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流産のリスク因子とは?

前回は「不育症」のリスク因子について取り上げました。

今回は、不育症まではいかなくても流産率を上げる流産のリスク因子について、ここではご紹介します。

①血栓性素因(プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、第XII因子欠乏症)

抗リン脂質抗体症候群以外にも流産率を上げる血栓にかかわる因子がいくつかあり、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、第XII因子欠乏症が挙げられます。いずれも抗リン脂質抗体症候群と一緒に扱われ、厚生労働省の不育症のリスク因子の報告でも含まれていますが、いずれも不育症ではなく流産のリスク因子になります。

②子宮内病変

子宮内に発生する病気として、子宮内膜ポリープや子宮筋腫(粘膜下筋腫)、子宮内癒着などが挙げられます。いずれも妊娠した場合に流産率を少し上げますが、その前に不妊症の原因になりますので、見つかった場合には、子宮鏡手術などで治療することをお勧めします。
また、慢性子宮内膜炎という子宮内に慢性的な炎症を伴う病気があります。これは妊娠における受精卵の子宮内への着床を阻害し、妊娠した場合でも流産の発症リスクを上昇させることが報告されています(文献1)。その多くが子宮内の細菌やウィルスによる感染ですが、一部は非感染性であり、その多くが子宮内膜ポリープとも関係しています(文献2)。この疾患はまだ妊娠に影響することがわかってから間もないため、今後報告が増えれば不育症のリスク因子になる可能性もあります。

③耐糖能異常・糖尿病

糖尿病や糖尿病予備軍と言われる耐糖能異常も流産のリスク因子になります。妊娠すると胎盤から分泌されるhCGというホルモンの影響で、糖尿病になりやすくなります。そのため、耐糖能異常やコントロールできていない糖尿病は、妊娠後に流産の発症リスクを上げます。後述しますが、肥満でも流産率を上げることがわかっていますので、肥満があれば妊娠前から適度なダイエットや栄養管理をすることも流産予防には重要です。糖尿病は家族性があるので、ご家族で糖尿病の方がいれば、特に精査をお勧めします。

④免疫異常

妊娠では、半分男性から由来する受精卵を拒絶せずに受け入れる免疫状態(免疫寛容)になる必要があります。その免疫状態が異常になれば、胚の拒絶につながり不妊や流産となる可能性があります。
その免疫にかかわるといわれているのが、NK(ナチュラルキラー)細胞やヘルパーT細胞という細胞です。NK細胞の妊娠への影響については、以前よりたくさん検討されてきましたが、現在も明確なエビデンスは確立していません(文献345)。ヘルパーT細胞、胎児・胎盤を攻撃するTh1細胞が減少して、Th2細胞が優位となり、これらのバランス異常が不妊や流産と関与していることがわかっています。不育症のリスク因子としては確立しておりませんが、2回以上流産を繰り返した女性において明らかにTh1/Th2細胞比が上昇することがわかっており、流産のリスク因子となります(文献6)。

⑤ビタミンD不足

栄養と妊娠力の関係についてはわかっていないことも多いのですが、バランスの取れた栄養摂取が妊娠力の改善に重要で、特にビタミンDは不妊や流産と強く関連していることがわかっています(文献78)。ビタミンDは、主に日光で増える栄養素で、体内のさまざまな部位で免疫機構を調節しています(文献9)。ビタミンDが不足している女性が、ビタミンDを十分にサプリメントで補うと、異常に上昇したTh1/Th2細胞比を正常化してくれることがわかっています(文献10)。

⑥葉酸不足

葉酸不足は、胎児奇形である二分脊椎や無脳症を含む神経管閉鎖障害(Neural tube defect;NTD)の発症や流産・死産のリスクを上げることがわかっています。その原因であるホモシステインというアミノ酸の代謝にかかわるMTHFRという酵素の遺伝子変異は、日本人の6割以上がもっていることがわかっています(文献1112)。そのため、NTDの発症や流産・死産を予防するために、葉酸のサプリメントが必要です。
葉酸の内服量は、通常1日400~800μgが推奨されており、私の研究でも1日800μgの葉酸を含むサプリメント(エレビット®️)を1カ月間摂取すれば、MTHFRの遺伝子異常があっても、すべての患者さんでNTDの発症リスクを最低限まで下げることができました(文献12)。葉酸を含むマルチビタミンサプリメントを内服すると、流産率を低下し、特に妊娠が継続したあとの死産率を低下することがわかっています(文献13)。

⑦生活習慣

普段の生活の中にも流産率を上げる因子があり、生活習慣を見直すだけで、流産予防ができる可能性があります。ここでは喫煙、アルコール、カフェイン、肥満、ストレスについて説明します。

1.5〜2倍に流産率を上昇させる生活習慣

喫煙

喫煙は、妊娠にとって百害あって一利なしです。流産に限らず、異所性(子宮外)妊娠、胎児発育遅延、早産、死産、乳幼児突然死症候群などのリスクを上げ、妊娠や生まれてくる新生児に悪影響を及ぼすことがわかっています(文献14)。
タバコの煙にはさまざまな有毒化学物質が含まれており、特にニコチンは妊娠中に吸入すると、容易に胎盤を通過し胎児に到達します。母親が妊娠初期に喫煙をしている場合、流産のリスクは2倍に増加することがわかっています(文献15)。さらに、父親の受動喫煙も関係していることがわかっており、1日に20本以上のタバコを吸う父親と共に暮らす女性の妊娠初期の流産率は1.8倍上がります(文献16)。妊娠を希望したら妊娠前から夫婦の禁煙をお勧めします。

アルコール

アルコール摂取に関しては、妊娠前の適度な飲酒は問題ありませんが、妊娠後の週1回のアルコール摂取は流産率が1.5倍上がります(文献17)。またアルコール摂取を続けると妊娠後期(妊娠15〜27週)の胎児死亡率が、1~2杯/日で2倍、3杯以上/日で3.5倍上がります(文献18)。妊娠後には禁酒が望ましいです。

カフェイン

カフェイン摂取に関しても適度なら妊娠前は問題ありません。ただ妊娠後、カフェイン150~349mg/日(コーヒー約1~2.5杯/日)で1.2倍、350~699mg/日(コーヒー約2.5~5杯/日)で1.4倍、700mg以上/日(コーヒー5杯以上/日)で1.7倍上がります(文献19)。
またコーヒーだけではなく、エナジードリンクも1缶もしくは1瓶飲むとコーヒーの1~1.5杯分のカフェインが入っていますので、気を付けてください。妊娠後は流産予防のためにデカフェのコーヒーやカフェインレスの飲み物にすることをお勧めします。

肥満

肥満は流産と強く関係していることがわかっています。多くの臨床研究を集めた解析では、肥満の女性の流産率は13.6%で、BMI(体重kg÷身長m×身長m)が正常な女性の流産率、10.7%)と比較し有意に高く、さらに不育症となる可能性が高いことがわかっています(文献20)。
肥満女性の体重適正化によって、流産率が減少するかを確認した適切な臨床研究はないのですが、体重減少により内分泌異常の正常化や排卵障害の改善、不妊治療後の妊娠率の上昇などによって、妊娠率が上昇することはわかっています(文献21)。肥満の女性は、ダイエットなどで妊娠前から体重の適正化が、安全に出産するためにも重要になります。

ストレス

ストレスは流産と強くかかわることがわかっています(文献2223)。流産は女性にとっては非常に大きな出来事で、特に流産を繰り返す不育症の女性は、妊娠の喜びとその後の子供を失う悲しみでジェットコースターのような急激な感情の変化が生まれます。しばしば絶望感、自己喪失感、無力感を感じ、うつ病、不安障害、不眠症につながることもあります。実際、流産を経験した女性の約50%は、流産から数週間から数カ月間うつ病や不安障害などを経験していることがわかっています(文献24)。
不育症の方は、将来の妊娠・出産に対して、強い不安を感じ暗いトンネルに中にいるように感じていることがあります。その不安によるストレスが流産リスクを上昇させるという悪循環につながる可能性があります。この連載で妊娠にかかわる正しい知識を身につけて、みなさんの将来の妊娠に対する不安が少しでも取り除ければ、流産率が下がると思っています。

ストレスの流産への影響

⑧女性の年齢

女性の加齢とともに流産率は上昇します。30代前半に10~15%であった流産率が、40歳で35~40%、45歳で60%以上になります(文献25)。40歳を超えるような高齢の不育症女性は、不妊治療、特に体外受精などで少しでも若いうちに妊娠することも出産にたどりつくために重要です。

参考文献
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