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飲食店は弱者なのか

まさかこんなことになるなんて、誰も思っていませんでした。

コロナウイルスによる新型肺炎の蔓延によって、
次々とカレンダーが入れ替わっていきます。まるでスケジュールテトリス。
今週は、バンコクのフードリサーチのために出張するはずでした。
来月のビッグイベントも来週やるはずだった撮影も、春に延期です。
さらには、来月末に佐賀県で開催が予定されていた食のコンペティション「Asia's 50 Best Restaurants」も、ついに主催者側から中止の発表がありました。初の日本開催だったのになぁ。初のローカル開催だったのになぁ。
取材がなくなった以上に、一ファンとして悔しくてなりません。

ふだん、食の現場を見たい&伝えたいと動き回るのが私の仕事ですが、
いざこのような事態になると、笑っちゃうほど無抵抗だというのが身にしみてわかります。

対象としているものが、食だから。

リモートワークが推奨され、オンラインショッピングの株価が急上昇し、
コミュニケートすることなしに、どのように過去の日常に近い状態を再現できるかが取り沙汰されている時に、

対面で“料理と感動”を提供する

という行為を生業とするレストランは、なすすべがありません。
zoomを使ってオンライン飲み会しても、通販でばんばん高級食材を買いあさっても、レストランで得られる感動を味わうのは、土台無理なことです。

今週、SNSフィードにあがる知り合いのシェフやソムリエたちの投稿は、
読んでいるだけで胸がつぶれそうになります。みんな、強い。
悲観的なことを書いている人がほとんどいないのが、逆に泣けます。
「ディナーで来店するのが難しいかと思うので、ランチを始めます!」
「(Asia's 50 Best Restaurantsが)中止になりましたが、新たにランクインする友人シェフたちを囲んで、ささやかにお祝いする予定です」

など、こういう時にもめげず、誰かを励まそうとするシェフたちの姿を見るにつけ、

料理人という人種の、根っからの励まし体質

に頭が下がる思いです。

しかし、
今この状況下で、客のキャンセルが相次ぎたちまち経営難に陥っている宿泊業や飲食業の方々に対し、私のような立場でできることって何なんでしょうね?
職業柄、レストランをドタキャンすることほど罪の重いものはないとかねがね思っていました。
今だって、じゃんじゃんレストランに出かけて、料理人たちの熱い想いを聞いたり食べたりしたい。
しかし、今回の新型肺炎というのは、感染しても無症状の人もいれば、伝染(うつ)ったら最後、たちまち弱って死んでしまう人もいると聞きます。
「自分はたぶん大丈夫と思う」というのはおこがましい話ですが、
自分が媒介となって周りの年配者に伝染してしまったら、その後一生、家族からそしりを受けて生きることになりかねません。

そんな恐れをはねのけて、レストランに出向くことができない私。
きっと、同じような思いでいる同業者もたくさんいることと思います。

飲食業に従事している方にお聞きしたいことがあります。

今、どうしてほしいですか?

収束してから盛大にレストラン詣でを再スタートすることで、少しでも力になれるんだろうか。
自然災害や疫病流行の非常時でもやっていけるようなセカンドビジネスは、飲食業界従事者にこそ必要なんじゃないだろうか。

そんなことをつらつらと考えてしまうのです。

***

一方、このように切迫した状況下で、私たちはまもなく3月11日を迎えます。
先週、まだ寒い石巻を訪れたのですが、
前回行った数年前は、ただただがらーんととしていた港のそばには、ピカピカの魚市場や水産復興センターが建ち、
朝6時半に「斎太郎食堂」で、とっても美味しい銀カマ焼き定食をいただきました。

震災後、火が消えたようになってしまった東京のレストランを憂い、
翌週早々に有志でレストランに集い、盛大にワインを飲んだのを思い出します。
震災は最悪でしたが、今回の新型肺炎は今後慢性化する可能性もあると専門家が警鐘を鳴らしています。それはそれで、最悪です。
震災、台風、株価大暴落、疫病……と、ここ20年くらいだけでも本当にたくさんの試練が、飲食業界を直撃しました。
日常、そんなことには触れず、淡々と料理について取材して書くのみですが、
この10年、20年を乗り越えて今も元気に営業しているレストランの方々には、心から拍手を贈りたいです。
そして、今回の新型肺炎にも負けないでいただきたい。
客である私たちがいったい何をすれば力になれるのか、なすすべもなく時間が過ぎるのを見守っています。

#料理 #COMEMO #新型コロナウイルス

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。