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北朝鮮で起こす小さな革命~トゥルーノース

編集部のエイミーです。
「映画館で見る映画の良さを多くの人に伝えたい」
そんな思いで映画と映画館愛を語ります。

北朝鮮の政治犯強制収容所で、過酷な毎日を生き抜く日系家族とその仲間たちの姿を3Dアニメーションで描いた「トゥルーノース」(清水ハン栄治監督・脚本・プロデューサー、94分)を見てきました。

広島の東急ハンズ8階にある「サロンシネマ」での鑑賞です。チケット売り場には、館名のネオンがこうこうと輝きます。これは老朽化で移転を余儀なくされた旧サロンシネマから運ばれたもの。昭和の匂いと共に、原点を忘れないという熱い思いを感じます。

映画館

1960年代の帰還事業で日本から北朝鮮に移民した家族の物語。平壌で幸せに暮らしている4人家族に、ある日突然、不幸が襲いかかります。父が失踪、その後、残された母と幼き兄妹は政治犯強制収容所に送還されてしまいます。理由が分からないまま過酷な労働を強いられ、生き延びることで精一杯の毎日を過ごす一家。人を笑わせるのが得意な純粋で優しい心を持つ兄ヨハンは次第に、他者をあざむく人間へと変貌します。一方、母と妹は人間性を失わず倫理的に生き続けます。そんな中、愛する家族を失う衝撃的事件が発生。絶望の淵に立たされるヨハン。その後、一大決心で他の収監者を巻き込み、小さな革命の狼煙を上げます。

リモート舞台挨拶で清水監督の話を聞きました。内容があまりにも残酷すぎて、とても実写では撮ることはできないと感じた監督は、3Dアニメーションという手法を選択しました。アニメでも、表情や質感を人間らしくしてしまうと、リアリティーが前面に出てしまうので良くないと考え、折り紙で折ったようなカクカクした質感の人物にしたそうです。
私は常々、伝えたい思いが強ければ強いほど、一般的に受け入れにくい映画になる傾向があると思っていました。きっと、「思い」が一気に作品に投影され、自己満足的になったり、エンタメ性を失ったり、説教くさくなったりすることで、鑑賞しづらくなってしまうのではないでしょうか。それはすごくもったいないこと。そんなモヤモヤした思いを払拭してくれたのが本作です。主催者や制作者の強い思いと、観客の溝をどうやって埋めようかと考えた監督は、俯瞰した立場で現状を把握し、エンタメ性を持たせた作品に仕上げました。
舞台挨拶の司会を担当した映画館支配人の「厳しい現実を描いた映画ですが、とても面白かったです」とのコメントに、監督も「素直にうれしい」と返していました。全編ほぼ英語で展開する本作は、世界中の人に見てもらいたいという気合いがうかがえます。映画の冒頭、かわいらしい犬のイラストに日本語で「すみません」と表記されたロゴマークが出てきます。「これはどういうメッセージがあるのですか」との質問に、「主宰しているアニメーターのネットワークの名前が『すみません』なんです。こんな感じの映画を作っているので反感を買うこともあるかと思い、それなら初めから謝ってしまおうと思って」と冗談まじりに楽しそうに答えました。芯が強くたおやかな監督の人柄に触れ、ますます今後の作品が楽しみになりました。

チケット

・映画館が日常になりますように・

【サロンシネマの醍醐味】
劇場に入る前から、映画のワンシーンを描いたイラストが迎えてくれます。どの映画の一場面か想像するだけでワクワクします。

サロンイラスト

(編集部・エイミー)

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