七緒よう

物書きです。 森の奥、ひっそりと書いています。 お仕事のご依頼もお待ちしています。 ㅤ

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プロフィール

こんにちは。七緒ようです。 自分では「物書き」と名乗っていますが、いわゆるフリーライターとして活動しています。 「明日の世界をちょっと面白く」をモットーに、今日も文章を書いています 新潟県新潟市出身/岐阜県在住 主な仕事は、個人事業主や中小企業のHPライティング、メルマガ代筆、事業計画書ライティング ほか。 最近では、作家を軸としていくために、コンテスト応募(結果待ち)や童話絵本の自費出版も始めました。 お仕事のスタンス 自分の名前が表に出ないライティングを多くやって

    • 遠くで鬼が鳴る

       映画や本を読むことが娯楽であるように、他人の人生や心の内を覗き見るのもある種の快楽ホルモンが出るのだろう。  相談に乗るのが好きだと公言している人たち、すぐに話を聴かせてほしいと言う人たち、落ち込んだ様子のSNS投稿に対して、「私で良ければいつでも話を聴くからね」とコメントする人たち。  私の周りにも何人かいる。その誰もが基本的には良い人で優しく、共感しやすいタイプだ。  そして同時に、無自覚に他人の不幸に興味があり、承認欲求が強い人でもある。あるいは、本当は聴く以上に自分

      • 約束

         子どもたちに声を掛けてリビングに来てもらった。 「なーにー?」  まだ小学生の下の子は、無邪気にやってくる。中学生になった上の子は、特に返事もせずにソファに座る。 「きみたちが生まれる前に死んだおじいちゃんの話をします。大事な話だから、ちゃんと聞くように。いいね」 「はーい!」 下の子が返事をする。上の子は、居住まいを正して頷いた。 「約束を守ることが大切だってのは、分かるね?──」  私は言葉を選びながら話し始めた。    ちゃんと約束を守ろうと意識したのは、父の言葉

        • 四次元

           祝日のマクドナルドは、午後2時を過ぎてもランチタイムかと思うほど混雑していた。店内を見回すと、家族連れも数組いたが、ほとんどが学生やカップルだった。センスのない寄せ植えのように、おしゃべりの花が咲いている。 「なんだかんだ言って、意外と面白かったな。ドラえもんの映画」  俺は向かいに座る友也に言った。  ゴールデンウイークも後半に入ったところで、「見たことない世界を観に行こう」と友也が誘ってきた。3月から公開されているドラえもんの映画は、もうすぐ公開終了が迫っていた。 バイ

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        プロフィール

          いつもつい

          場違いな音楽が鳴り出し、男は目を覚ました。  布団の中に入ったまま、腕だけ伸ばして音を頼りに手探りでスマホを探す。怖い存在から隠れるように震えながら鳴いている端末を掴むと、軽く画面に触れて大人しくさせる。  画面には、「5/1(水) 6:02」と表示されている。  また、今日が始まる。  私は身体を起こすと、玄関に向かい、置いてある砂時計をひっくり返す。30分測れる高さ10センチほどの砂時計だ。  音もなく砂が落ちるのを見て、またやってしまったと思う。今日こそルーティンを崩

          いつもつい

          白鳥はかなしからずや

           レースカーテンが掛かった窓から、6畳一間1Kに青色の光が差し込んできた。カーテン越しに透けて見える外は、濃い群青色をしている。  だらだらと酒を飲みながらゲームをしていたら、いつの間にか夜明けの時間になっていた。お互い5月の連休は予定がなく、バイトするか酒を飲むかレポートを書くかの3択で生活している。  バイト帰りの河島友也が、バイト先の焼き肉屋からチャンジャとカクテキをもらったからとやってきたのは、昨夜22時頃だった。俺はちょうど日本文学の授業で出た若山牧水についてのレポ

          白鳥はかなしからずや

          地図を編む

          「地図を書き換えていくような仕事がしたいです」  二十年前、私はそう言って、地方のゼネコンに就職した。就職氷河期と呼ばれた時代に、希望の業種に就けたのは幸運だったと思う。  食堂の壁には、新潟市と佐渡の地図が掲示されている。地図上にいくつかピンが刺してある場所がある。うちの会社が現在請け負っている工事の現場だ。港湾関係の仕事が多く、ピンは海岸沿いや河口付近が多い。会社も港のそばに建っている。  刺さっているピンの中に、私が関わった工事は、一つもない。  会社に不満はない。む

          地図を編む

          見えない未来に希望が一人

           残りの寿命を知ったら、その残された時間を人間はどう過ごすんだろう。残りの寿命を知ることは、果たして幸せだろうか、それとも不幸だろうか。  私が占い鑑定士として、雑居ビルのこの小さな部屋で商売を始めたのは、ちょうど10年前だ。  それまで仕事を転々としたが、どうやら私は他人と一緒に何かをすることが極端に苦手らしい。一人で気ままにやり始めた占い鑑定士が、まさかこんなに長く続くとは思っていなかった。占い師が自分の未来は占えないっていうのは、たぶん本当なんだろうな。 「それであの、

          見えない未来に希望が一人

          ゆめのはなし

           建て替えられたばかりの高校の体育館は、中学校の古く手狭なそれと違い、新しくて広かった。そして、建材の化学的な香りとワックスの匂いと緊張感で満たされている。落ち着かない表情の300人とその保護者、そして疲れた表情の教師たち。それぞれの視線を背中に集めて、その女子生徒はアナウンサーがやるみたいに、自然に、でも聞き取りやすい声で新入生代表挨拶を読み上げている。  あいつは華がある。 あいつのアレは本当にすごい才能だ。保育園からの幼馴染みだけど、未だにあいつが同い年の人間だとは思え

          ゆめのはなし

          終焉

           会社から帰る電車は春の陽気が車内にも充満しているようで、少し暑かった。お気に入りのお笑い芸人がアイスの食べ比べをする動画を見ていたら、余計に暑く感じてくる。  スマホの画面を見続けているのに疲れを感じて顔を上げると、博物館の企画展を知らせる中吊り広告が目に入った。  それは昭和の暮らしや文化を伝える企画展で、戦前から戦後のイケイケ期まで(本当にこう書いてある)の流行や使われていた道具などを紹介していて、六十余年の昭和の生活を感じられるものらしい。  平成生まれの私にとって、

          インソムニア

           久しぶりにぐっすり眠ったような気がする。  目が覚めたことを自覚して、すぐにそんな感想を抱いた。それからは、いつものように起きる前にじっとして耳をすませる。特に理由はないが、目が覚めてからのルーティンになっている。窓がない部屋にいるので、外の様子は分からない。そのままの姿勢で辺りを見回す。部屋の様子もいつもと変わらない。  なのに、何か違和感がある。何かいつもと違う目覚めだ。でもそんなことを気にしていられない。起きたらすぐに仕事の指示が来てないか確認しなくては。 「え?指示

          インソムニア

          百物語

           指を組んで腕を前に突き出すように伸びをしたら、目の前の窓から入る春の光に触れそうな気がした。 思わず、んあ、と間の抜けた声がでた。少し剥げてきた青いネイルが、伸ばした手の先に冬のなごりのように残っている。その手の向こうのモニターに、スーツ姿のカジモトが映っている。 「なあ、知ってるか。桜の樹の下には死体が埋まってて、だからあんなに心が惹かれるんだよ。これはな、信じていいことなんだ」  小さな出版社の編集者であり、幼馴染でもあるカジモトがZOOMミーティング中に言い出した。し

          家出

          窓の外は真っ青だった。青しかなかった。 時折、薄暗い影のようなものが、空とも海とも違う青の世界を流れていく。その時、周りを包む青いベールを切り裂くように、突然強烈なアラーム音が鳴り響いた。 俺はけたたましい電子音の中で、しばらく目を閉じていた。三〇秒経って、音量がさらに大きくなると、まぶたの重さに逆らわないまま、左手で音源を探り始めた。 ゴトンという音とともに、音が下から響き始める。「くそっ」と短く悪態をつき、諦めて目を開ける。ようやく上半身を起こす。目の前に広がる大きな窓

          ロクなもんじゃない

           6がいなくなった。周りからすれば、まったく前触れもなく、突然のことだった。  5時の次は7時になったが、一日は二十四時間のままなので、〇時とか6の代わりに適当に置き換えることになった。もちろん、それと同時になるべく6を使わないようにすることで、社会は少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。  一方で6の捜索は、変わらず続いていたが、手掛かり一つ見つけられずにいた。  そもそも6がいなくなった理由は、一体何だったのか。後の取り調べで、6本人がこう語っている。 「私にはずっと割り

          ロクなもんじゃない

          アーベントロート

          以前コンテストに応募した作品です。 加筆修正して公開いたします。(※一部有料)  びょおおお、ザッ、ザクッ。  吹雪になってしまった。  それでも私は、頂上を目指していた。引き返すべきだったが、振り返ると三歩前の足跡すら吹雪で消えかかっている。もう遅い。前に向き直っても、頂上は見えないが、あと数百mで到達できるはずだ。かじかんだ手足の指がまだ動くことを確かめてから、ピッケルを握り直し、アイゼンを立てて小さく一歩踏み出した。  突風が吹きつける。氷の粒となった雪が顔を叩く。痛

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          年始に感じたことの話

          あけましておめでとうございます。 本年もよろしくお願いいたします。 ㅤ 元日、地震が発生しました。 私は高山市にいましたが、観測震度は5弱。 東日本大震災当時に、東京で感じたものに近い恐怖感がありました。 ずいぶん揺れが長く続いたように感じましたが、怪我などもなく無事です。 ただ、地震の影響で数時間の断水が発生し、久しぶりに災害による不便さを感じました。ㅤ 母と弟の住む新潟市の実家の方は、花瓶が割れ、家の土壁(漆喰?)が剥がれ落ちるなどの被害があったようですが

          年始に感じたことの話