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妊娠前からできること プレコンセプションケア②(ビタミンD、生活習慣について)

 前回、妊娠前から将来生まれてくる子のために健康状態を整える準備「プレコンセプションケア(preconception care)」の観点から、葉酸と体重について触れました。
今回はその続きで、葉酸と並んで重要なビタミンD、そして日々の食事などの生活習慣について触れてみたいと思います。

ビタミンD

免疫コントロールにも重要

ビタミンDは、カルシウムとともに骨をつくるために重要なビタミンとして有名なのですが、免疫をコントロールするのにも大変重要です。ビタミンDが不足すると、喘息やアトピーなどのアレルギーに伴う病気の発症率や、最近ではインフルエンザや新型コロナウィルスの感染率が上がることが報告されています(文献1)。

妊婦の免疫は強すぎてはいけない?

よく風邪などをひかないように「免疫を強くする」といいますが、妊娠にとっては半分男性から由来する受精卵を女性が受け入れるうえで、免疫は強すぎず適度であることが重要です。
ビタミンDは、妊娠にかかわるヘルパーT細胞やNK(Natural killer)細胞などのさまざまな免疫担当細胞を正常化する役割があります。そのためビタミンDが不足すると、妊娠において不妊症や流産、さらには妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などの妊娠合併症と強くかかわっていることがわかっています(文献23)。

ビタミンDは日光浴から得られる栄養素

ここで2つの報告を筆者が組み合わせた図をお示しします。
ひとつは英国の妊婦のビタミンDの季節的な変化です(文献4)。ヨーロッパに行ったことがある方ならわかると思うのですが、ヨーロッパは日本より季節的な日照時間の差が大きく、夏は夜9時くらいまで明るいのに対して冬は午後3時くらいになると暗くなってしまいます。ビタミンDは日光から得ることができる栄養素なので、夏にビタミンDはピークになります。
もうひとつの報告は英国の出生数の季節的な変化です(文献5)。8~10カ月後の春に出産数のピークがあります。これはおそらくビタミンDが関係しているのではないかといわれています。

妊婦のビタミンDの季節的変化(イギリス)     出生数の季節的変化(イギリス)
ビタミンDと出生数の季節的変化

日本の不妊症女性の8割以上がビタミンD不足!

筆者らが日本人の不妊症女性でビタミンDの充足率を確認すると、実に87.3%はビタミンD不足であることがわかりました(文献6)。最近では、女性は皮膚のシミなどの原因になる紫外線対策をしっかり行っていて、ファンデーションなどにも「UVカット」と書いてあるものが多いので、当然の結果なのかもしれません。また、最近は街に人が増えているものの、新型コロナウィルスが蔓延し、外出をあまりしていない人も多いので、さらにビタミンD不足が増えていることが予想されます。

日本人の不妊症女性におけるビタミンDサプリメントの充足率
不妊症女性の87.3%がビタミンD不足(文献6)

日本人ビタミンD摂取量の目安

ビタミンDの摂取量は、厚生労働省は1日およそ340IU(8.5μg)を推奨しています(文献7)。おそらく日光でも摂取できることを想定してこの基準を作成していると思います。
筆者らは不妊症で来院された女性でビタミンDが不足している方に、ビタミンDサプリメントを1日1,000IU(25μg)、3カ月間摂取していただき、その変化を確認しました。するとビタミンDが充足した方が48%で、他の方は不足したままでした。
充足した方は妊娠にかかわるヘルパーT細胞の免疫状態がよく改善されていたのに対し、不足したままだった方はほとんど改善されませんでした。
基準として、採血で貯蔵型ビタミンDである血清25OHビタミンDを測定したとき、20~30ng/mLと軽度に低下している場合は1日1,000IU(25μg)のビタミンDサプリメントの摂取を、そして20ng/mL未満と高度に不足している場合は、1日2,000IU(50μg)の摂取をお勧めしています。

妊婦に向けて推奨するビタミンDのサプリメント量

摂取のしすぎには注意して

通常、1日2,000IU(50μg)摂取してもまず過剰症になることはありません。ただ2,000IU(50μg)よりも多くのサプリメントを摂取すると免疫状態が崩れることもありますので、お気を付けください。

生活習慣

タバコはNGです!

生活習慣の中にも妊娠に影響するものがあります。例えばタバコ、これは妊娠前には絶対にやめるべきです。卵巣機能を低下させることは明らかですし、妊娠後の流産率や死産率も上げます(文献8)。パートナーがタバコを吸っていて、その副流煙を定期的に吸う環境でも流産率が上がりますので(文献9)、妊娠を考えたらパートナーも禁煙することをお勧めします。

では、お酒は?

アルコール摂取は適度であれば、妊娠前は大丈夫です。もちろん、過剰な飲酒は妊娠にかかわらずよくありません。
もし妊娠後に週2回以上のアルコールを摂取する機会があると、流産率が約2倍上がります(文献10)。妊娠後は必ず控えましょう。
妊娠中の喫煙率および飲酒率は低下傾向にありますが、2017年にそれぞれ2.7%と1.2%です。生まれてくる子のことを考え、特に妊娠後は控えましょう。

カフェインの摂取は?

カフェイン摂取も妊娠前は大丈夫ですが、妊娠後は控えましょう。妊娠後にコーヒーを1日2~3杯飲むとやはり流産率が約2倍上がります(文献11)。

ストレス:不確定な情報は気にしないで!

最後にストレスです。ストレスも不妊や流産のリスクを上げることがわかっています(文献1213)。一部の不妊症や不育症の女性は、将来の妊娠・出産に対して、強い不安を感じ暗いトンネルになかにいるように感じていることがあります。その不安によるストレスが不妊や流産のリスクをさらに上昇させることがあり、悪循環になることがあります。
不妊症や流産に関して、インターネット上ではいろいろな情報が流れており、間違った情報もたくさんあります。できる限り医学的に信用できる情報にアクセスしていただき(当コラムは医学的に正しい情報の発信に努めています!)、わからないことは適宜専門の産婦人科医や医療スタッフにしっかり相談してください。
またパートナーのサポートは非常に重要です。不妊治療・不育症治療は女性ひとりで行うものではありません。夫婦(カップル)で行うものです。ストレスを感じている女性をサポートし、ときに気分転換することも、妊娠への近道になるかもしれません。

プレコンセプションケアの要点

前回のコラムも含め、妊娠するためのプレコンセプションケアの要点は以下のとおりです。

①妊娠前から主食、主菜、副菜をバランスよくきちんと摂る(文献14,農林水産省:食事バランスガイドを参照してください)。

②低体重はバランスのよい食事でBMI 18.5~25を目指し、肥満の場合には適度な運動やダイエットを推奨する。

③葉酸は400~800μg/日、ビタミンDは25~50μg/日を含めたマルチビタミンを摂取する。

④妊娠前には禁煙をし、妊娠後のアルコール、カフェイン摂取を避ける。

⑤妊娠に向けて過度なストレスは避け、妊娠のことばかり考えすぎているとしたら、ときには気分転換もする。

 

将来生まれてくる子のために、しっかり準備をしていきましょう!


参考文献

1.     Ilie PC, et al. The role of vitamin D in the prevention of coronavirus disease 2019 infection and mortality. Aging Clin Exp Res 2020;32:1195-8.

2.     Zhang MX, et al. Vitamin D Deficiency Increases the Risk of Gestational Diabetes Mellitus: A Meta-Analysis of Observational Studies. Nutrients 2015;7:8366-75.

3.     Mirzakhani H, et al. Early pregnancy vitamin D status and risk of preeclampsia. J Clin Invest 2016;126:4702-15.

4.     Emmerson AJB, et al. Vitamin D status of White pregnant women and infants at birth and 4 months in North West England: A cohort study. Matern Child Nutr 2018;14.

5.     Lam DA, Miron JA. Global patterns of seasonal variation in human fertility. Ann N Y Acad Sci 1994;709:9-28.

6.     Ikemoto Y, Kuroda K, et al. Vitamin D regulates maternal T-helper cytokine production in infertile women. Nutrients. 2018;10(7):902.

7.     厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2020年版)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html)

8.     Leung LW, Davies GA. Smoking Cessation Strategies in Pregnancy. J Obstet Gynaecol Can 2015;37:791-7.

9.     Venners SA, et al. Paternal smoking and pregnancy loss: a prospective study using a biomarker of pregnancy. Am J Epidemiol 2004;159:993-1001.

10.   Kesmodel U, et al. Moderate alcohol intake in pregnancy and the risk of spontaneous abortion. Alcohol Alcohol 2002;37:87-92.

11.   Chen LW, et al. Maternal caffeine intake during pregnancy and risk of pregnancy loss: a categorical and dose-response meta-analysis of prospective studies. Public Health Nutr 2016;19:1233-44.

12.   Li W, et al. Relationship between psychological stress and recurrent miscarriage. Reprod Biomed Online 2012;25:180-9.

13.   Sugiura-Ogasawara M, et al. Depression as a potential causal factor in subsequent miscarriage in recurrent spontaneous aborters. Hum Reprod 2002;17:2580-4.

14.   農林水産省. 食事バランスガイド(https://www.maff.go.jp/j/balance_guide/

 

 

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