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医療ミステリーに学ぶ、ビジネスパーソンの意思決定術

その昔、NHKで医療ミステリーのクイズ番組を見たことがあるのですが、これがとても面白かったのです。
番組の進行をするのは緊急医療の専門ドクターで、緊急搬送されてきた患者の容態やそれまでの経緯をVTRで観た上で、新人ドクターたちが病名と対処法を答えるというクイズ形式の番組です。

ふつうに医療クイズとしても楽しめる番組だったのですが、この内容がそのままビジネスパーソンの意思決定術として学びが得られる内容だったのです。
緊急医療というのは刻一刻を争う時間の中で、患者の所見という限られた情報を整理して、正解の対応を出さなければなりません。このスキームはそのまま経営課題に取り組むビジネスパーソンそのものなのです。

ということで、医療ミステリー番組から得られたビジネスパーソンの意思決定術について解説します。

意思決定のコツ1:人は直感を信じるというバイアスを認識する

番組の冒頭、新人ドクターたちは所見から病名を導き出していたのですが、けっこうな確率で病名の診断を間違っていたのですね。

たとえば、頭痛とか、手足のしびれとか、病院に搬送されるまでにいくつかの症状が出ていたことがVTR内で明かされます。そうすると、

  • 症状A + 症状B = 病名A

というふうに答えを導き出してフリップに病名Aを書くのですが、これがけっこう間違っているのです。

それもそのはず、これは作られたクイズ番組ですから、症状Aと症状Bから導き出される病名Aは、番組側が容易したひっかけ問題なのです。

所見が分かる映像を観ると、実は症状Cもチラっと映っていて、本当は以下のように

  • 症状A + 症状B +(症状C)= 病名B

と、病名Bが正解であったことが分かります。
直感的には病名Aだ!となるのですが、症状を考慮すると病名Bにたどりつくルートが用意されているのですね。

これは、行動経済学でいうところの「利用可能性ヒューリスティック」というものです。

利用可能性ヒューリスティックとは、判断を下す際、頭の中に思い浮かびやすい情報や事例に過度に依存してしまう心理的な傾向を指します。
頭の中に症状A + 症状Bが成立する場合は、だいたい病名Aであるという思考回路ができあがってしまっており、その正解に飛びついた瞬間に、実はさりげなく映像中で明かされたいた症状Cを、脳が考慮しなくなってしまうのです。

これをビジネスパーソンの意思決定方法として置き換えると「すぐ思いついた正解に飛びついてはいけない」ということです。
情報Aと情報Bがあるから、対応はだいたいコレで良いと正解に飛びつく前に、見逃していない情報がないか、それを組み合わせた場合は答えは変わるのではないかという自分の直感に反する思考回路を意識的に開拓する必要があります。

例えば、以下の情報があった場合

  • 情報A「売り上げが30%アップ」

  • 情報B「該当期間中はセール中」

直感的に正解は「セールだから売り上げが上がった」という風に思いがちです。しかし、本当にそうなのか、購入者はみなセール品を買っていたかなど、情報を分析して取りこぼしていないかを精査することが重要なのです。

意思決定のコツ2:確率×影響範囲×時間軸を意識する

番組が進行すると新人ドクターたちはVTRの情報を精査しながら、正解だと思われる病名をいくつか絞り込んでいき、その治療法も合わせて回答していきます。

緊急医療において重要なのは、時間軸を意識するということです。病気の中には、一刻も早く対応しなければ命の危険が及ぶものもあります。この時間軸を意識することで、正解の治療法は変わるのです。

例えば、所見から病名Aと病名Bの2つに絞り込むことができ、病名Aである確率が7割と高かったとします。

  • 病名A 病名Aである確率7割

  • 病名B 病名Aである確率3割

これだけであれば、病名Aの治療をすれば良いのですが、例えば、ここに以下のような条件が加わったらどうでしょうか。

  • 病名A 病名Aである確率7割 緊急性は低い

  • 病名B 病名Bである確率3割 1時間以内に対応しなければ死亡率が高くなる

病名Bである確率は3割ですが、もしこちらだった場合、1時間以内に対応をしなければ死亡率が高くなります。

この場合、確率×影響範囲×時間軸で考えてみると、

病名Bにおける最低限の治療を行いながら、詳細な検査をして病名を確定する、が最適解となります。

ビジネスパーソンにおいても確率×影響範囲×時間軸を用いて意思決定をすることが有用です。

たとえば事業の買収を検討していた場合、成功と失敗の確率が以下のように算出できたとします。

  • 事業を買収して成功する確率 3割

  • 事業を失敗して失敗する確率 7割

これだけ見ると事業を買収すべきではないという結論に達しそうですが、影響範囲と時間軸を加えて考えて以下のようになったとします。

  • 事業を買収して成功する確率 3割
     影響範囲:現状より売上が200%UP
     時間軸:競合企業も買収検討をしているので、1か月以内に判断の必要あり

  • 事業を失敗して失敗する確率 7割
     影響範囲:売上現状維持/買収金額は割安
     時間軸:競合企業も買収検討をしているので、1か月以内に判断の必要あり

1か月以内に判断を下す必要があり、買収価格が割安であり、3割の確率で売上が2倍になるとすると、チャレンジする意味があるように見えます。

このように、確率×影響範囲×時間軸を以って正解を考えると、対応すべき道筋の解像度が上がるのです。

ということで、医療ミステリーに学ぶ、ビジネスパーソンの意思決定術について解説しましたが、これは緊急医療を抽象化してとらえ、ビジネスに転用した考え方でアナロジーを用いたものです。アナロジーについては、くわしくは以下の記事を見てみてください。

ビジネス書しか読まない人が、アナロジーが苦手な理由
https://note.com/media_labo/n/n609f310b8d3d

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