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潜在運動系と高次リラクセーション(潜在能力の解放)

今回は高次リラクセーション(高度なリラクセーション)によって潜在能力を開くことについて、述べたいと思います。

高次リラクセーションとは、無意識で起こる筋肉の緊張を完全に解放することを指します。単なる観念的なレベルのリラクセーションではありません。この高次リラクセーションが達成されれば、潜在能力は自然に解放されていくと本論では考えます。

では、早速、本題に入ります。

まず、手を肩の高さまで挙上してください。
そして、手を肩口の筋肉である三角筋に触れ、その部分の筋肉の緊張を確認します。


三角筋の完全弛緩の様子



通常の場合、腕を上げると肩の三角筋は緊張しますが、この三角筋を一切緊張しないように挙上してみてください。無心になり、肩を緊張させないように身体を制御していきます(やり方はまたどこかで述べます)。

私は以前、この三角筋の完全弛緩状態を、大学の研究室でバイオメカニクスの専門家二名と学生数名の協力を得て、筋電図にて測定しました。その時はダンベルを持って腕を挙上していますが、それでも筋肉の緊張は一切確認されませんでした。


ダンベルを持っても三角筋の緊張は一切ない

この三角筋の完全弛緩状態が、本論で言う高次リラクセーションです。
そして、この高次リラクセーションのメカニズムは、潜在運動系という概念で説明しています。その詳細は、拙著『東洋医学と潜在運動系』(たにぐち書店)をご覧ください。


『東洋医学と潜在運動系』(たにぐち書店)

通常、三角筋が麻痺すると腕は挙上できなくなります(三角筋麻痺が起こると、腕は挙上できなくなることが医学的に知られています)。しかし、私は三角筋を緊張させずに挙上しています。主観的には、力を全く入れていません。そこで、どの部分の筋肉で持ち上げているかですが、候補に上がってくるのは、三角筋と同様に腕の外転に関係する棘上筋です。また、棘下筋の上部も外転に関係します(それと骨格を上手く用いています)。

この三角筋は身体の外側にあるアウターマッスルであり、棘上筋・棘下筋などの内側にある小筋群はインナーマッスルと言われます(インナーマッスルは正式な解剖学用語ではありませんが、便宜上用います)。

野球のピッチングで、プロとアマチュアの選手を比べると、プロのピッチャーのビッチングは、アウターマッスルが弛緩しています。このデータは、外側の筋肉はリラックスさせておいた方がパフォーマンスが発揮されること示しています。


出典:桜井伸二『投げる科学』スポーツ科学ライブラリー
画像:立花龍司『TCA理論』日刊スポーツ出版社

こうした外休内活の関係性が脳にも見られます。
脳は便宜上、ポールマクリーンの3層構造に分けると、

①大脳新皮質(人間の脳)
②大脳辺縁系(哺乳類の脳)
③脳幹(爬虫類の脳)

となります。
この中で一番外側のアウターブレインが、霊長類の時代に発達したとされる大脳新皮質です。このアウターブレインを休息させ、大脳辺縁系・脳幹と行った動物脳を賦活化させるのが、潜在運動系による高次リラクセーションの考え方となります。

実際、プロサッカーのネイマール選手の脳は、ドリブル時に大脳新皮質は休息していることが実験結果から示唆されています。

また、パスを出す時、通常は大脳新皮質を用いるのですが、スペインリーグの選手は大脳基底角で行っているとのことです。この大脳基底核という部位はプロの棋士も使っている部分であるとされます。

芸術家も、このような脳の用い方をしている可能性があります。
芸術家は共感覚者が多いと言われます。共感覚とは、音に色を感じるとか、五感のうちのいくつかが連合した状態を指します。

例えば、私たちが普段使う言葉に「黄色い声」と言いう表現がありますが、聴覚情報であるはずの声を視覚情報として処理しています。こうした表現も共感覚の一種だと思います。
この共感覚が働いている時の脳は、大脳新皮質の血流が下がっていることが実験にて報告されています。このことから共感覚は大脳辺縁系以下で処理されている可能性があるのです。

こうしたことから、レベルの高いスポーツ選手や芸術家の創造性は、表層のシステムを休息させ、深部のシステムを賦活化している状態であることが予想されます。この深層筋であるインナーマッスルと、脳幹・大脳辺縁系であるインナーブレインの二つを結んだインナーシステムが潜在運動系なのです。

このインナーシステムである潜在運動系は、動物時代の脳身体システムであるため、潜在能力とは、

「自然力」
「野生力」

とも言えると思います。
確かに、動物のパワーやスピードは凄まじいですし、動物の優れた五感は超能力と言ってよいレベルです。こうした潜在性を人間の表層脳・表層筋がブレーキをかけてしまっているのです。そして、このブレーキ・リミッターを外せば、潜在能力は自然に開放されるはずです。

前述したインナーマッスルである棘上筋・棘下筋に加え、小円筋・肩甲下筋を合わせて回旋筋腱板・ローテータカフと言います。このローテータカフが回旋するための軸を形成します。しかし、アウターマッスルである三角筋が過緊張すると、軸からズレた動きをしてしまうため、インピンジメントシンドロームなどの障害の原因となってしまいます。ですから、アウターマッスルはリラックスさせれば軸は形成され、自然な回旋運動が行われるのです。

大脳新皮質も休息させずに酷使させると脳疲労が起こります。また、物事を行う場合、それを強く意図しすぎると、抑制をかけてしまいます。武道の極意で「無心」や「無念無想」と言うのは、脳の脱抑制を意味していると考えられます。

この大脳新皮質ーアウターマッスルの関係性を本論では顕在運動系と呼んでいます。つまり、顕在運動系を休息させ、潜在運動系を働かせることが、潜在能力の解放になると考えるのです。
※ただし、この顕在運動系はブレーキをかける悪いものだと思わないでください。この人間のシステムがあってこそ、私たちは人間らしい活動ができるからです。ここではバランスの問題として捉えてください。

なぜ、このように脳と身体をシステム(系)として結ぶかですが、脳の状態を身体で確認するためです。つまり、脳の状態は客観的になかなか分かりにくいため、脳が脱抑制状態になっているかどうかは、表面の筋肉の緊張が低減しているかどうかで判断できる、と考えるからです。

もう一つの理由は、脳から身体へと影響を及ぼすということなのですが、これは長くなるので、また別の機会に述べたいと思います。

リラクセーションと言うと、観念的に脱力するニュアンスもありますが、本論のリラクセーションとは、物理レベルでアウターマッスルを完全弛緩させることと、大脳新皮質の休息になります。そして、これによって脱抑制が起こり、潜在運動系がアクティベーションされる、これが本論が考える潜在能力の解放です。

こうした人間の潜在能力の開発方法については、また、様々な角度から述べていこうと思います。

【潜在運動系研究会HP】

【MBBS佐藤源彦総合リンク集】


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