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時男さんの物語が教えてくれた精神病棟の許されざる実態           ~奪われた途轍もなく長い時間~

大学院での専攻は医療福祉ジャーナリズムなので、様々な社会問題を取り扱います。「社会的入院」についてご存知でしょうか。
入院治療が必要ないのに、出先がなく、入院をせざるを得ない状態のことで、日本に約7万もいらっしゃいます(2004年時点ですがあまり改善がないようです)。日本の医療制度・社会が生んでしまった衝撃の実態です。

ハートネットTV
5月14日に、で以下の番組のディレクターがご登壇くださいました。ぜひ以下の動画を見ていただければと思います。

私のレポート
講義では毎回、レポート(演者への手紙のような形式です)を提出します。以下は、昨日ようやく完成したものです。
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時男さんは、なぜそんなに前向きでいられるのでしょうか?なぜ恨みの言葉が一つとして出てこないのでしょうか?
40年もの長い間、自由を奪われた悲劇にショックを受ける一方で、純粋さに何とも言えない温かみも込みあげてきて、数日間時男さんのことが頭から離れませんでした。

東日本大震災をきっかけに全てが動き出し、番組制作者と時男さんとが奇跡的に繋がり、弟さんとの再会という絶妙なタイミングは、時男さんを通して精神病棟の患者さんの許されざる実情を “今こそ社会が知るとき”と、何か見えない力が働いたのではと感じずにはおられません。もちろんそこには、「当事者の物語をひろいあげる発掘の人になりたい」という番組制作者の強い意志があってこそだと思います。

46年入院後に退院した86歳の男性「一人歩きできる。病院ではできない。生きてきて幸せだな。ようやく幸せをつかんだ。」、19歳から45年入院後に退院した男性「よく治さないと家に帰れない。長かったなあ。あ~~、長かった長かったぁ」と、同じ境遇の方々の生の声が次々に届きます。
日本社会が奪った精神病患者さんの時間は途轍もなく長いものになってしまいました。

今なお、何万人もの方々が何十年もの単位で、社会的入院から脱することができない現状今まで知らずにおりました。
世界の精神科病床の約2割もが集中する精神科病院大国となってしまった日本。社会的入院を生んでしまった明治時代からの歴史的背景と今も尾を引く問題の数々は、番組の中で浮き彫りにされました。
昭和中期にとった医療制度の欠陥が精神科病院乱立を招いてしまったとしても、本来退院できる患者さんが社会に戻されずに、その背景に病院経営の問題もある実態は、許されない人権問題です。番組は、このことを多くの人が知るきっかけになりました。
時男さんという実在する人物の物語が映像から伝わるインパクトは、テレビメディアだからこそで、国の対策改善の後押しとなり、大きな拍手を贈りたいです(👏👏👏)。

江戸や明治時代は精神疾患の病態がわかっていなかったため、監禁して隔離する状況を生みました。本人だけでなく家族への差別も相当に強かったと想像します。現在は治療薬もあり、病態も随分と解明されてきました。しかし精神的な病気、とくに統合失調症に対しては、まだ強い差別感情も残っているように思います。自分の中にも無いと言い切ません。今では、うつ病が大分身近になったように、統合失調症への理解も浸透することが必要だと思いました。
番組が放映され、厚生労働省で具体的方策に対する検討会が開催された2014年から6年経過し、期待する効果は出ていないようです。精神疾患の医療体制については現在も見直しが検討されており、今後の動きに注目して行きたいと思っています。

グループホームに植えた1本の小さな柿の木。ようやく出てきた小さな芽に自身を照らしあわせ、「社会に再び出た、スタートだね。」という声が、深く心に刺さっています。時男さんの物語は、 “自由に社会の中で生きることは幸せなんだ”ということまで、気づかせてくれました。

時男さんを追った続編が出ることを心待ちにしております。

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