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今日の本棚 : その熱量に脱帽・2



ミールとは

言葉に取り組む人の熱量に圧倒されて、先日、この記事を書きました。

なので、少し前に読み終わったこの本についても、noteに書き残しておきたくなりました。
言葉の習得にかける熱量がこちらもすごい。

「ロシア語だけの青春 ミールに通った日々」

黒田先生の本は何冊か読んだことがあって、ロシア語をはじめとしたスラヴ系の諸言語をネタにしたエッセイなどは、寝入りばなの気軽な読書にちょうどいい感じ。

先生がロシア語を学んだのは「ミール・ロシア語研究所」という語学学校でした。

ミール・ロシア語研究所。

昔、NHKのロシア語テキストで広告を見かけて名前だけは知っていましたが、そこでの授業がどのようなものだったのか、この本で知りました。

黒田先生の言葉を借りるなら、「体育会系」。
よくある語学学校とは違い、徹底的に発音練習に時間を充てる授業でした。

具体的には、テープ(! 時代を感じますね)のあとについてみんなで例文を発音したら、次は生徒ひとりひとりが例文を発音。
といっても単に読めばいいのではなく、正確にウダレーニエ(ロシア語式アクセント)を発音できるまで、先生からは延々とダメ出しをくらい、妥協で許してもらえることはない。
ようやく全員の例文発音が終わったら、今度は口頭で例文を和文露訳、同じく露文和訳。

口頭での訳が難しいのはよくわかります。
漫然とテキストを読んでいると、覚えたつもりでも覚えていないことがほとんどです。
まして、覚えていないことを喋れるはずもない。

なので、予習して例文をきちんと暗誦できるところまで持っていかないと、ミールでの授業にはついていけないのです。
初級でも中級でも上級でも、ひたすらテキストを丸暗記+正確な発音が必須。
しかも授業は週二回。
好きで通うにしてもハードな内容です。
そんなミールに黒田先生は「嬉々として」12年も通ったというのだから、頭が下がります。


暗唱の必要性

黒田先生はこの本のなかで、外国語の教育に暗唱は欠かせない、として、大学などでの訳読授業について、このようにも言っています。

話せるようにならないのは、訳読が悪いのではない。そのあとで暗唱しないからである。どんなテキストにせよ、訳出したあとに口頭で、日本語から外国語へ訳す練習をすれば、必ず実力がつく。
家で辞書を引いてくる作業は、学習の準備にすぎない。和訳を確認した後で暗唱するのが勉強であり(後略)

黒田龍之介「ロシア語だけの青春
 ミールに通った日々」

無意識に口をついて出るようになるまで発音を繰り返し練習してはじめて、外国語は身につく、ということなのでしょう。

その通りだと思います。
学校の授業といえば、自分は辞書を引くだけで精一杯で、暗唱するなんて思いつきもしませんでした。

受験や資格試験のための勉強も似たようなものだったので、だから試験ではそこそこの点数が取れても、実際の場では
「この単語であってるのかな?」
「この表現でTPO合ってる?」
「そもそも単語が思い出せない!」
ということばかりなのです。(ため息…)


発音練習の重要性

ミールの特徴のひとつである発音練習。
なぜそんなにウダレーニエにこだわるのかについて、ミールの創設者である東一夫先生はこのように言っていたそうです。

ロシア語のウダレーニエとは、実に強いものなのです。そりゃ実際に話すときは、もっと弱くなりますよ。でも普段から弱いようでは、本番ではもっと弱くなってしまいます。それではだめだから、授業中は意識的に、強く発音する練習をするのです。

黒田龍之介「ロシア語だけの青春
 ミールに通った日々」

なるほど… です。
たとえばなにかのパフォーマンス、歌でもお芝居でもダンスでもいいのですが、日ごろ120%の練習をしていたとしても、本番で100%の力を出せるとは限らないですよね。

外国語もそれと同じことなのです。

現に、いま自分がずいぶんとはまりこんでいる中国語も、ちょっと眠いときや疲れているときは、とたんに四声が曖昧になってしまいます。
ふだんからきっちり発音していないと、コンディションの悪い時にはガタガタになってしまうでしょう。

暗唱ができるまで発音練習をするのは、地味で単調な作業だけに、自分との闘いです。
外国語を発音し続けるのって、意外と体力を使うんですよね。
社会人の趣味としてやる外国語で、そこまで自分を追い込む必要はないのかもしれません。
でもやっぱり少しでも身につけたい。
なので、ミール式そのままの勉強はできなくても、参考にしてがんばってみよう。


ところで、東一夫先生がつけていた「赤いモスクワ」という香水、いったいどんな香りだったのかな。
そんなことが気になりました。

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