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潜行する魂(1)

高校生の時、へんな科学の先生がいて頭ボサボサで、顔が赤くて、鼻ごえでその鼻がやっぱり詰まっていて、鼻水らしきものがテラテラ白衣についてる、というきったないおっさんでした。

当然、相当生徒にナメられてて、科学の時間はサボる奴も多く、黙ってトイレにいったり平気でしてました。それでも、その先生は飄々と適当におもしろいと思われるギャグを飛ばしながら(苦笑系でしたが)むにゃむにゃ鼻声で授業を続けてました。

私はこの人はこういう人だと思ってました。

1年、2年、経ち3年目に入った時だったでしょうか、一度誰かが何か言ったのでしょう。突然彼は真面目な顔で何か言い始めたのです。
「理科なんてものは高校までで、ほとんどの人は終わっちゃう。もう一生学ぶことはない。でも君たちの身の回りにあるちょっとした現象のほとんどを合理的に説明できるのは理科だけだ。もう学ばないにせよ、そういう視点はずっと持っているべきだと思うからこそ、君たちに教えている。日本は思い込みと感情で戦争に走ったんだ。それだけは忘れるな。」
完全に怒ってしゃべってました。
皆あぜんとしてました。熱くなってるなー、どうした笑、意味わかんない。というのがクラス全体の雰囲気で、当の先生もしゃべり終わると、しばらくの沈黙の後「はい、じゃ63ページ」みたいな感じでまた元のように、むにゃむにゃ鼻声で話しはじめたのです。

何かその時、私はものすごく感動したんですよ。

何でしょう、だめだめな親父だと思ってたら、その地中奥底からマグマを発見した、というか彼の魂を発見した感じでした。
この人は自分の役割を理解してる、誇りを持っている。みたいなことだったんだと思います。
もしかしたらそれがあるから、その他のことはどうでもよくなった人なのかもしれません。

なんだか単純にいい人、いっつもニコニコしてる人だめな人とまわり評価されている人間がいると彼のことを思い出します。そんな都合のいい人はいないのだと。。

私の唯一先生と呼べる人物の話でした。(続く)


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