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午前中。ベランダに出て洗濯物を干していたら、突然物干し竿からひらり何かが舞い上がった。そうしてベランダの欄干に音もなく降り立つそれは、中くらいの白い蛾だった。どちらかといえばキレイな感じの蛾だ。とはいえ、突然蛾が飛び上がったものだから、驚いて少しばかり後ずさってしまった。ひと心ついたあと、わたしは気を取り直して洗濯物干しを再開する。今日もいい天気、どころか暑い。残暑は続く。

午後になり、洗濯物の様子を見にいく。ものの数時間で、ほとんどの洗濯物が乾いていた。乾いたものから回収しようと足を踏み出すと、足元に白い何かが落ちていた。白い蛾の死骸だった。ずいぶん時間が経っているようで、死骸のまわりを小さな蟻が数匹ウロウロしている。ぺちゃっと潰れた状況的に、わたしがその蛾を踏んづけてしまっていたらしい。もちろん、気づかぬうちに。
そしてその蛾は、午前中に見たあの白い蛾と同じようだ。もしかして、彼らは番だったのだろうか。それとも親子か、兄弟か。
午前中に洗濯物を干している時、この2匹の蛾は一緒物干し竿にとまっていたのではないだろうか。そして洗濯物の軍団が押し寄せてきたことに驚き、1匹は欄干に降り立ち、もう1匹はわたしの足元に降り立ってしまった。その地面に降りた蛾を、わたしは気づかず踏んづけてしまったのだろう。

申し訳ないような、それでいて、どうしようもなかったと言い訳したいような、妙な気持ちになった夏の午後であった。

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