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ばあちゃんの懸念

私の母は、結婚してから急に幸せになった稀有(?)な人。

結婚するまで、大手企業で副社長秘書をしていたとはいえ、給料のほぼ全てを幸薄い祖母に渡していたため、決して楽な生活を送っていた訳ではありませんでした。

気前のよいことに、父は、給料の全てを母に渡して、「後は、任せた!」などと呑気な感じ(笑)。

初めて自由に使えるお金を手にした母。

「もう、空腹で生きて行かなくても良い!」

こうして、お金のほとんどが食費へ当てられることに…。

母本人は料理が下手なのに、食べるものは随分と贅沢なものになっていました。

福砂屋のカステラを小脇に抱えて、それを手でちぎって菓子パンの様にパクパク食べる母。

「アンタらの分も買うて来たで~」

なんと、1人1箱が配給されたのでした。

我々家族が着ている洋服はボロボロなのに、随分とアンバランスな生活(笑)。

よほどカステラに恋していたのでしょう。

母のカステラ攻撃は、数ヶ月間続いていました。

そんな折、母方の祖母が、当時大学生だった私に言いました。

「アンタも、お母さんと暮らしとったら息苦しいさかい、ばあちゃんの家に1人で遊びに来たらエエわ!」

「たまには、息抜きせなな!」

大変気性が激しくて、性格が極端な母。

この超難関人物と平和に楽しく暮らせるのは、苦労人の父だけ(笑)。

こうして、ばあちゃんの家に夏休みの間、1ヶ月間滞在することに…。

ばあちゃんは、「花甘露は、お母さんに良いものを食べさせられて育ったから…」と、かなり気を遣ってくれました。

ばあちゃんの家の冷蔵庫の中には、神戸牛やケーキなどの高級な食品がぎっしりと並んでいました。

(オイラ、頻繁にこんなものを食べている訳じゃないのに…)

コレ、かつて、貧しかった祖母を助け続けた母に対する恩返しの意味も込められているのでした…。

「他の孫には、こんな事、せえへんからな…」と、ばあちゃん。

(かなり、ムリをしたに違いない…)

そして、滞在数日後、ばあちゃんが「今日は、美味しいお菓子があるねん!」と出して来たのが例のカステラ。

正直、もう、うんざりしていた私は、うかつにも次の様な発言をしてしまいました…。

「な~んだ、カステラか…」

「コレ、もう、食べ飽きた!」

すると、ばあちゃんは大変驚いてしまい…。

「まあ、この子は、なんちゅう事、言うんやろね!」と発言。

家に戻った私は、早速、母に尋ねてみました。

「お母さん、カステラって、高いんか?」

これに対し、不気味に笑う母。

私の話を聞いた父は、ばあちゃんに対してとても恐縮してしまう始末。

「お前は、思いやりがなかっ!」と叱られてしまいました…。

母はかつて、ばあちゃんに忠告されていたそうです。

「アンタは、子供にあんな(贅沢な)ものを色々と食べさせてはいけない!」と。

しかし、母の意思は固く…。

「幼かろうが、何でも経験させとくんじゃー」

残念ながら、当の本人である私は、欲の無い子供と化してしまい、母の期待は大外れ。

祖母の(私が強欲な子供に育つという)心配も杞憂に終わったのでした(笑)。

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