見出し画像

妊娠ができない原因にはどんなことがある?

妊娠の過程

妊娠の過程は、➀卵巣内での「卵胞の発育」と「排卵」、②腟内での「射精」、③精子と卵子の「受精」、④受精卵(胚)が分割を繰り返す「胚発育」、⑤胚の子宮内への「着床」の過程があります。不妊症の方は、この過程のどこかに問題があるために、妊娠ができていません。

妊娠ができない原因とは?

妊娠ができない原因には、女性因子・男性因子があります。世界保健機関(WHO)の報告では、女性のみが41%、男性のみが24%、男女ともに不妊原因がある場合が24%、原因不明が11%と報告されています。

不妊症の原因の割合(WHO,1996)


つまり、不妊症に関して女性ばかりがよく取り上げられますが、約半数は男性にも不妊原因があります。不妊治療はカップルがともに協力することが大切です。不妊原因には卵巣因子、卵管因子、子宮因子、子宮内膜症、男性因子などがあます。

主な不妊原因

卵巣因子

卵巣因子は、主に排卵障害、黄体機能不全、卵巣予備能の低下が挙げられます。

排卵障害

排卵障害は、卵胞が発育せず排卵できないため、月経が不順になります。原因はさまざまですが、ストレスや急激なダイエットなどにより頭の中枢にある視床下部が障害されて起きる排卵障害の頻度が最も高いです。

黄体機能不全

通常の妊娠では、排卵後に黄体からプロゲステロンが十分に分泌されます。
ところが、排卵後に黄体から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)が不足し、着床に重要な子宮内膜の脱落膜化が十分に起こらず、着床時期(着床の窓)がずれる、もしくは形成されないことで不妊症となることがあります。これを黄体機能不全といいます。
また、プロゲステロンは妊娠後の妊娠継続にも非常に重要なため、妊娠した場合も流産につながる可能性もあります。排卵障害のある女性では、排卵誘発をして排卵ができても黄体機能不全を伴うために妊娠できないこともあります。

卵巣予備能の低下

卵巣予備能の低下は主には加齢が原因です。閉経は平均50歳で起きますが、実は20代で1,000人に1人以上、30代で100人に1人以上も閉経します。そして、40歳未満の全女性の3~4%が閉経します(文献1)。
その多くが原因不明ですが、卵巣に腫瘍ができたり、その卵巣腫瘍に対して手術を行ったり、若くして癌になり化学療法を行ったりすると、卵巣予備能が急激に低下することもあります(文献2)。

卵巣予備能は戻らない

低下してしまった卵巣予備能を戻すことはできません。そのため、低下していることがわかった場合には、時間との勝負になります。少ない卵子で積極的に不妊治療を行い、妊娠にたどりつくことが重要になります。

卵管因子

卵管因子は、主に卵管の通過性がない、もしくは狭くなっている場合をいいます。
ただ一般的な不妊スクリーニング検査では調べられない卵管因子もあり、卵管の通過性があるのに精子や卵子・受精卵の輸送ができない、もしくは卵管が他の臓器などに癒着している、などによって排卵した後の卵子を取り込めない卵管機能の障害もあります(文献3)。後者は、原因不明不妊症のひとつになります。
いずれの原因も、クラミジアなどの感染症が腟側から子宮・卵管を通ってお腹の中に入ろうをするのを防御するために起きることが多く、子宮内膜症やお腹の手術による腹腔内癒着による卵管閉塞もあります。

子宮因子

子宮因子は、主に着床障害と子宮頸管因子があります。

着床障害

着床障害になる病気には、子宮内膜ポリープ、子宮筋腫(粘膜下筋腫)などの子宮内腫瘍、子宮腔内癒着症(アッシャーマン症候群)や子宮形態異常(子宮奇形)のひとつの中隔(ちゅうかく)子宮が代表的です。
主には子宮内腔にある腫瘍や病変が着床を阻害し不妊症になります。どの症例も診断後には通常子宮鏡などによる手術療法を行う必要があります。
また子宮内に細菌やウィルスが入り込んで子宮内感染が起きることで発症する慢性子宮内膜炎も着床障害の原因になります。

子宮頸管因子

子宮頸管因子は、精子が子宮頸管にある粘液と免疫学的にうまく適合できず、子宮内へ進入できないため不妊症となります。排卵時期になると子宮頸管から頸管粘液が増えて、腟内の常在菌は子宮内に入らずに、精子だけが入れるようなメカニズムがあります。その排卵時期に性交をもち頸管粘液の中の精子の所見を顕微鏡でみる検査を「ヒューナーテスト」といいます。ヒューナーテストにより頸管因子の有無を確認します。
子宮頸管が癒着などで強く狭窄している場合も不妊原因になることがあります。原因として、初期の子宮頸がんなどで子宮頸部を部分的に切除する円錐切除術が挙げられますが、原因がわからない場合も多いです。

子宮内膜症

子宮内膜症は腹腔内の子宮以外の部分に子宮内膜に似た病変ができて、それがお腹の中で癒着などを引き起こし、生理痛を重くしたり、慢性的にお腹が痛くなったりする病気です。
子宮内膜症は、卵巣にできると病変の中に血液が溜まり、時間がたつとドロドロのチョコレートペーストのようになるため、よく卵巣チョコレート嚢胞といわれます。その卵巣チョコレート嚢胞ができると、卵巣がダメージを受けて卵巣予備能が低下します(文献4)。またお腹の中に癒着などができ、卵管などを巻き込むと卵管機能が低下します。さらに研究レベルのデータですが、子宮内膜症細胞が精子に触れると精子運動障害になり、また受精の段階で子宮内膜症細胞があると受精障害になることがわかっています(文献5)。
子宮内膜症は、月経ごとに増悪する病気で、妊娠し月経が止まることで改善することも多く、不妊治療で少しでも早くに妊娠することが子宮内膜症の治療にもなります。

男性因子

男性不妊症は、造られる精子に異常を認める造精機能障害、精子の通り道に障害のある精路障害、性交に問題がある性機能障害の3つに分けられます。

男性不妊症の不妊原因

造精機能障害

造精機能障害は、精液検査により精子数が減少した乏精子症や精子のない無精子症、精子の運動率が低下する精子無力症、正常形態の精子が少ない精子奇形症があります。いずれも正常によく運動する精子の数が低下しているため、卵管の中で待っている卵子にたどりつけない、もしくは卵管内で受精できず不妊症となります。

精路障害

精路障害は精子を運ぶ精管が障害され、完全な精路通過障害は無精子症になり(閉塞性無精子症)、精路が狭窄している場合には、乏精子症になり不妊症になります。

性機能障害

性機能障害には、勃起不全と性交障害があり、後者ではマスターベーションは可能ですが性交が不可能な場合と、また性交が可能ですが射精に至らない場合があります。
性交障害はストレスや疲労、飲酒、加齢が原因ですが、近年は若年化しつつあり、若い世代での性交障害も珍しくなくなっています。

免疫因子

免疫性不妊症はその診断が難しく、多くが原因不明不妊症に含まれています。代表的な女性の免疫性不妊症は、精子に対する抗体ができてしまう抗精子抗体です。
抗精子抗体があると、精子が子宮頸管を通ることができない子宮頸管通過障害や、抗精子抗体の抗体価が非常に高いと受精ができない受精障害になります(文献6)。男性においても抗精子抗体の存在が報告されており、乏精子症や無精子症の原因となります(文献7)。
また妊娠における重要な免疫機構であるヘルパーT細胞(Th細胞)由来の免疫因子が多く報告されています。Th細胞には、主にはTh1細胞とTh2細胞があります。
妊娠においては女性が半分男性から由来する受精卵を受け入れなければいけないため主にTh2細胞が優位になります(Th1細胞が優位だと外的因子を免疫学的に拒絶します)。このヘルパーT細胞のバランスが崩れ、Th1細胞が優位になると、受精卵や胎児に対する免疫拒絶を認めることが着床を阻害する、もしくは妊娠後の流産と関与することが報告されています(文献8)。

原因不明不妊症

原因不明不妊症は、不妊原因がないため不妊治療しなくても自然妊娠できると思ってしまう方もいるかもしれません。原因不明不妊症は、不妊原因がないのではなく検査が不可能な原因があることが多いです(文献9)。
精査ができない不妊原因には、卵管通過性のある卵管機能障害、受精障害、子宮内病変のない着床障害、などが考えられます。

原因不明不妊症で考えられる不妊原因

また子宮内膜症は卵巣のう腫(卵巣チョコレートのう胞)ができないと超音波検査などで通常診断はできません。原因不明不妊症の方の中には腹腔鏡などで腹腔内を覗いてみたら子宮内膜症が存在することもよくあります。子宮内膜症の不妊原因は、前述のとおり卵管機能障害や受精障害などが関係しています。
卵管機能障害や受精障害は、精子と卵子が受精できていないので体外受精や顕微授精に進むことで、通常妊娠が可能です。しかし、着床に影響する子宮内病変を認めない着床障害の場合、子宮内局所もしくは全身の免疫異常や子宮内感染などが関与する慢性子宮内膜炎などが原因の場合もあり、治療困難なことも多いです。
 
参考文献

1) Golezar S, et al: The global prevalence of primary ovarian insufficiency and early menopause: a meta-analysis. Climacteric 2019; 22: 403-11.

2) Fenton AJ: Premature ovarian insufficiency: Pathogenesis and management. J Midlife Health 2015; 6: 147-53.

3) Ikemoto Y, Kuroda K, et al: Tubal Function Abnormalities with Tubal Patency in Unexplained Infertility. In: Kuroda K, Brosens JJ, Quenby S, Takeda S, eds. Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage. Singapore: Springer Singapore 2018: 19-31.

4) Kuroda M, Kuroda K, et al: Histological assessment of impact of ovarian endometrioma and laparoscopic cystectomy on ovarian reserve. J Obstet Gynaecol Res 2012; 38: 1187-93.

5) Harada T, et al: Role of cytokines in endometriosis. Fertil Steril 2001; 76: 1-10.

6) Witkin SS, et al: Relation between antisperm antibodies and the rate of fertilization of human oocytes in vitro. J Assist Reprod Genet 1992; 9: 9-13.

7) Shibahara H, et al: Diversity of antisperm antibodies bound to sperm surface in male immunological infertility. Am J Reprod Immunol 2002; 47: 146-50.

8) Nakagawa K, Kuroda K, et al: Immunosuppression with Tacrolimus Improved Reproductive Outcome of Women with Repeated Implantation Failure and Elevated Peripheral Blood Th1/Th2 Cell Ratios. Am J Reprod Immunol 2015; 73: 353-61.

9) Kuroda K, Ochiai A: Unexplained Infertility: Treatment Strategy for Unexplained Infertility. In: Kuroda K, Brosens JJ, Quenby S, Takeda S, eds. Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage. Singapore: Springer Singapore 2018: 61-75.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?