に着いてからいつもやるルーティーンがある。

それは、「深呼吸」だった。

少し湿った土の香り、
少し冷えた風、
森の中にいるような新緑の香り。

肌と匂いで感じるこの自然の感覚。

「いま、わたしは生きている。」

そう実感できる、唯一の方法だったのかもしれない。

実家の扉を開けて、
「ただいまー」と一声掛ける。

響き渡る自分の声。
暖かい空間。
家の匂い。
嬉しそうな両親の顔。

嗚呼、帰ってきたんだな。

暖かい空間で食べる母の手料理が
この世で一番美味しくて、好きだった。

ご飯を食べて、お風呂に入って、
歯を磨いて、布団に入る。

静寂の夜だった。
こんなにも静かだっただろうか。
もう、少しずつ地元の感覚を忘れてきているのかもしれなかった。

私には、帰省していたら絶対に行く、
”いつもの散歩コース” が存在していた。

晴れた日の昼間に、カメラを首から下げてソコに向かった。

鼻から肺の奥まで空気を吸い込んでは、吐き出した。
心地良かった。

私はこの街が好きだ。
この街の街並みも、人も、自然も、全部。

でも、実家に帰省するたびに、
必然的にお別れの時間というモノは、やってきてしまう。

見送ってくれる母の顔色は、晴れることは無かった。
いつも今にも泣き出しそうな顔をしていたから。

わたしを東京へと運んでくれる新幹線の車内では、
私の心の中は曇っていた。

発車してからすぐにイヤフォンを耳に装着しては、
複雑な思いを音楽で掻き消した。

そして、いつしか疑問に思うようになった。

「母にあんな顔をさせてまで、東京に戻るほど
東京に価値はあるのだろうか。」と。

そのことに気付いてしまってから、
それがずっと引っかかった。

気付きたく無かった。

東京は、嫌いだ。
知りたくもないし、慣れたくもない。

狂いそうな夜がわたしを度々襲った。
泣き叫ぶ夜。
布団に潜っては一人で泣いた。

眠れない夜に一人で外に出て散歩した。
案外静かだった。

東京の街を車で走る度、
東京タワーとスカイツリーを目にした。

その度に視線を奪われ夢中になった。
「あ、東京タワーだ。」
そう、今でも口に出す。

でも、いつしかそのことにも興味がなくなって、
口にも出さなくなって、
驚かなくなってしまうのだろうか。

そう考えてはすごく、怖かった。

もし仮に ”その時” が訪れてしまった暁には、
それが ”東京に慣れてしまった” という証明になるのだと思った。

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2024.04.28 fin.


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