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食を批評するなら言葉を持たなきゃ

「Go to」キャンペーンについに東京も入れてもらえるようになりますが
都民としてはやはり、

早く飲食店にも愛の手を!

と声を大にして言いたい、です。
最近ではせっせと、レストラン応援の意味も込めて、2〜3人の少人数で食事に行くようになりましたが
やはり、大勢で囲むダイニングが恋しくてたまりません。
シェアスタイルで取り分けてかぶりつくメインのブロック肉とか、
カウンターに大皿料理が並ぶ吉田類チックな居酒屋とか、
あぁ、早くダイナミックな食環境よ、カムバック。

ところで、私にとってはレストラン探訪も仕事のうちですが(そう信じてる)、
同行者はなるべく、バラバラな年齢層&職種になるようにしています。
正直、仲良しの女友達と行くのがいちばん楽っちゃ楽なんですが、
それをやっていては、私の中で「食の言語が育たない」と思っています。
というのも、
立場が違うと、発する言葉も気づきもまったく異なるから。

で、こないだは友人のアラサーシェフと共に
六本木にある、とあるクラシックフレンチに行きました。
大野尚斗さん。才能あふれる若手料理人で、世界中のファインダイニングで修業し
今も仕事のかたわら、精力的に“食べ修業”を行う勉強熱心な方です。
さらに大野さんの魅力を挙げるならば、言葉。
自らの体験をnoteで書かれていて、その語り口はまさに「深夜特急・料理編」です。
(沢木耕太郎著「深夜特急」は名作ですよね)

さて、食事の席。
ていねいに調理された小さなアミューズから、前菜、メイン、デセールまで
正直、私の口から出る言葉といえば

ううううう、美味しい……。

のオンパレードです。
これを記事にしろと言われれば、一応その世界で生きてますから
味の輪郭がしっかりしている、とか
お弟子さんたちの料理にもここの味の系譜が感じられる、とか
それらしい言葉を紡ぐことはするんですが、

食べてる時の感想は、「美味しい」のひとこと

です。お恥ずかしいですが。
一方、大野さんが何を語ったかというと、

この料理、仕込みにかけてる時間が尋常じゃないですね。
原価率の点からしても、考え抜かれた構成がなされてると思う。

という感じ。……なんですか、そのコメントは!
この世界に身を置き、長い時間を過ごしてきた人というのは、
そんな視点から料理を眺めているんだなぁと、改めて感心しました。
料理を生業(なりわい)にする人と食事を一緒する機会はたまにありますが
確かに、みなさん独特の表現をお持ちです。

ある人は、レストランのバックヤードで密かに繰り広げられている下克上のドラマをこっそり教えてくれたし、
ある人は、今食べているこの味が、かつて一世を風靡した人気レストランのスペシャリテに酷使し過ぎていると首をかしげたことも。
また、自ら、ふだんから料理とある意味戦っているために、
皿の上の料理は、単なる美食では済まないようです。
あるシェフは、最初は楽しくみんなで食事していたのに、
途中で食べた料理の美味しさに激しい驚きと嫉妬を感じ
そこから黙りこくってしまったこともありました(驚いたのはこっちだ)。

そういう人が発する言葉の強さと感情。

それを私は、いつも感動しながら聞くと共に
料理やレストランに対して批評するという行為に対し
どう臨むのが正しいんだろうと、いつも一抹の不安を覚えます。

いつも引き合いに出して恐縮なんですが、例えば「食べログ」。
誤解のないように申し上げると、ヘビーユーザーであり、ないと困るよってくらい、日々拝見しています。
が、コメント欄を読むことは、どうしても出来ない。
だって、そこにあるのは責任のない単なる感想と、個人的な好みが大半だから。
すみません、そもそもこういう私の意見も、個人的なんですけどね。

個人的に少ししょっぱいと感じたとか、サービスがなんとなく感じ悪かったとか、そういった言葉の数々が、
書いた本人の素性や好みの方向性も明らかにされずにバンバン公表されていくのって(しかも本人による推敲も、他者によるチェックもなく)、
いいんでしょうか、いいの? 本当にいいのそれで?
……と思わずにはいられないのです。

なっていないサービスが一過性のものではなく日常のものであれば、
オンラインで公表されなくても、徐々に人伝いに喧伝されていきます。
「以前に比べて味が落ちたね」という厳しい一言も、
そこに毎月通い続けている人と、数年ぶりにふらっと来た人が発するのとでは、やはり違うのではないかと思います。

その一方、「食べログ」のすごいところもあって、
採点結果が、世界的な食批評ランキングのそれとかなり近いということ。
ほんとですよ。
OAD」のランキングを見ると、舌で戦う世界中の料理批評家が投票しても、このような結果になるんだなぁと驚きます。

たぶん、食を語るときに大切なことは

それが本当に自分の言葉であり、
同時に
負の感情から発しているのではなく飲食業界に貢献できる言葉なのかどうか
なんだと思います。
なんでも自由に発信できる世の中だけれど、
人の言葉を借りてイージーに食を語ること、

前を向かずに食を批評することだけは、したくない

なんてことをつらつら考える、食欲の秋です。

#食の仕事 #COMEMO #料理

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。