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「バズるコンテンツ」は、人間の本能に従う時代に

■バズるコンテンツを決めるもの


YouTubeやTikTok、Twitterなどインターネット上には毎日新しいコンテンツが投稿されています。投稿されたコンテンツが、バズって多数の人に伝播することを決定づける要因は何でしょうか。
それは、人間のプリミティブな本能によって決定づけられている要因が大きいのではないでしょうか。

■バズるのを決めるのは、プラットフォーマー


「バズるコンテンツ」のフローは、以下のようになっています。

「バズるコンテンツ」←プラットフォーマーが選別←人間の本能に基づくパラメーターが影響

まず、「バズるコンテンツ」を定義するのは、プラットフォーマーです。YouTubeやインスタグラムなど、バズるコンテンツの流入経路のほとんどは、プラットフォーマーによるレコメンド枠です。そもそもフォロワーが多いアルファアカウントが投稿したコンテンツであれば多くの人にリーチしますが、それでもプラットフォーマーによるレコメンド集客の方が圧倒的に多いです。
自身が運営していたインスタグラムのアカウントでも、フォロワー数万のアカウントでも、うまくレコメンドに乗ることが出来れば、月間100万以上のインプレッションを出すことが出来ました。

Twitterはレコメンドの影響が少ないSNSでしたが、最近ではレコメンドによる表示割合が増やされているようです。

■プラットフォーマーは、何をもってレコメンドするのか

それでは、プラットフォーマーは何を判断基準にして、コンテンツをレコメンドするのでしょうか。だいたいのプラットフォームにおいて、各種のエンゲージメントが計測されて、エンゲージが高いコンテンツがレコメンドされる流れになっています。
エンゲージメントをひも解くと、クリック率や視聴率、いいねの率、YouTubeであれば視聴維持率などになります。

これらのエンゲージが高いと、まず少量のレコメンドが周り、そこでもエンゲージが高く維持されると、レコメンドが爆発的に回って露出が増える仕組みになっています。

■不倫のニュースがアクセスを集める理由

ということで、レコメンドによるバズを狙うには、とにかくクリックされたり、エンゲージを高めなければいけません。
そのエンゲージを高める決め手が、人間のプリミティブな本能に訴えかけているかどうかなのです。
最も話題になるニュースジャンルといえば、有名人の不倫です。Yahoo!ニュースのトップに掲載され、他のニュースと比べてもコメント数などのエンゲージも桁違いに高くなっています。

不倫のニュースが報道されることに食傷気味だという人もいますが、これだけ不倫のスクープが乱発されるのは、それだけ需要があるからです。
会ったこともない他人の不倫報道が気になってしまうのは、人間の噂好きの本能に由来することが大きいと言えます。社会性を身に着けムラ社会を構築した人類は、自身の生存のためにコミュニティ内の噂などを仕入れることが必要だったからです。人間の脳というのは噂好きになるように進化してきたのです。

Yahoo!ニュースのトップについては、人の手を介した編集が行われており、経済や国内、海外のニュースなどとのバランスを取るように配信されています。もし、他のプラットフォームと同じようにエンゲージメントのみで露出を決めたら、不倫を含めた芸能ニュースだらけになるのは、想像に難くありません。そもそも日本国内においては、海外に比べて芸能ニュースの需要が異常に高いのです。

■行動経済学を使って「バズるコンテンツ」を生み出す手法


このようにエンゲージを多く獲得してバズりやすくする「バズるコンテンツ」は、行動経済学を用いると量産がたやすくなります。
行動経済学というのは、人間の非合理的な行動を理解し、それが経済的意思決定にどのように影響するのかという学問になります。

例を挙げると、損失回避バイアスというものがあります。これは、人間は何かを得るよりも、何かを失う痛みの方に強く反応するというものです。この損失バイアスを用いて記事を作ると

「積み立てNISAで確実に儲ける方法
というタイトルよりも
「積み立てNISAで絶対に損をしない方法
というタイトルになります。

そして、儲ける方法よりも損をしない方法の方が、ほぼ確実にクリック率が良いのです。自身が以前運営サポートをしていたYouTubeチャンネルも、1.5~2倍くらいは損失回避をする動画の方がCTR(クリック率)が高く出ていました。

バイアスの他の例を挙げると、このようなものもあります。

確証バイアス:自分の既存の信念や仮説を支持する情報を探す、または解釈する傾向。

このバイアスを用いるならば、特定の信念や仮説を補強するコンテンツの方が伸びやすいということです。Twitterでも右派か左派によったツイートはエンゲージが高く出ますが、両者を是々非々で論じた中庸の意見というのは、まず伸びません。
YouTubeで陰謀論的な動画が溢れているのも、この確証バイアスに基づいて数値が伸びやすいからではないでしょうか。

ハロー効果:一部の良い特徴が全体の評価を引き上げる傾向。

分かりやすい例でいうと、美男美女の方が主張を聞いてもらいやすいし、評価されやすいということです。また、よく映画のキャッチコピーで「全米NO1」がついているのも、このハロー効果を狙ったものです。動画や記事のタイトルで「100万人が観た!」などとコピーがついているのも、ハロー効果を狙ったものでしょう。

■クリックするかどうかは、一瞬で決まる


そして、これだけコンテンツが溢れているので、ユーザーがクリックするかどうかは、一瞬で勝負が決まります。ユーザーが目にした一瞬で、脳内にドーパミンを分泌させるような刺激の強い短いワードを入れることになります。

このため、YouTubeやインスタのサムネイルには、

・ヤバい
・盛れる
・炎上覚悟
・閲覧注意
・悪用厳禁

などと、刺激の強い本能的なワードが並ぶことになります。
ちなみに、自身がYouTubeの支援をしていたとき、ビジネス系ジャンルであったため、これらの用語の使用は極力控えていましたが、文字数の長さとクリック率(CTR)は逆相関の関係にありました。サムネイルに乗せる文字数が短い方がはるかにクリック率が良かったのです。
このことからも、いかに一瞬で人間の本能をくすぐるワードを短い単語で入れられるかが、クリック率(CTR)というエンゲージに関わることが分かります。

■「バズるコンテンツ」の効用は短期的で限定的


このように行動経済学を用いながら、刺激的なワードを用いて人間の本能をハックすることで、エンゲージをある程度高めることは可能です。
実際に各種のコンテンツプラットフォームには、損失回避バイアスや確証バイアスを突いたコンテンツで溢れています。
しかし、自身は、このようなバイアスを突いて本能に訴えかけるコンテンツの効用は、短期かつチャネルを選ぶと考えています。

例えば、30代向けの女性メディアがあったとして、

「30代でコレは痛い、してはいけないファッション5選」
「30代で結婚を焦って、泥沼にハマらないための方法」
「老後に孤独地獄に陥らないために、今出来ること」

このような損失回避バイアスを突きまくった記事が並んでいたら、そのメディアに定期的に訪問しようと思わないからです。
バイアスを突いて人間の本能に訴えかける「バズるコンテンツ」というのは、プラットフォーマー上のベルトコンベアに流れる中で、ピックアップしてもらうためのカンフル剤のようなものです。
食べ物に例えたら、糖質と脂質を大量にぶち込んだドリンクのようなもので、毎日食べていたら食傷気味になるでしょう。

人間のバイアスを突いたコンテンツは、焼き畑農業に近いので、定期的に訪問してほしいメディアやコンテンツを作る場合は、マイナスに働くことが多いでしょう。

■長期的に「バズるコンテンツ」を構築するためには

そして、こういった論は、YouTubeなどの動画コンテンツが登場する以前からずっと論じられており、Webに溢れる記事はやはりバイアスを突いた方が伸びやすいという傾向がありました。
そしてその傾向は、動画コンテンツなどが登場してから、ますます加速しています。この流れが加速しているのは、冒頭に説明した下記のレコメンドの仕組みに依るところが大きいと思います。


エンゲージが高いと、まず少量のレコメンドが周り、そこでもエンゲージが高く維持されると、レコメンドの爆発的に露出が増える仕組みになっています。

コンテンツの露出が増えるタイミングで、それでも高いエンゲージが獲得出来るかを試されることになります。ということは、マスが理解出来るようなコンテンツ=人間の本能を突いたコンテンツが生き残りやすいからです。
理解出来る人間は一定量にとどまるが、質の良いコンテンツが流通するスキームが確立されづらい状況になっているのです。

かつては、オンラインサロンなどのクローズドコミュニティや、Quoraなどの専門家によるQ&Aサイトなどで高品質のコンテンツが流通するスキームが幾度か試みられてきました。しかし、マネタイズが広告や直接課金である以上は、プラットフォームのインセンティブは、集客とエンゲージメントの最大化に向かいます。
今のところは、Yahoo!ニュースのように、編集者の手を入れて、良質なコンテンツとのバランスを取る、などの方法しかないのかもしれません。

■参考出典
https://news.yahoo.co.jp/byline/tachibanaakira/20160222-00054647
https://introbooks.info/practical/bakamuchi/
https://neutmagazine.com/japanese-yahoo
https://www.mdpi.com/2071-1050/15/1/550


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