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『君は悲しみの/イルカ』

 その昔、僕がまだ学生だった頃のこと。
 夏休みに帰省したとき、 妹の部屋の南側の壁に、この歌の歌詞を手書きした紙が貼ってあった。
 その中で、特にこの部分に心が動いた。

 ― ぼくは ぼくの事しか見えなかった
   君が泣いてるなんて 知らなかった
   君はぼくのために
   生きてくれたやさしい人

 それまで子供だとばかり思っていた妹。その多感な青春期の内面が見えたようで、ちょっとドキッとした。

 19歳の夏、妹は15歳の中学生。

 それがイルカの歌の歌詞だとは知らなかった。

 数年後、妹が大阪芸大舞台芸術科の学生だったころ、友達とシェアしていたマンションを訪ねた折り、壁に貼ってあった詩のことを話してみると、この歌がイルカの歌だということを教えてくれた。
 その時、ギターをつま弾きながら歌ってくれた妹の歌が、僕にとってはこの曲との出会いだった。
 そのときの少しハスキーな声と、ピッキングのリズムの良さが耳に残っている。

 この歌を思う時、今でもそのときの妹の歌声が頭の中で再生される。

 


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