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「いとをかし」はヤバくてエモくなった

ヒットコンテンツを作るための方程式

ヒットコンテンツを作成するためには、「インパクト × 分かりやすさ」というシンプルな方程式があります。この方程式は、見る人を引きつける力と内容がすぐ理解できるかどうかを組み合わせたものです。
今の時代、たくさんのサービスがフィード型のインターフェースを採用しています。そうした中でユーザーの目を引き、彼らにコンテンツをじっくり見てもらうためには、まずインパクトが必要です。

さらに、ユーザーがコンテンツをすぐに理解できる「分かりやすさ」も非常に大事です。分かりやすいコンテンツに慣れたユーザーは、ちょっとした分かりにくさでさえもフラストレーションを感じてしまい、そのコンテンツから離れてしまうことがあります。だから、どんなに素晴らしい情報を提供していても、その伝え方が分かりにくければ、人々の関心を引き続けることは難しいのです。

この「インパクト × 分かりやすさ」という方程式に従うと、SNSではコンテンツが伸びやすくなります。
しかし、この法則に従うと似たようなスタイルのコンテンツが大量に生産されることになります。インスタグラムやYouTubeなどのサムネイルには、似たようなキャッチコピーが大量に羅列されているのは、この法則に従っているからです。

可愛い!至高!神!優勝!が溢れる理由


インスタやYouTubeでは「可愛い!」「至高!」「神!」「優勝!」など、人の直感に強く訴えかける言葉がたくさん使われています。これらの言葉は、「インパクト × 分かりやすさ」という方程式を体現していると言えます。直接的で強い表現はユーザーの注意を引くのに非常に効果的です。例えば、「至高のスパゲティ」や「神デニム」のように、普通の商品であっても特別な何かを感じさせる表現が使われています。

SNSを見ると、この傾向はさらに加速しているように感じます。例えば、「無理」を「しぬ」と表現するなど、言葉を強調するスタイルが際立っています。SNS上では、そういったインパクト×分かりやすさを兼ね備えた直接的な表現であふれています。
このような表現が増えてきたのは近年のことで、日本では古来から、もっと控えめで婉曲的な表現が好まれていました。

源氏物語によく登場する「いとをかし」


平安時代には、「いとをかし」という表現がよく使われていました。これは「源氏物語」をはじめとする古典文学や和歌に登場する言葉で、美しい、風雅な感じを表すものです。紫式部が書いた「源氏物語」にもこの表現が出てきます。

「いとをかし」は、使われる状況によってその意味が少し変わってきます。たとえば、風景や景色に対して使った場合、その場の趣や風情があるという意味になります。一方で、人に使うと、その人の美しさや可愛らしさを表現しているのです。つまり、「いとをかし」という言葉は、その状況や背景を考慮して意味を判断する必要があります

この「いとをかし」に対して、「もののあはれ」という表現もあります。これは「趣がある、美しい」という意味でも使われますが、より深い感動や哀れみ、儚さを含んでいるんです。これらの言葉は、同じ「美しい」という基本的な意味でも、微妙なニュアンスで異なる表現がありました。このように細かなニュアンスを理解するためには、文脈をしっかりと読み取る力が必要だったんですね。

平安時代から現代にかけても、日本人はこのような文脈力を必要とする表現を好んで使っています。例えば、小説においては

「鈴木はめっちゃ、おこだった」

という直接的な表現ではなく

「鈴木はけだるげにホームに滑り込む鈍色の電車を眺めながら、爪を噛んだ」

といった一節から、鈴木の不安定でイライラしている心情を読み取るのです。

そして、この文脈を読み取るスキルは、インターネットの黎明期においても必要なスキルでした。

文脈力が必要だった2ちゃんねる


インターネットが普及し始めた当初、回線速度の遅さから多くのコンテンツはテキストを主体としていました。この時期に、特に影響力を持ったのが2ちゃんねるのような掲示板サービスです。こうした掲示板で活動するには、非常に高いレベルの文脈力が求められました。テキストだけで伝えるため、参加者同士が共有する「空気感」を理解することが必須だったんですね。

例えば、あるユーザーが「このスレ、みんなビッグダディ」というタイトルでスレッドを立ちあげてるのを見たことがあります。「ビッグダディ」とは、子だくさんノンフィクションシリーズで知られる林下清志氏のことです。このタイトルを見て、参加者は「ビッグダディに沿った投稿をする」という暗黙のルールをすぐに理解し、「俺はこういう人間だ。だからこのスレに来た」などと、林下氏の名セリフになぞらえた投稿を次々と行います。このように、掲示板を使う上での文脈力は非常に重要で、それがなければ掲示板の流れについていくことは難しかったのです。

文脈力が薄れたのは、スマートフォンの普及以降のことです。スマートフォンの登場により、よりビジュアルなコンテンツが主流になり、テキスト中心のコミュニケーションが減少したため、文脈を読み取る能力が以前ほど重要ではなくなってきました。

視覚優位になったスマホ時代


スマートフォンの登場以降、インターネットの回線が飛躍的に発達しました。これによって、写真や動画がより手軽に共有できるようになり、視覚的なコンテンツが主流になりました。視覚優位になると、自然とテキストコンテンツの総量は減少し、写真や動画がメインになってきます。

Twitterはテキストを主体としたプラットフォームですが、140字で情報を完結させるスタイルです。これにより、文章の前後関係から文脈を読み解く必要性が薄まります。文章を通じて深い意味を読み取る代わりに、短くてダイレクトな表現が好まれるようになったのです。

このような背景から、インターネットでは、昔ながらの婉曲表現や文脈を重んじる言葉遣いよりも、「ヤバい」「エモい」といった直感に訴える言葉が増えてきました。これらの表現は、すぐに感情を掴むため、視覚優位のコンテンツと非常に相性が良いのです。「いとをかし」や「もののあはれ」のような、細かいニュアンスで紡がれる表現は使われる機会が減り、よりシンプルで直接的な言葉が広まることになりました。

結論:ではどうすれば良いのか


SNSでのコンテンツマーケティングを成功させるには、「インパクト × 分かりやすさ」を重視することが非常に重要なので、このルールに従った方がより速く大きな成果を上げることが可能です。

一方で、コンテンツのクリエイターや提供者としては、単に直接的でインパクトのある表現だけに頼るのは物足りないと感じるかもしれません。そんな時は、表面的には分かりやすいが、実はより深い意味を持つ二重構造のコンテンツを考えることが一つの解決策です。これにより、視聴者を引きつけつつ、彼らにさらなる洞察や思考のきっかけを提供することができます。

具体的な内容については次の記事を参照してみてください

ジブリに学ぶ、マスにウケるコンテンツは多重構造
https://note.com/media_labo/n/nffb4c9c4c817

参考記事
ヒットコンテンツの方程式は、インパクト×分かりやすさ
https://note.com/media_labo/n/nd8d5d5df2224


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